ひらかれしもの 第二十三話 「ハートフル・コース」
・飛鳥蛍一(あすか けいいち)♂:17歳。善部町に越してきた高校二年生。
雛菊と同じクラス。ちょっとヘタレな、ごく普通の男の子。
雛菊と出会い、【詠姫】の詠唱者の一人となる。
・音羽雛菊(おとわ ひなぎく)♀:17歳。善部高校二年。クラスではお嬢様を演じ、
家族と蛍一の前でのみ、態度が急変する。
色魔と呼ばれる霊・妖怪を封じる【詠姫】の三代目。
・音羽葉桜(おとわ はざくら)♀:16歳。雛菊の妹。善部高校一年。
活発で男っぽい性格で、一人称は「僕」。
詠唱者の第一人者で、雛菊をサポートするしっかり者。
霊力が高く、相手の属性や霊能度を把握する能力がある。
・安部月白(あべ つきしろ)♂:27歳。雛菊・葉桜の母親・沙尭の弟。つまり叔父にあたる。
女の人との色恋話が多く、女遊びが激しい。
その言動から、雛菊・葉桜には相手にされないことが多い。
陰陽道に似た技を使い、相手を翻弄する能力を持つ。
詠唱者の一人。
・音羽大喬(おとわ ひろたか)♂:37歳。雛菊・葉桜の父親。
ハイテンションなオカマ。これでも神社の神主。占いが得意。
・北原名子(きたはら なこ)♀:17歳。善部高校二年生。雛菊の友達。
関西弁を話す、元気で活発なムードメーカー的存在。
配役比率 ♂3:♀3=六名
※今回の話のみ、大喬はN(ナレ)になっております。
雛菊M:あーもう!
なんであたし、こんな“らしく”ないことしてんのかしら。
べ、別に考えてないわよ!?アイツのことなんて・・・
深い意味なんて・・・全然ないんだからっ!///
―平日。音羽家。
大喬N:どうも~♪ みんなのアイドル・・・もとい、みんなのお母さんの大喬よ♪
今日はなにやら、さくらと雛ちゃんが朝から騒がしいの。
一体、ガッシャンガッシャン何をやってるのかしら?
台所から声がするわね・・・ちょっと行ってみましょうっ☆
葉桜:「ちょ・・・姉さんっ!それ、違う!」
雛菊:「え?これがベーキングパウダーじゃないの?」
葉桜:「それは味の素!ビンの形でわかるでしょ!」
雛菊:「う・・・。
わ、わかってたわよ、そんなの!
ちょっと、入れたらおいしくなるかなって思っただけっ///」
葉桜:「ならないよ;
・・・姉さん、間違いは素直に認めような?」
雛菊:「う、うるさいっ!///
・・・で、次は?」
葉桜:「次は・・・えっと。卵を二個入れて、泡だて器で混ぜる」
(料理本を持ち、音読する葉桜)
雛菊:「よし、卵ね・・・」
<グシャ>
雛菊:「ああっ!か、殻まで入っちゃった;」
葉桜:「姉さ~~ん;」
雛菊:「ま、まぁいいじゃない!一応は入ったんだから!」
大喬N:あらあら・・・。
どうやら二人は、お菓子を作っているみたいね。
にしても、随分と先行きが不安だけれど・・・
本当はアタシが手伝ってあげられればいいんだけど・・・・
ホラ、この雰囲気、男が入れそうな感じじゃないじゃない?
え?“アンタは男じゃなくてオカマでしょ”って?
いや~ね!ハートは乙女でも、体は男なんだからしょうがないでしょ☆
って、そういう問題じゃないのよ!!
・・・で、まぁ、事の始まり。
二人がなんでお菓子を作ってるかというと・・・
―回想・朝。
(一人、台所で作業をしている葉桜)
雛菊:「おはよ・・・って、朝から何やってるの?」
葉桜:「わぁっ!姉さんっ!!」
(慌てて鍋をひっくりかえす)
雛菊:「ちょっと・・・だ、大丈夫?」
葉桜:「あちゃ・・・またやり直しだぁ;」
雛菊:「一体何をやってんのよ」
葉桜:「え・・・い、いや。月白兄さんが・・・」
雛菊:「月白お兄さん?」
葉桜:「朝起こしに行ったら、だいぶ傷も治ってきて、
おなかすいたって言うから、その・・・なんか作ろうかと・・・///」
雛菊:「そぉ」
葉桜:「今日、一年生は遠足の振替で休みだから・・・。
こんな早くに父さん起こすのも悪いし、
・・・ぼ、僕が作ってあげるって、言ったんだ」
雛菊:「へぇー・・・」
(意味ありげに葉桜をじっと見つめる雛菊)
葉桜:「な、何っ?」
雛菊:「いや・・・あんたもちょっとは素直になってきたなぁと思っただけ♪
・・・あたしは朝の修行だから。じゃ、がんばって」
葉桜:「待った、姉さんっ!!」
(がしっと、雛菊の腕をつかむ)
雛菊:「な、何よっ」
葉桜:「その・・・姉さんも何か作る気ない?
そうだ!蛍兄さんに!!」
雛菊:「はぁ!?
な、なんであたしがあんなヤツのために・・・!」
葉桜:「姉さん、いつもお世話になりっぱなしでしょ!
そーだ!兄さんね、意外と甘いもの好きなんだって!
お菓子・・・クッキーとか、どぉ!?」
雛菊:「な、何言って・・・」
葉桜:「正直、今まで父さんに料理まかせっきりだったから、
僕一人じゃ不安なんだよ~!
ねっ!僕を助けると思って!!」
雛菊:「そんなこと言われても・・・あたし、修行があるしっ」
葉桜:「修行は帰ってきてからでもいいじゃん!
姉さん!一生のお願い!!」
雛菊:「うぅ・・・」
大喬N:まぁこんな感じで、雛ちゃんもさくらに巻き込まれて、
蛍一クンのために、クッキーを作ることになったみたい。
それにしても大丈夫かしら?
あぁ・・・お母さん心配だワ~!
っと、もう焼きに入るみたいね。
葉桜:「これでよし、っと・・・。
あとは焼きあがるのを待つだけだな♪
・・・・・姉さん?」
雛菊:「なんか・・・ものすごく疲れたわ;
毎日これをやってるお父さんはスゴイわね、ほんと」
葉桜:「父さんは、こんなに食器ひっくりかえしたり、
材料間違えたりしないよ;
まぁ・・・ある意味、スゴイことはスゴイかもね・・・姉さんも」
雛菊:「う゛・・・痛いトコ一気に突かれたわね;
でも今日は、お父さんの偉大さが身にしみるわ」
大喬N:あらァ♪嬉しいこと言ってくれるじゃない?
ま、それは隣りに置いといて。
このクッキー、どうするつもりなのかしら?
葉桜:「よーし!焼きあがった!」
雛菊:「見た目は・・・そんなに悪くないわね。
・・・なんかちょっと、変なニオイするけど;」
葉桜:「大丈夫大丈夫!
クッキーなんて、大抵そんなニオイだって!」
大喬N:・・・本当にそれ、大丈夫?;
雛菊:「で、これ、ホントにアスカにあげるの・・・?」
葉桜:「当ったり前じゃん!
せっかく早起きして作ったのにー!」
雛菊:「いや、だからあたしは修行を・・・!
大体、あんたがあげればいいんじゃないの?
お世話になってるのは同じでしょ!」
葉桜:「それじゃ意味がないんだよ~」
雛菊:「え?」
葉桜:「あ、えっと・・・
ほ、ほら!僕より姉さんのが、蛍兄さんにお世話になってるでしょ!?
それに僕、あんまり二年生の棟に行かないし!」
雛菊:「そ、そうだけど・・・」
葉桜:「兄さん喜ぶと思うよ?ねっ!」
雛菊:「そ、そうかなぁ・・・?」
葉桜:「そうそう♪
さ、姉さん!そろそろ学校行かないと!」
(そう言って、いそいそとまた何かを作り出す葉桜)
雛菊:「ん、わかった。いってきます」
大喬N:・・・かくして、
雛ちゃんは学校に、作ったクッキーを持っていったわけなんだけど・・・
結局、さくらの手伝いなんてしてないじゃないのォ。
雛ちゃんを参加させる意味はあったのかしら?;
葉桜:「よしよし・・・作戦成功!
って、あ。・・・僕もがんばらなきゃなぁ;」
大喬N:まぁ~ったく。こんなに台所散らかして。
まだまだ、二人がお嫁に行くのは先のようね;
お父さん、嬉しいんだか悲しいんだかわかんないわァ~;
葉桜:「うわっ!
父さん、いつからそこにいたの!?」
大喬N:いやーね!ずっとここで見てたデショ?
葉桜:「全然気づかなかったよ!?
っていうか・・・誰に向かって喋ってるの?;」
大喬N:忍法・隠れ身の術っ!ってね☆
誰って・・・ウフフv ひ・み・つ♪
今日はお父さん、そういう役回りなのよん☆
葉桜:「あっそぉ;
ま、なんでもいいや!
父さん、丁度いいから手伝って♪」
大喬N:まったく・・・結局アタシが手伝うことになるのね;
こっちはいいとして・・・
学校に行った雛ちゃんの“アレ”は大丈夫かしらねぇ・・・?
―善部高校・二年一組前。
雛菊:(・・・重い。重いわ!
なんでこんなちっぽけなモノだけで、こんなに鞄が重く感じるの!?
べ、別に深い意味ない!ないわよ、うん!
あーもう、なんでこんなことで緊張してるのよぉー!
よし・・・・・・・いざっ!)
(思い切って扉を開ける雛菊。するとすぐ目の前に蛍一が立っていた)
蛍一:「おぉ、雛菊。おはよ」
雛菊:「っっ!!??」
蛍一:「雛菊?」
雛菊:「なっ・・・なんでアンタがこんなとこ立ってるのよっ!」
雛菊:(ビックリした・・・。
もう・・・タイミング悪すぎよ;)
(一言、文句を言って、急いで席につく雛菊)
―音羽家。月白の自室。
葉桜:「兄さん?入るよ」
(コンコンとノックをして、部屋へ入る葉桜)
葉桜:「ってアレ・・・また寝ちゃったの?」
月白:「・・・」
(目を閉じて、静かに寝息を立てている月白)
葉桜:(うっわ・・・月白兄さんの寝顔見るの、初めてかも;
こんな風に無防備に寝てるなんて・・・珍しいー)
(じっと、月白の寝顔を見つめる)
葉桜:(普段は、僕が起こす前に起きてるもんね。
あ・・・でも、寝てるんだったら、これは要らないかな;)
(葉桜は、持ってきた小鍋とお盆を床へ置く)
葉桜:「・・・ホント、むかつくくらい綺麗な顔・・・・」
(小声でそういうと、そっと前髪に手を伸ばし、またその手を引っ込めた)
葉桜:「な、何やってんだ僕は・・・」
月白:「そんなに俺に触りたいの?」
葉桜:「ぎゃっっ!!」
(引っ込めた葉桜の手を、簡単に掴んで微笑む月白)
葉桜:「な、な、な・・・!
お、起きてたの!!??」
月白:「あぁ」
葉桜:「いつから!?」
月白:「“兄さん、入るよ?”から」
葉桜:「最初っからじゃん!
だ、騙したぁ~!!」
月白:「まぁ、そう怒るなよ。
で?朝餉(あさげ)の準備はできたのかい?
葉桜:「まぁね・・・・ハイ」
(そっと、鍋の蓋を開ける)
葉桜:「全然そうは見えないけど、一応、兄さんもまだ怪我人だし、
おかゆ的なものを作ってみました」
月白:「何か引っかかるが・・・まぁ許そう。
・・・で?もちろん、食べさせてくれるんだろう?」
葉桜:「だ、誰がそんなことっ!!!///」
月白:「おや。俺を怪我人に仕立て上げたのは誰かな?」
葉桜:「絶対お断りっ!大体、手は動くでしょっ!」
月白:「・・・朝から夜這いしようとしたくせに(ぼそり)」
葉桜:「し、してないっっ!!/////
・・・もう、いいっ!
自分で勝手に食べて!僕は知らない!」
(羞恥のあまり、部屋を出ようとする葉桜)
月白:「待った!」
(言って葉桜を静止させ、そのおかゆ的なモノを口にする月白)
月白:「うん・・・美味いよ」
葉桜:「ホント!?」
月白:「あぁ。お前の味がする」
葉桜:「ばっ・・・バカッ!!!////」
(叫んで、思いっきりドアを閉め、出て行く葉桜)
月白:「・・・少しからかい過ぎたか」
月白:(しかし・・・ここまで上手くいったのは、義兄さんが手伝ったからだろうな。
ま、言わないでおくか)
―善部高校、廊下。放課後。
雛菊:「あ、アスカっ!」
(帰ろうとする蛍一に、声をかける雛菊)
蛍一:「ん?どーした?」
雛菊:「きょ、今日はその・・・あたし、一緒に帰ってあげてもいいわよっ?///」
蛍一:「へ?」
雛菊:「あ、あたしがボディガードやってあげるって言ってるの!」
蛍一:「あぁ・・・。
悪い。今日はちょっと・・・家族で出かける用があるんだ。
だから俺、先に帰るな」
雛菊:「・・・あ、そう・・・・」
蛍一:「だから、ボディガードは今度頼むわ」
雛菊:「あたしばっか当てにしてないで、
そろそろ自分の身くらい、自分で守ったら?」
蛍一:「お前・・・さっきと言ってること違うぞ;」
雛菊:「う、うるさいっ///
そうだ・・・こ、コレ」
(ラッピングされた小さな袋を渡す雛菊)
蛍一:「・・・何、これ?」
雛菊:「い、いいから黙って受け取りなさい!
あんたには一応、お世話になってるし。
言っとくけど、深い意味なんて、全然ないんだからねっ!」
蛍一:「はぁ・・・ど、どうも」
雛菊:「そ、それだけ! じゃあね!」
(全速力で蛍一の前を去る雛菊)
蛍一:「・・・」
(その包みをじっと見つめて、微笑む蛍一)
蛍一:「アイツ・・・知ってたのかな・・・?」
―教室。
雛菊:「・・・なんか、ムダに緊張したわ;」
名子:「ひ~な♪ ・・・見てたでぇーv」
雛菊:「ふぇっ!?き、北原さんっ?」
(後ろから、上機嫌に声をかけてくる名子)
名子:「なんやなんや、見せつけちゃって~このこの~♪
ね、何渡したん?」
雛菊:(バッチリ見られてた・・・しかも、よりによって北原さんに;)
雛菊:「べ、別に・・・何も;」
名子:「そんなぁ~。それは二人だけの秘密っちゅーことですかぁ?
ま、エエわ。
しっかし、上手く渡せてよかったな?」
雛菊:「へ?」
名子:「今日、飛鳥くんの誕生日やろ?
それでひな、朝からソワソワしてたんちゃうん?」
雛菊:「ぁ・・・誕生日、だったんだ・・・アイツ」
名子:「おろ?・・・知らなかったん?
ウチ、てっきりそうかと・・・・
ま、まぁエエやん!結果オーライっちゅーことで♪」
雛菊:「そうですね。
・・・教えてくれて、ありがとうございます。北原さん」
名子:「だから“名子”でエエよって・・・。
なぁ・・・ひな?」
雛菊:「?」
名子:「・・・自分の気持ちにはな、ちゃんと素直になった方がエエで」
雛菊:「え・・・?」
名子:「そうせんと、後でいっぱいヤな思いすんねん。
“後悔先に立たず”ってな。・・・そのまんまやねんけど」
雛菊:「北原さん・・・?何か・・・」
名子:「へ?
・・・ないよ。なんもない。
ただな・・・ちょっと、ひなが寂しいんじゃないかと思て。
ご、ごめん!変なこと言うたな、ウチ」
雛菊:「ありがとう・・・名子さん」
名子:「えっ?あ、名前・・・」
雛菊:「今日は帰ります。・・・本当に、お気遣い感謝します」
名子:「ん・・・また明日な、ひな」
―飛鳥家。夜。
蛍一:「さーて。雛菊は何をくれたのかなっと・・・」
(もらった包みを開けてみる蛍一)
蛍一:「うっ・・・なんか、変なニオイが・・・。
・・・クッキー?(ぱくっ)
・・・・・・・・・・・・ぐっ」(倒れる)
<バターン!!!>
蛍一:(何これ・・・しょっぱいうえに、異様な感触が・・・
わ、悪い雛菊・・・俺、食べられそうに・・・ない・・・)
大喬N:あらら・・・・。
どうやら、砂糖と塩を間違えて、
さらにムダな粉類を多く入れちゃったみたいね;
あらヤダ!ここに置いておいた、粉洗剤が減ってる・・・!
まさか・・・・ま、まさかね・・・・ホホ、オホホホ・・・!
・・・・ご愁傷様、蛍一クン;
続