
ビートルズの裏技
相変わらずビートルズが人気である。
まあ、バッハとモーツァルトとベートーベンとショパンが今世紀に生き返ってバンドを組んだような、そんな最高の楽曲メーカーであると表現されるビートルズであるから、いつの時代も彼らの名曲をセールス次第で売れさせることも可能なのであるが、ビートルズがなぜそれほど売れているかについて聞くと誰もが、
「そりゃお前、曲がいいからだろう」
「親しみやすいのよね」
などといった感想が主であろう。
でも本当はそれだけじゃないのである。
今でこそ当たり前となっている「長髪」(ううう、こういう単語も死語だ)をしてテレビに出たアーティストは彼らが初めてだし、多重録音(今では当然の技術。これなくして今のCDはできない)、スタジアムでのコンサート(これも当然)、自作自演のスタイル(今じゃほとんどそうでしょ)、インタビューでの台本以外の受け答え(当時は作られたアイドルが多かったからねえ)・・・などなど、挙げればきりがない。
要するに、彼らの音楽はさることながら、音楽を超えた部分で若者たちに与えた影響は多大なのである。
しかも、それらは単にファッションやスタイルだけではない。大人たちや体制への反抗、主張の展開や真実の追究など、彼らは今の若者でさえはばかられるようなことをしでかしていたのである。
というわけで、今回はビートルズの裏技についてである。
* ビートルズの曲で好きな曲は? と聞けば、たいていの素人でも知っていてなおかつベスト3に挙がるのが、
「Yesterday」
「Let it be」
「Hey Jude」
の、いわば御三家である。
どれもクレジットは「レノン/マッカートニー」となっていて、ジョンとポールの共作となっているが、実際にはいずれもポールの作曲によるものである。
「Yesterday」は、直訳すれば「昨日」のことであって、内容は文字どおり、
「昨日までは万事うまくいってたのに俺は悲しいぞちくしょうテメこの野郎」
という意味の曲である。この曲はロックジャンルの曲としては初めて弦楽4重奏によって録音された曲で、今や「My way」と並んでスタンダード中のスタンダードである。
「Let it be」は、「なすがままに」。
「Mother Mary(聖母マリア様)が降臨して優しく囁く賢声・・・」
などと、仏教徒のぼくにはいまいちピンと来ないのであるが、なんでもここに出てくるマリア様とは、ポールが子供の頃亡くなった彼の母親のことらしく、美しいバラードに乗せた歌声は一発で耳に残る。
ぼくも中学生の頃などはよく、
「レリビイ〜レリビイ〜レリビイ〜、イエ〜レリビイ〜」
と歌っていたのであるが、こうやって文章にするから「レリビ〜」と聞こえるのであって、当時のぼくにはポールが本当にそう発音しているように聞こえたのである。今となっては、我が国における英語の教育、特に発音部分に関してのレッスンがいかに稚拙なものかを思い知らされるのである。決してぼくが悪いわけではないのである。
さて、「Hey Jude」の「ジュード」とは、実はジョン・レノンと彼の先妻との間に生まれた息子・ジュリアンのことである。
ジョンがオノ・ヨーコと暮らし始めて家に帰らなくなったため、寂しそうにしているジュリアンを見たポールが、彼を励ます意味で作った曲である。
がしかし、この『Jude』という単語がユダヤ人を意味すると受け取られ、ユダヤ人を蔑視する曲だということで一時物議をかもしたことがあるいわく付きのロック・バラードで、7分を越える演奏時間もEP盤全盛の当時は異色であった。
* さて、こうしてみると、御三家と言われる曲にまつわるエピソードもビートルズならではのものが多いし、御三家以外の曲もどれも珠玉の名曲ばかりであるので、
「何が御三家だバカモノめっ、ビートルズの真の名曲はそんなヘナチョコバラードではないわっ」
「ジョンの歌はどうしたっ、ジョンのはッ!」
などと批判の声が聞こえてきそうであるが、案ずるなかれ、ここに紹介した3曲は、あくまでもスタンダードとしての上位3曲のことであり、たまたまポールが作曲したに過ぎないのである。
もっと有名な曲を挙げれば、彼ら初の全米チャート1位「I want to hold your hand」(ジョン作)、ビートルズ初の主演映画のタイトル・トラック「A hard day's night」(ジョン)や2作目「Help!」(ジョン)、後に村上龍の本のタイトルともなった「Norwegian wood」(ジョン)、グラミー賞受賞の「Elenor Rigby」(ポール)、初の衛星生放送でイギリス代表として出演し演奏した「All you need is love」(ジョン)・・・どれも誰もが一度は聞いたことのある曲ばかりである。
ところで何を隠そう、ぼくの一番好きなビートルズの曲は実はこれらのどれでもない。
その曲とは、現代でも通じる驚異的な技巧を盛り込んだ革命的アルバム、
「Sgt.Pepper's lonely hearts club band」(サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド)
の中の一番最後に収められている曲、
「A day in the life」
である。この曲は完全にジョンとポールが分担して作った曲で、歌詞の内容がとても意味深なのである。
どう意味深なのか、ちなみにジョンの部分の歌詞の内容を一部引用してみよう。
「今朝新聞を読んだら名声のある男の悲しい記事が載ってた
ぼくは写真を見て笑ってしまったけれど
彼は車の中でブッ飛んじゃってしまって
信号が赤に変わったのに気づかなかったんだ
沢山の人だかりができてそしていなくなった
彼の顔には見覚えがあったけど誰も彼が上院議員だなんて気づかなかった・・・
(原詩;Lennon/McCartney)」
とある。
対してポール作曲の部分はこうだ。
「目が覚めてベッドから飛び起き髪に櫛を通す
階段を下りて歯を磨き時計を見上げて遅刻に気づいた
コートを羽織り帽子をかぶって2階建てバスの2階に飛び乗った
気分をあげるため一服やってたら誰かが話しかけてくるけれどぼくは夢の中へ・・・
(原詩;Lennon/McCartney)」
いずれも下線部分を聞けばドラッグに関する曲だということはすぐにわかる。
ビートルズがドラッグ好きなバンドだったことは有名だし、ボブ・ディランやエリック・クラプトンほどドラッグに溺れたわけではなかったが、この曲の中ではジョンの方はあからさまに上院議員がドラッグをやって車に乗って事故を起こしたという設定の表現だし、ポールの方は遅刻した紳士がバスに急ぐというよくある設定の中でドラッグで気分をハイにするという、あくまでも日常の中でのドラッグを歌っている。
そんなだからこの曲は、この歌詞のためにイギリス本国のBBCで放送禁止の憂き目に遭っているのだ。
* 通常のビートルズの曲はどれも愛の曲であふれていると思われがちだし、確かにその方が多いのだが、ビートルズの人気の裏にはこのような隠し裏技ともいうべき技法が巧みに配されている風刺の曲があることも否めない。
わかりやすい例を挙げてみると、「Taxman」という曲では時のイギリス首相ヒースやウィルソンを名指しで歌詞に盛り込んで批判しているが、では逆に日本のアーティストたちが国会議員を風刺する曲を歌ってヒットさせたことがあるかないかを考えてみたらいい。せいぜいが学校の先生や大人たちに反抗したという程度の歌詞であろう(まあ日本で名指しで歌えばすぐに名誉棄損で訴えられる風土ではあるが)。
ちなみに、「A day in the life」は、その曲自体もタイトルも、スタンダードの名曲として有名なことはいうまでもない。だから、ぼくたちはビートルズの曲が好きなのかもしれないと思うのである。
Published 2001.4.10
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