ひらかれしもの 第二十五話  「ブラッド・オブ・ダーク」

 

 

・国見大喬(くにみ ひろたか)♂:本編、雛菊・葉桜の父親。この話では18歳。

女系家族のため、男言葉と女言葉を併用する。

見た目と性格は普通の男子高校生。

二代目詠姫・沙尭の詠唱者で、沙尭の婚約者。

 

・音羽沙尭(おとわ さゆり)♀:18歳。善部高校三年。

本編では雛菊・葉桜の母親で故人。

色魔(しき)と呼ばれる霊・妖怪を封じる【詠姫】の二代目。

明るく、しっかりもののお姉さん的存在。大喬とは幼馴染で婚約者。

 

・浅倉八宵(あさくら やよい)♀:18歳。善部高校三年。

沙尭の親友で、沙尭・大喬ともクラスメイト。

沙尭の役目を知っていて、沙尭を一番大切に思っており、

とにかく沙尭至上主義。その入れ込み様は異常なほど。

性格は大人しいが、思い込んだら一直線な部分もある。

 

・香芝飛火野(かしば とびひの)♂:19歳。善部高校三年。本編では【大和】の配下。

留年していることもあって年上の為か、3人の兄貴的存在。

落ち着きがあり、一番の常識人。

長い付き合いになる八宵のことを密かに想っている。

※M(モノローグ)のみ37歳(本編の飛火野)でお願いします。

 

・大和(やまと)♂:善部町に巣くう、色魔(しき)の元凶ともいわれ、最強と恐れられる妖。

人間の心理を操りその内部へ入り込み、支配する力をもつ。

黒く淀んだ気の中におり、その姿は見ることが出来ない。

 

 

配役比率 ♂3:♀2=五名

 

 

 

 

 

 

飛火野M:あの頃は幸せだった・・・

そう、ただ何も考えずに毎日が流れていったからだ。

過ぎていく日々を数えることも忘れ、

素顔で笑えていた・・・大喬も沙尭も、そしてあいつも。

今という未来を、あの頃は思いつくはずもなかった。

 

 

 

 

 

 

――19年前、善部高校、教室。夕刻。

 

沙尭:「大喬!何やってるのよ。まだ終わってなかったの?」

 

大喬:「ぎゃん!沙尭っ!?」

 

沙尭:「なんて声出してんのよ;」

 

大喬:「う、うるさいなぁ・・・

アタシだって、数学の課題が今日までだって知らなかったのよ!

まだかかるから、先帰っていいよ・・・」

 

沙尭:「何言ってんのよ。いいから、さっさとやっちゃいな」

 

(カバンを置いて、大喬の隣の席に座る沙尭)

 

大喬:「・・・先に帰る気はないわけね?」

 

沙尭:「一緒に帰る約束してるでしょ?」

 

(自然に、何事もないように笑う)

 

大喬:「・・・・沙尭のそういうとこ、好き」

 

沙尭:「え?な、なによもういきなり!///

ほら、いいから手を動かす!」

 

大喬:「ハイハイっ」

 

(誰もいない教室、そこへ一人人影が現れる)

 

 

八宵:「沙尭、帰ろう?・・・って、大喬、まだ帰れないの?」

 

沙尭:「あ、八宵」

 

大喬:「ご、ごめんなさい。課題が終わらなくって・・・」

 

八宵:「・・・やってなかったの間違いでしょ?」

 

沙尭:「八宵、大正解!ほら、手伝ってあげるから!」

 

八宵:「ふーん・・・問3はx=4」

 

(問題用紙を覗き込み、指差し教える八宵)

 

大喬:「八宵、計算早っ!」

 

八宵:「ふん・・・早くしてよね。沙尭が帰れないでしょ!」

 

大喬:「うう、やっぱり沙尭の為なのね;」

 

 

 

飛火野:「・・・おい、まだ帰らないのか?」

 

大喬:「もォ、飛火野まで来ちゃった!

みんな、プレッシャーかけないでよ~」

 

沙尭:「あははっ、がんばれ~大喬!」

 

 

 

 

 

(数分後。帰り道)

 

大喬:「こうやってみんなで帰るのが、もう日課よねー」

 

八宵:「今日は少しばかり予定がズレたけどね」

 

大喬:「う"・・・」

 

飛火野:「言ってやるなよ、八宵」

 

沙尭:「ふふっ」

 

八宵:「沙尭?」

 

沙尭:「なんか、いいよね。こういうの。

ほのぼのっていうか・・・気を使わない感じ?

ずっとこうして、みんなで一緒にいられたらいいな」

 

大喬:「沙尭ったら・・・当たり前でしょ!」

 

飛火野:「まぁ、異論はないな」

 

八宵:「みんなで、か・・・そう、ね」

 

 

 

大喬M:何も変わらない日々。それがアタシ達の絆だった。

 

(音羽神社へ入る山道の前で、足を止める沙尭と大喬)

 

沙尭:「じゃ、私達こっちだから」

 

大喬:「またね。八宵、飛火野」

 

八宵:「・・・大喬、また沙尭の家に寄るの?」

 

飛火野:「今日も挨拶か?大変だな」

 

大喬:「高校卒業したら即、音羽の家に婿入りだからね。

今から覚えておくことがたくさんあるのよ;」

 

八宵:「ホントに結婚するんだ・・・よく許してもらえたよね」

 

大喬:「まだアタシも信じられないんだけどねー」

 

沙尭:「ちょっと、しっかりしてよね!」

 

(肘で大喬の腕を突く)

 

大喬:「お、奥さんがしっかりしすぎてるんだから、アタシは少しくらいいいじゃない!」

 

飛火野:「お前ら苦労しそうだな・・・お互い」

 

八宵:「・・・・」

 

沙尭:「ふふ、それは承知の上よ。じゃあまた明日ね、二人とも!」

 

 

 

 

(二人がいなくなり、その場で頭を抱えじっとする八宵)

 

八宵:「・・・・っ」

 

飛火野:「八宵?どうした、具合でも悪いのか?」

 

八宵:「・・・・なんであいつなの?」

 

飛火野:「何?」

 

八宵:「どうして、大喬なのよ」

 

飛火野:「八宵・・・」

 

飛火野:(また、か・・・)

 

八宵:「幼なじみだかなんだか知らない。けど・・・

あたしのほうが沙尭のこと、きっとずっと好き!

・・・なんで?ねえ、飛火野。なんでなの?」

 

飛火野:「・・・・っ。

それは・・・大喬(あいつ)が男で、ずっと沙尭の傍にいたから」

 

八宵:「男・・・たったそれだけで・・・。

沙尭の傍にいたのはあたしも同じ!

あたしのほうが、沙尭のことたくさん知ってる!

どうして・・・選ばれるのはあたしじゃないのよ!!」

 

飛火野:「選んだのは沙尭だ!お前が何を言っても・・・」

 

八宵:「うるさい!」

 

飛火野:「八宵!」

 

八宵:「うるさい、うるさい、うるさい!!

飛火野のくせに、あたしに指図しないで!

あんたは黙って、あたしに従ってればいいのよ!」

 

(そう叫んで、走り去っていく八宵。

 それをただ見つめることしか出来ない飛火野。)

 

飛火野:「・・・・どうして、と聞きたいのは俺のほうだ。

お前は、何故、沙尭じゃなきゃダメなんだ・・・」

 

 

 

 

 

 

―深夜。八宵の部屋。

 

(部屋でベッドに伏し、泣きじゃくる八宵)

 

八宵:「沙尭・・・沙尭っ」

 

八宵:(どうしてあたしは女に生まれてきたの?

どうして沙尭、あいつを選んだの?

どうして、あたしじゃダメなの・・・?)

 

八宵:「・・・・・大喬さえ、いなければ」

 

八宵:(そう・・・せめて・・・大喬さえいなかったら・・・!)

 

大和:「悲しみを超え、妬(ねた)みをとるか・・・娘」

 

八宵:「っ!? だ、誰っ?」

 

八宵:(頭の中に声が!)

 

大和:「人間らしい、下らなく脆い感情だ・・・実に面白い」

 

八宵:「誰っていってるでしょ!何、なんなのよ!!」

 

大和:「娘。

その望みに手を貸してやろう・・・。

お前は欲しい者を得、憎き者を消すことが出来る」

 

八宵:「なに・・・言ってるの・・・・?」

 

大和:「我は大和。人ならざるモノ。

我の力を欲するか?闇の少女よ」

 

八宵:「やみ・・・」

 

大和:「一人では何も出来ぬだろう?愚かな娘だ」

 

八宵:「あたしは・・・・」

 

大和:「お前は何が欲しい?」

 

八宵:「沙尭がほしい・・・・男になって・・・」

 

大和:「我に身を委(ゆだ)ねよ・・・・」

 

八宵:「大和・・・・?なんでもいい・・・あたしの願いを叶えて・・・。

あたし、なんでもする・・・いずれ、八宵じゃなくなっても」

 

大和:「良い返事だ・・・」

 

(黒い闇が静かにうごめき、瞬時に八宵の体を包む。

 そしてまた、何もなかったように八宵は目を覚ました)

 

 

 

 

 

 

――2年後。音羽神社。

 

(何十、何百の色魔を引きつれ、その頂点に立つ八宵。

音羽神社はその色魔に酷く荒らされている。

あたりには妖気が濁るように充満していた)

 

八宵:「迎えに来たんだよ・・・沙尭。あたしと一緒にいこう?」

 

沙尭:「八宵・・・本当に、八宵なの!?」

 

八宵:「ずっと好きだったの・・・沙尭。

貴女が欲しくて欲しくてたまらなかった・・・。

だからね、一度全部壊そうと思って。

そしてね、新しい世界を二人で生きていくの。

ずっと、ずーっと・・・二人で!

ねえ、素敵でしょ?沙尭。だから・・・ね、こっちに来て・・・」

 

沙尭:「嫌よ、八宵・・・こんなの、間違ってる」

 

大喬:「沙尭、下がって!これはもう、八宵じゃない!」

 

八宵:「あたしと沙尭の邪魔をしないで!!」

 

大喬:「ぐあぁっ!」

 

(突如、突風が吹き荒れ、大喬が吹き飛ばされる)

 

沙尭:「大喬ッ!!」

 

大喬:「・・・・」

 

八宵:「すごい・・・・この力・・・ふふ、ふふふっ・・・!

これなら、もう何も怖くない!誰にも邪魔させない!!

大和!この体全部あげるわ・・・!だから・・・!!」

 

大和:「・・・・承知した。お前の望みは叶えよう」

 

沙尭:「大和ッ!?」

 

(沙尭がもう一度八宵を見ようとした瞬間、

 八宵の姿は変わりはて、幾つもの妖が融合した巨大な色魔と化していた)

 

沙尭:「・・・・・・や、よい・・・嘘・・・

大和・・・色魔(しき)の元凶・・・親玉・・・」

 

大和:「詠姫・・・お前の存在も喰らってやろう」

 

沙尭:「あんた・・・・よくも八宵を・・・ッ!!」

 

 

大喬:「う、ぐうっ・・・・!

さ、沙尭・・・逃げて!!」

 

沙尭:「大喬!?な、何言ってるの!!?」

 

大喬:「大和は・・・敵は、この町と力が狙いだ・・・

だからお前は、この町を出て、生き延びるんだよ!」

 

沙尭:「みんなを・・・あんたを置いて、逃げれるわけないでしょう!!」

 

大喬:「頼むから・・・・逃げてくれ!!」

 

(傷つき、倒れながらも、必死に懇願する大喬)

 

沙尭:「・・・ねえ。大喬」

 

大喬:「・・・?」

 

沙尭:「愛してる。

・・・雛菊を、葉桜を。・・・そして、大喬。あなたを、一番」

 

大喬:「さゆり・・・?」

 

沙尭:「だから・・・・・さようなら」

 

(一言、優しく言って、大喬に背を向けまっすぐ大和に走りだす沙尭)

 

大喬:「や・・・・やめ・・・・・沙尭ぃぃいいいい!!!!」

 

沙尭:『二代目【詠姫】・音羽沙尭の名をもって招ずる。

管弦・雅楽・唱合(うたあわせ)!!』

 

 (大きな光がぶつかり、怒号が響いた後、跡形もなくすべてが消えた)

 

飛火野:「っ、これは・・・・・!!」

 

(一足遅れて、飛火野が現場に現れる)

 

飛火野:「沙尭・・・大喬・・・!

八宵!?八宵はっ・・・!?」

 

 

 

 

 

八宵M:真っ暗闇の中に、酷く眩しい光が差し込んだ。

その光が、気持ちいいほどまっすぐに、あたしの体を貫いていく。

ねえ沙尭?

好き・・・大好きよ・・・。

あたしたち、これでずっと一緒にいられるわ・・・。

 

 

 

 

 

 続