ひらかれしもの 第二十六話 エンカウント・ビューティ
・飛鳥蛍一(あすか けいいち)♂:17歳。善部町に越してきた高校二年生。
雛菊と同じクラス。ちょっとヘタレな、ごく普通の男の子。
雛菊と出会い、【詠姫】の詠唱者の一人となる。
・音羽雛菊(おとわ ひなぎく)♀:17歳。善部高校二年。学校では聞き分けのいいお嬢様を演じ、
家族と蛍一の前でのみ、態度が急変する。
色魔(シキ)と呼ばれる霊・妖怪を封じる【詠姫】の三代目。
・安部月白(あべつきしろ)♂:27歳。雛菊・葉桜の母親・沙尭の弟。つまり叔父にあたる。
女の人との色恋話が多く、女遊びが激しい。
その言動から、雛菊・葉桜には相手にされないことが多い。
陰陽道に似た技を使い、相手を翻弄する能力を持つ。
詠唱者の一人で、現在は善部高校の教師も勤めている。
・藤堂天理(とうどうてんり)♂:17歳。蛍一のすぐ後に善部高校に転校してきた二年生。
【大和路】のリーダー。冷静沈着で、いつも笑顔を絶やさない。
・志賀裕也(しが ゆうや)♂:17歳。善部高校二年生。蛍一の友達。ウワサ好きで好奇心旺盛。
安部の分家の人間であり、【詠姫】の裏で情報収集などをしている。
・女教師 ♀:善部高校教師。若め。
配役比率 ♂4:♀2=六名
天理M:・・・ここへ来るのも久しぶりかな。
やっと花の顔(かんばせ)を拝むことが出来る。
やっと・・・君のすぐそばに行くことが出来るよ。
だけどまだ・・・まだ僕の仮面ははずせない。
いずれ訪れる、壮麗(そうれい)な世界の為に。
―善部高校、二年一組。放課後。
蛍一:「あ~・・・・なんっでこうなるかなぁ?」
月白:「こら、飛鳥。私語は禁止。
しゃべってるヒマがあったら手を動かす」
裕也:「ドンマイだなぁ、蛍一!
こないだのテストは赤点ギリギリで踏み留まったのに・・・」
蛍一:「抜き打ちで赤点とったら補習!なんて酷いですよ~月白さん!」
月白:「こら。今は“安部先生”だろ?
それに志賀も。私語は慎むこと」
裕也:「いいじゃないですか。せっかく男3人集まったのに~。
それに、俺はちゃんと平均点取りましたよ?
ホラ、蛍一クン。手ぇ動かせ~」
蛍一:「うう・・・・理系は苦手なんだよー!」
月白:「だからって補習者の邪魔をしない。
だいたい裕也。蛍一に安部の仕事のことバラしたりして・・・」
裕也:「あ、月白さん、今名前で呼んだ」
月白:「ゆ・・・志賀!話をそらすんじゃない」
裕也:「だって~。どーせいずれバレることじゃないっすか。
蛍一だって、他の誰にもバラしたりしないだろ?」
蛍一:「そ・・・それはもちろん!」
月白:「まぁ、バレたのがお前でよかったよ。
まったく・・・くれぐれも姫さんには秘密だよ?
彼女は可憐で繊細な乙女だからね」
蛍一:「えぇっ。雛菊がですか~?;」
裕也:「お前っ!音羽さんの一番近くにいるくせに・・・!」
<ガラッ>
(教室の扉を開け、女教師が入ってくる)
女教師:「あら?安部先生、まだ補習やってらしたんですか?」
月白:「ああ、すみません、先生。もう教室閉めますか?」
(女教師が現れたとたん、営業スマイルに戻る月白)
女教師:「い、いえ・・・一応まだ見回りだけでしたから。
・・・飛鳥くん、転校早々補習?ダメじゃない」
蛍一:「抜き打ちだったんですよ~;
それに、その・・・
俺転校生だから、こっちの勉強についていけないってコトで一つ!」
裕也:「おーおー。完全なる言い訳だなぁ」
女教師:「あーら。それは言い訳にならないわよ。
4組の藤堂くんも、こないだ転校してきたばかりだけど、
今日の英語の抜き打ち、満点だったんだから!」
月白(&裕也):「えっっ!??」
女教師:「え・・・?」
蛍一:「藤堂、来てるんですかっ!?」
女教師:「え、ええ・・・藤堂くんのこと知ってるの?」
裕也:「そりゃもう!」
月白:「最近休みがちだと聞いていたんですが・・・」
女教師:「そうだったんですけど・・・今日は普通に登校して来ましたよ」
蛍一:「それで、今はどこに!?」
女教師:「さ、さぁ・・・もう帰ったんじゃないかしら?
彼は部活にも在籍していないし」
蛍一:「・・・・」
裕也:「なぁ、どう思う?蛍一」(小声で)
蛍一:「・・・あいつが大和なら、何もせずに帰るとは思えないけど。
はっ!そ、そういや雛菊は!?」
裕也:「まだ学校にいるんじゃ・・・」
蛍一:「まずいな・・・それ!」
月白:「・・・・・そうだな。先生、少し付き合ってもらえませんか?
探したい資料がありまして」
女教師:「え?あの・・・」
(女教師の肩に触れ、出て行こうとする月白)
裕也:「ちょっと!月白さんっ?
女の人口説いてる場合じゃ・・・」
月白:「・・・あとは頼んだよ。飛鳥、志賀」
(教室を後にする二人)
蛍一:「俺らだけでを雛菊と天理を探せ、ってことか・・・」
裕也:「月白さんなりに気を使ったつもりなんだろ?
俺も、噂部の情報収集能力をフル活動させるからさ!」
蛍一:「・・・使えるのか?ソレ;」
―廊下。
月白:「さ、先生。行きましょうか?」
女教師:「は、はぁ・・・」
女教師:(みんな、いきなり顔色変えてどうしたのかしら?
あっ、そういえば・・・。
藤堂くん、具合悪いって保健室にいたような。
言う必要は・・・・・まぁ、別にないわよね。)
―同刻、保健室。
雛菊:(修行中にちょっとすりむいちゃった。
大した怪我じゃないんだけど・・・
何もしないと、後でアスカにまた何か言われそうだし。
消毒だけして帰ろう)
<ガラッ>
雛菊:「失礼します。
・・・?誰もいないのかしら」
雛菊:(ま、いいわ。適当に薬だけもらって・・・)
天理:「おや?」
雛菊:「っ!
ご、ごめんなさい・・・いらっしゃったの気付かなくて・・・」
天理:「・・・いえ。大丈夫ですよ」
(にっこり、と音がつくような笑顔で保健室のベッドから起きてくる)
雛菊:「あの・・・すみません。
起こしてしまいました?」
天理:「いや・・・かまいませんよ。
もう起きねばと思っていたところです。
貴女は・・・」
雛菊:「え?」
(すっと、雛菊の腕をとり、傷口を見る天理)
天理:「怪我を・・・・。痛いでしょう?」
雛菊:「い、いえっ。こんなのかすり傷で・・・!
それに、今自分で消毒しようかと」
天理:「貴女の玉のような肌に、このような・・・。
そのままにするわけにはいきませんね。
先生は今、会議に出ていて居ないんです。
よければ僕が、傷を診ましょう」
雛菊:「えっ。そ、そんな、私自分で・・・」
天理:「いいから。
僕、こういうの得意なんです。任せてもらえますか?」
雛菊:「え、ええ・・・・」
(顔を赤くし、うつむき答える雛菊)
雛菊:(普段だったら、こんな風に気安く触られれば、
きつく突き放すことが出来るのに・・・。
何故なのかしら・・・不思議とこの空気、嫌じゃない)
天理:「今、消毒しますね」
雛菊:「あの・・・・あなたは?
見ない顔だと思うんですけど・・・」
天理:「そうでしょうね。
僕、最近、体の調子が思わしくなくて・・・
今日もしばらくここで休んでいました。
貴女は・・・音羽さん、ですよね」
雛菊:「ええ・・・どうして、私の名前・・・」
天理:「有名ですから」
雛菊:「そ、そう・・・よね。やっぱり」
天理:「少し・・・苦痛ですか?」
雛菊:「・・・・え?」
天理:「自分を偽ること。人に嘘をつくこと。
貴女の心は常に、まっすぐ前を見つめたいと思っている」
雛菊:「・・・・!なんで・・・」
雛菊:(なんでそんなに、あたしの気持ちが分かるの?)
天理:「すみません。分かってしまうんです。
いつも・・・貴女のことを見ていましたから」
雛菊:「え、あたしを・・・?」
天理:「よければ、僕の前だけでも・・・
ありのままの貴女を見せてもらえると嬉しいな」
(雛菊の手を握り締めたまま、じっと見つめる)
雛菊:「あ、あたしは・・・・」
(ふと、雛菊の頭の中に蛍一の姿がよぎる)
雛菊:「っ、なんで・・・・あいつが・・・」
天理:「・・・手当て、終わりましたよ」
雛菊:「ご、ごめんなさい。その・・・ありがとう」
天理:「いいえ。このままじゃ僕が耐えられなかっただけです。
貴女は大事な方ですから。気をつけてくださいね?
では・・・」
(そう言うと、保健室から出て行く天理)
雛菊:「え、ねえ!ちょっと!
そうだ!あなたの名前・・・」
(閉った扉をもう一度開け、廊下に出ると、そこに人影はなかった)
雛菊:「・・・不思議な人」
蛍一:「雛菊!!」
(階段を下りて、蛍一が走って現れる)
雛菊:「アスカ・・・?」
蛍一:「おまっ・・・・だ、大丈夫か!?」
雛菊:「なにが?」
蛍一:「いや・・・・見たところ平気そうだな。
ん?怪我してんのか?
ちょっと見せてみ・・・」
雛菊:「い、いいわよ!」
(蛍一の腕を払いのけ、そっぽ向く雛菊)
雛菊:「今ちゃんと手当てしてもらったから!」
蛍一:「・・・そっか。ならいいけどさ。
帰ろうぜ?送ってくから」
雛菊:「送られるのは、あたしじゃなくてあんたじゃないの?」
蛍一:「う・・・いいから、行こう!」
雛菊M:やさしい声、温度・・・・それから美しくて儚い笑顔。
今まで会った誰とも違っていた。
綺麗で、でも少し怖くて・・・私のことをわかってくれる人。
あの人は・・・いったい?
それからあの時・・・どうしてアスカの顔なんか出てきたのかしら?
あたしはふわりと宙に浮いた疑問をかかえ、
気付けば手当てされた腕をずっと抱きしめていた。
続