Special Paperbacked Essays, Vol.37

macspin2

 

うらやましいぞガイジン

- A funny day in my life about foreiners -

 

 

 よく晴れたその日、横断歩道でぼくは仕事で使うオンボロ自転車に跨がったまま、信号が青に変わるのを待っていた。オフィス街はもうスーツの上着も必要ないほど暖かく、行き交う車の窓も全開になっているのがほとんどである。

 立っていた目の前の道路は片側2車線の比較的交通量の多い市道で、歩道の左右に植えられた樹木達は季節を感じて青々としている。

 ぼくは空から降り注ぐ太陽の光を手で遮りながら、視線を目の前の横断歩道に向き直した。すると、横断歩道のすぐ脇の中央分離帯に一人の欧米人男性が立っているのが見えた。

 欧米人だからはっきりとわからないのだが、年齢はおそらく40歳代であろう、シルバーともホワイトとも区別のつかないような白髪の頭が陽にきらきらしている。ジーンズを腰で穿くとはこのことで、高い位置のウエストが彼を粋に見せていた。

 彼はぼくの方に背を向けて反対側の歩道を見つめていた。その方向、すなわちぼくと反対側の歩道を見やると、これまた欧米人女性がこちらの方向を見つめていることに気づいた。

 反対側にいる彼女の方もブラウンの髪に大柄、見るからに30歳代の欧米人といった風情で身振り手振りで中央分離帯にいる彼の方に向かって何やら伝えたがっているようだった。

 一瞬、彼と彼女はこの場所で待ち合わせをしたのか、とも思ったが、彼の方が中央分離帯にいる状況からして、どうやら彼女の方が先に横断歩道を走って渡り、彼の方は歩いて渡っているうちに信号が赤に変わったため無理をせず次のシグナルチェンジまで中央分離帯で待機しようとしたのではないか、と思った。そして、ぼくには彼女は彼に向かって信号が変わり再び手をつなぐまでの間、彼に何かを伝えたがっているように思えたのだった。

*

 ところが、彼女のゼスチャーに対し中央分離帯にいる彼の方があまりにも無反応なので、最初のうちはぼくも、

「ガイジンてのは相変わらず大袈裟だねえ。でもまあ同じガイジンでも道路の真ん中にいる彼のほうが落ち着いてるってもんだ」

 などと思っていたのだが、そんな彼女の大袈裟な様子を見ているうちに、

「ふ〜む、彼女は一体何を伝えたかっているのかしらん?」

 と、疑問を持ち始めたのである。

 もしかして、

「オウ、どうしてミーを独りにするのよ、早く渡ってらっしゃいなダ〜リン」

 と言っているのだろうか。でもひょっとして、

「何をもたもたやってんのよ、車なんか押しのけて渡ってきなさいよこのドジ」

 とか言っているのだろうか。あるいはひょっとして、

「早くカモンカモン、キスミープリーズ、ギブミーチョコレート」

 などと言っているのだろうか。などと、彼女の口の動きに合わせて勝手な想像を張り巡らせてワケがわからなくなっているうちに、目の前の車の動きが停まり始めた。

 どうやら信号が変わり始めたのである。

*

 右折用表示も消え、ぼくの向正面の歩行者用信号が青に変わった。

 ぼくは自分が歩行し始めるよりも、その二人に注目していた。はたせるかな、ガイジン二人は互いに駆け出した・・・

 となるはずが、なぜか彼の方はゆっくりと歩き出し、彼女の方もなぜかさきほどまでのジェスチャーが鳴りを潜め歩道に佇んでいるではないか。

「むむむ? なぜだ、なぜ二人はダッシュしないのだ?」

 ぼくの想像では、てっきり二人は信号が変わるのももどかしいほどに猛ダッシュし、横断歩道の真ん中で抱きあい、通行人や停車中の車の視線をモノともせず熱い接吻を交わすはずだった。

 しかし、現実に中年ガイジンの彼はおっとりとした足取りで歩いていき、女性のガイジンはさきほどまでとは打って変わってただ何もせずむしろ彼の方に顔を背けるような仕草である。

 熱いシーンを期待していたぼくも、これでは想像したような展開は望めないだろうと判断してあきらめ、ゆっくりと彼のあとから自転車をこいだ。

 ほどなく、彼が向こう側に着いた。

 すると、彼女の方は彼に向き直ってなにやら声を荒げはじめた。

 彼の方もそれに対して何か言い返したようだったが、何を言っているのかはわからなかった。

 しかし、彼らのそばを通りすぎようとしたとき、ぼくは彼女が彼に何を伝えたかったのか、なにを言い合っていたのかがやっとわかったのである。

 それはただ単に彼の履いていたジーンズの前方部分、要するに「社会の窓」が閉じられていなかっただけなのである。

 だから、それに気づいた彼女は大声で身振り手振りでそれを伝えようとしていたのだが、公衆の面前で股間に手を当てたり指さしたりすることはなかなかできず、うまく伝えられない。だから彼の方も彼女が何を伝えたがっていたのかわからないでいたようなのだ。

 ところが、その後がまたすごい。

 例えばこういう状況が日本人同士の場合ならば、恥ずかしさのあまりそそくさと股間の始末をしてその場を立ち去るのだろうが、彼らは違った。

 まず、自分の股間を堂々と確認した彼はエディ・マーフィのような声で、

「オ〜ウ、あんまり天気がいいのでチャックまでオープンカーにしちまったぜハニー、ウハハハ」(ぼくの推測による意訳)

 と、おどけたような仕草をみせ、ペラペ〜ラペラペ〜ラとしゃべりながら大笑いして、これまた大げさなポーズで堂々とジッパーを引き上げると、そばで同じく笑っている彼女と予想通りキスをし、

「まったくドジなんだから、ダ〜リンたら」

「これはジョークなんだよ、わかるねハニ〜?」

「オホホホ」

「ガハハハ」(以上、またまたぼくの推測による意訳)

 といった会話を交わし、そして肩を組みあってその場を立ち去ったのである。

「う〜む、なんと陽気で脳天気な・・・」

 ぼくはしばらく自転車にまたがったまま彼らの後ろ姿を見つめていた。

 結局彼らはただの恋人だったのだろうが、それにしても欧米人達の立ち振る舞いというか、物事に対するリアクションの違いを見せつけられた「少年」の一日であったのである。

 それにしても、二人の足ってば長かったなあ。自分のと比較してみて、しみじみであった。

 

 

Published 2001.4.25

  

 

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