ひらかれしもの 第二十四話 「ネオ・コントラスト」
・飛鳥蛍一(あすか けいいち)♂:17歳。善部町に越してきた高校二年生。
雛菊と同じクラス。ちょっとヘタレな、ごく普通の男の子。
雛菊と出会い、【詠姫】の詠唱者の一人となる。
・音羽雛菊(おとわ ひなぎく)♀:17歳。善部高校二年。クラスではお嬢様を演じ、
家族と蛍一の前でのみ、態度が急変する。
色魔と呼ばれる霊・妖怪を封じる【詠姫】の三代目。
・音羽葉桜(おとわ はざくら)♀:16歳。雛菊の妹。善部高校一年。
活発で男っぽい性格で、一人称は「僕」。
詠唱者の第一人者で、雛菊をサポートするしっかり者。
霊力が高く、相手の属性や霊能度を把握する能力がある。
・音羽大喬(おとわ ひろたか)♂:37歳。雛菊・葉桜の父親。
ハイテンションなオカマ。これでも神社の神主。占いが得意。
・音羽沙尭(おとわ さゆり)♀:故人。雛菊・葉桜の母親。色魔を操る組織【大和路】に殺される。
先代【詠姫】。
・飛火野(とびひの)♂:38歳。天理の配下。赤髪に鋭い目を持つ、中年男性。
年相応の落ち着きがあるが、
14年前の【大和路】封印に関わると、感情的になる。
【大和路】に与しているものの、慈悲の心を持ち合わせる程々の常識人。
配役比率 ♂3:♀2=五名
沙尭:『・・・大喬。
ねえ。私、思ったの。
そばにいるだけが、守るってことじゃないのね。
・・・私、貴方に逢えてよかった。
貴方と一緒に時を過ごせて、本当に幸せだったのよ?
だから・・・・
・・・・・この幸せを、未来に繋げていきたいの』
大喬:『・・・やめろ・・・・・やめてくれ・・・・・・ッ!』
沙尭:『あの子達に、未来を見せてあげたいのよ――』
―音羽家・深夜。
大喬:「やめろぉぉッ!!!」
(布団から飛び起きて、ゆっくりとあたりを見回す大喬)
大喬:「・・・。
・・・・ハァッ、ハァ・・・・・。
・・・・・・嫌だ・・・・またこの夢・・・」
大喬:(一度は忘れかけたというのに・・・どうして・・・)
沙尭K:『大喬・・・』
(部屋奥にある、写真に向かって)
大喬:「あんたがアタシを呼んだの?沙尭・・・」
飛火野:「呼んではいないが・・・話をしたいと思っていたのは私だ」
大喬:「ッ!??」
(開いた窓の外から、飛火野の姿が現れる)
飛火野:「久しいな。・・・大喬」
大喬:「アンタは・・・・飛火野・・・!」
飛火野:「話がしたい。
・・・だが、これは天理様の命ではなく、俺個人として、だ」
大喬:「・・・拒否権はないわけね?」
飛火野:「頭のいいお前なら、断ったらどうなるかくらい、わかるだろう」
大喬:「・・・・わかったわ」
飛火野:「すぐに終わる。
俺には、ここの結界は少々キツいからな」
(そう言って、黒い影にすっと消える飛火野)
大喬:「飛火野・・・・」
大喬:(アンタも、闇色に染まってるのね・・・)
―翌日。音羽家裏庭・昼。
(裏庭にて、修行中の雛菊と蛍一)
雛菊:「急ぎ、律令(りつりょう)の如く・・・せよ!」
蛍一:「ぜぇ・・・ぜぇ・・・」
雛菊:「ほら!もう一回!」
蛍一:「ちょ・・・ちょっと待っ・・・休憩・・・!」
雛菊:「あんたね・・・もっとシャキっとしなさいよ!」
蛍一:「あのなぁ!こんな立て続けに詠唱ぶっ放せるわけないだろっ!
俺の体が壊れる!」
雛菊:「まだ5発めじゃないの。文句言わない!
大体・・・ホントの戦闘になったら、体壊れるどころじゃ済まないのよ?」
蛍一:「う゛・・・」
雛菊:「休憩だって、とってたら即死なんだから!」
蛍一:「ごもっともです・・・」
雛菊:「・・・・・仕方ないわね。・・・じゃ、詠唱はおしまい」
蛍一:「ホントか!?」
雛菊:「次は、あの山の頂上までダッシュ」
(学校の裏山を指差し、真顔で言う雛菊)
蛍一:「えっと・・・・何かの冗談では・・・」
雛菊:「残念ながらないわね。諦めてついてきなさい」
蛍一:「ううっ・・・・くっそー!やってやらぁ!」
(ヤケになって、走り出す蛍一)
雛菊:「・・・ふぅ。到着」
蛍一:「ハァ、ハァ・・・グッ・・・ゼェゼェ・・・・!
も・・・無理・・・・死ぬ・・・!!」
雛菊:「何よ。ちょっと走ったくらいで」
蛍一:「お前っ・・・神社からここまで、どんだけ距離があると思って・・・!
・・・って、怪物のお前に言っても無駄か」
雛菊:「誰が怪物よ!」
蛍一:「しっかし・・・・あぁ~つかれた・・・」
(芝生の地面に仰向けに倒れこむ蛍一)
雛菊:「服が汚れるわよ」
蛍一:「いーんだよ。気持ちいいから。
お前もやってみれば?」
雛菊:「嫌よ!背中が葉っぱだらけになる」
(そこに腰掛けるだけの雛菊)
蛍一:「・・・いー天気・・・・。
あ、そういや!こないだ、一年生は遠足だったんだよな?
俺らはどこ行くのかな?修学旅行」
雛菊:「知らない。興味ないわ。
どうせあたし行かないから」
蛍一:「え?なんで?」
雛菊:「あたしは行けないのよ。・・・分かるでしょ?」
蛍一:「いや?分からん」
雛菊:「~~~っ;
だから・・・あんた分かんないの?
【詠姫】のあたしが、そう簡単にこの町出られるわけないでしょ!」
蛍一:「え?
まぁ、それもそうだけど・・・
ま・・・まさかお前、この町出たことないのか?」
雛菊:「うん」
蛍一:「一歩たりとも?;」
雛菊:「生まれてからずっと、よ」
蛍一:「ま・・・マジかよ!」
蛍一:(【詠姫】制度は変だ変だとは思ってたけど・・・まさかここまでとは;)
雛菊:「【詠姫】になった時点で、もう色々諦めてるわ。
自由なんて、一族が見定めてる限り、無いも同じよ」
蛍一:「・・・そんな哀しいこと、淡々と言うなよ;
いいさ。要は、お前が【詠姫】じゃなきゃいいんだろ?」
雛菊:「は?」
蛍一:「行こうぜ。この町を出てどこか、遠くへ。
この戦いが終わったら・・・・みんなでさ」
雛菊:「この戦いが終わったら・・・?」
蛍一:「そうしたら・・・この世界が平和になったら・・・
お前も、自由になるんだろ?」
雛菊:「そ、そんな簡単には・・・」
蛍一:「俺は行きたい」
雛菊:「アスカ・・・」
蛍一:「だから、叶えたい。
いや・・・・叶えてやる。絶対。
約束だ」
雛菊:「うん・・・・。
じ、じゃあ・・・・しょうがないから行ってあげる///」
蛍一:「闇雲に鍛錬するより、目的があったほうが効率あがるだろ♪」
雛菊:「クスッ。そうかも♪」
蛍一:「俺、温泉とか行きたいなぁ~」
雛菊:「なっ、何言ってんのよ!このスケベ!!///」
蛍一:「うわっ!な・・・!
そ、そういう意味じゃねぇよっ!///」
雛菊:「どうだか!」
蛍一:「と、とりあえず・・・修行だろ、修行!
ホラ!ここでも詠唱するのか?」
雛菊:「そうね。あたしも一回やっておこうかな」
蛍一:「よし!」
(立ち上がる二人)
雛菊:『三代目【詠姫】・音羽雛菊の名をもって招ずる。
管弦・雅楽・唱合(うたあわせ)』
蛍一:『篝(かがり)吹け、言詞(げんし)の理(ことわり)。
詠唱者・飛鳥蛍一、空間を蹴破り無効に、けやけし者を滅し、候(そうろう)!』
雛菊:『汝、元の色から詠姫の力となれ!!』
(二人が一気に発唱し、空へと技を放つ)
蛍一:「って、あ!」
(空中で、蛍一の幾千の言の葉と、雛菊の炎柱が重なり、渦を巻く。
その威力の大きさが合わさり、遙か雲の上で爆発を起こした)
雛菊:「ご、ごめんっ!
タイミング重なっちゃって・・・・」
蛍一:「ひ、雛菊っ!」
(それを見て、雛菊の両肩をつかみ、大声を出す蛍一)
雛菊:「えっ?」
蛍一:「なぁ・・・これ、使えるんじゃないか?!」
雛菊:「え?え? な、なんのこと?」
蛍一:「コレだよ!
俺と、お前の技が重なって、威力が増しただろ!?
今の、もうちょっと練習すれば、もっと滞空時間が長く出来るんじゃないか?
もしこれが完成出来たなら・・・・俺達にとって、大きな武器になる!」
雛菊:「・・・そっか。
あたしの技の威力に匹敵するのは、
力の大きさを誇るアスカの能力だけ・・・。
もし、その二つが合わされば・・・!」
蛍一:「これなら、【大和】にも対抗できるかもしれない!」
雛菊:「なるほどね・・・」
蛍一:「ん?」
雛菊:「“闇雲に鍛錬するより、目的があったほうが効率が上がる”
・・・まさにこのことでしょ♪」
蛍一:「・・・あぁ!」
雛菊:「じゃ、もう一回いくわよ!
『三代目【詠姫】・音羽雛菊の名をもって招ずる。
管弦・雅楽・唱合(うたあわせ)!!』
―音羽家・居間。夕刻。
葉桜:「ん・・・・?話し声・・・?」
(誰かの話し声に気づき、廊下で聞き耳をたてる葉桜)
大喬:「・・・で、何?今更あんたがアタシに話したいことなんて」
飛火野:「少し・・・昔話をしようと思ってな。
俺とお前、それから・・・沙尭と八宵(やよい)の四人で、
いつも一緒にいた頃のことを」
葉桜:(男の人?
父さんと母さんの昔の話? じゃあ・・・この人、父さんの仲間?!)
大喬:「・・・嫌よ。アタシは今を生きるのに精一杯なの」
飛火野:「・・・・・【大和】が近づいて来ているのを、感じるだろう?」
大喬:「っ!」
飛火野:「そろそろだ。・・・終焉が近い」
大喬:「飛火野・・・。言っとくけど・・・・彼女はもういないのよ?」
飛火野:「分かっている」
大喬:「じゃあ何故、アンタはアイツに囚われているの・・・!」
飛火野:「面影を追ってしまう。
彼女がまだ存在しているんじゃないかと・・・錯覚させられる」
大喬:「でも・・・・それは“錯覚”でしかないのよ;」
飛火野:「それに・・・俺はまだ、お前が許せない」
大喬:「ぁ・・・・・・それは・・・その・・・」
葉桜:(仲間・・・じゃないのか?)
大喬:「本当に、申し訳ないと思ってる。
アンタにも、八宵(やよい)にも・・・・・あの子にも」
飛火野:「・・・・あの子は息災でやっているのか?
葉桜・・・といったか」
葉桜:(僕の名前?・・・なんで?)
大喬:「ええ・・・・・何も変わらずに」
飛火野:「そうか。
八宵(やよい)の気持ちも分からないが・・・お前の気持ちはもっと分からない。
いずれ・・・真実を知ったとき、あの子は不幸に陥る」
大喬:「そんなこと・・・させないわよ。させてたまるもんですか!」
飛火野:「・・・自分が【詠姫】の娘ではないと知ったら・・・あの子はどうなってしまうのだろうな」
葉桜:(・・・・・!!???)
大喬:「やめて!これ以上、うちの中でそんなこと・・・。
・・・もう上司がお呼びでしょう?
帰ってちょうだい!」
飛火野:「・・・・“知らぬが仏”とは限らんぞ。大喬」
(そう一言残し、夕闇に消えてゆく飛火野)
大喬:「・・・分かってるのよ・・・そんなことくらい・・・ッ」
葉桜:(僕が・・・【詠姫】の娘じゃない・・・?
どういうことだ・・・?
ハッ!そうだ・・・!)
(大喬に気づかれぬよう居間を通り抜けて、大喬の自室に入る葉桜)
葉桜:「多分、ここに・・・!」
葉桜:(いつも父さんが大事にしまっておいた箱。
引き出しの奥にあるここに・・・!)
葉桜:「あった・・・・」
(引き出しの奥底にしまってある母子手帳。
そこには、父:音羽大喬の名前と、
母であろう名前:浅倉八宵の文字が。)
葉桜:「あさくら・・・やよい・・・・」
葉桜:(誰?・・・そんな人、知らない・・・・
なんで今まで・・・・・父さん!!!)
飛火野M:いずれ・・・知ってしまう時が来るのだ。
遅かれ早かれ、あの子の不幸は決まっている。
八宵が生命(いのち)を残したように・・・
この悲境(ひきょう)も、受け継ぐことになっているんだ。
それを・・・あいつが望んだのだから。
続