
お酒は恐い
なぜか大人になると、お酒=アルコールを飲む機会が多くなる。およそ地球上のどこの国でもそうであろう。世界広しといえど、お酒を飲まない国というのは宗教上の理由を除けばあまりないだろうし、そういう意味では我が国は特にお酒の好きな国なのである。
しかし、我が国に限っていえば、お酒を飲んだ後の大人たちの風潮は決してよくない。
お酒のせいだといってしまえばそれまでだが、酔うと羽目を外す大人が多くて困っているからなのである。酔ってからんだり、異性に抱きついたり、愚痴を延々とこぼしたり、怒ったり泣いたりわめいたり、挙げ句の果ては暴れて怪我したりさせたり、人前でおしっこしたり道路に寝ころんだりゲロ吐いたりと、んもうやりたい放題、いやん大脳さんたらただいまブレイク中なのねって感じである。
特に、飲んでしでかした事柄などは酔いが醒めた時に考えると、
「おおおお、俺は一体なんてことをしたんだ・・」
と顔面蒼白状態間違いなしなのである。
というわけで、今回のお話はお酒の失敗談。
実のところ、このぼくにしていろいろな逸話を残した経験をもっているのだが、いつもいつも自分の間抜け話を披露するのも気が引けるので、今回はぼくの友人・知人たちがしでかした酒にまつわる失態談をオムニバス集話形式でご披露することにしよう。
ただし。
今回もまた、「ゲロネタ」である。まあ許せ。
* その1。
ある夜、友人のUは酒を飲みながら友人の部屋でマージャンをしていた。しかし、元来彼はマージャンがあまり得意ではなかった。だから、どうしても他のメンバーより先にアガることができず、負け続けていた。そうなるとあまりマージャンが面白くなくなり、いきおい彼はマージャンよりも酒のほうに重点を置くようになる。すると、当たり前のことだが、Uは次第にヘベレケになっていったのである。
しかし、酔えば酔うほど思考回路は機能を低下するため、必然的に強力な思考を必要とするマージャンはアガレなくなる。アガレないマージャンほど面白くないものはなく、おもしろくなくなるから酒を飲む。
こうした悪循環が続き、とうとうUはマージャンを抜け、酒を飲むことで気を紛らわすことにしたのである。ところが、Uはすでに相当酒を飲んでいたため、この時点で気分が悪くなってきたのである。込み上げるゲロをしばらくは我慢していたが、とうとう我慢できなくなって便所に駆け込むことになったのである。
ところが。
友人宅のトイレは和式便器で、便器の手前にスリッパが1足置いてある。
そのトイレのドアを開けた時、Uは気持ち悪さが限界に達していたものの、一応はスリッパを履き和式便器に向かって猛然と「リバース」した。U曰くきちんと目測を誤らずにリバースしたつもりだった。
やがてUはひとしきり吐くと、しゃっくりをしながらトイレから出てきた。
しかし、なぜかUの片方の足は水でびしょびしょに濡れていた。
「お、おいU、大丈夫か、お前?」
友人の一人がUの異変に気付いて声をかけた。Uは焦点の定まらない視線で自分の足下を見つめた。
「ああ〜ん? あれえ〜、なんで足が濡れてんのかなあ? 冷たあ〜い、ヘラヘラ」
「もしや・・・」
「!」
Uの濡れた足を見て嫌な予感がしたぼくらは一斉に立ち上がると、Uが出てきたトイレに向かって走った。
そこでぼくらが見た光景は、思わず口を押さえざるを得ないほど悲惨なものだった。
そこには、和式便器の右外側にスリッパらしきものが置いてあり、その物体は見事なほどの量のゲロでおおいつくされていたのである。
「うわ・・・」
「ひ・・・」
一同、絶句状態である。
そう、Uは和式便器とスリッパを間違えて、和式便器に左足を突っ込んだうえ、あろうことかスリッパに向かって猛然とゲロしてしまったのである。
だから、彼の左足はびしょ濡れになり、スリッパはゲロまみれとなったのである。
ハニワと化した友人たちを横目にU曰く、
「あれ〜? ちょっと大きさは違うけど、形がよく似てたからかなあ、ヘラヘラ」
いくら形がよく似てるからといって一人の若者に和式便器とスリッパの区別をつかなくさせるとは、まこと、お酒の力は恐ろしいものであるなあ。
* その2。
友人のNは生来、咽頭や食道、要するにノドが通常の人より狭い体質を持っていた。だから彼はハスキーな声色をしていたし、モノを飲み込むにも人一倍多く噛んで小さくしなければならなかったため、ご飯を食べるのも人より遅かった。
しかし、いわゆる「往」がそうであるのだから、「来」もまたしかり。だが、この言葉の意味がわかるのはもう少し話が進んでからである。
さて、ある夜、彼は学業上の悩みから(当時まだ学生ね、ぼくら)、飲んでイヤなことを忘れようとしてしこたま酒を飲んだ。確かにその夜の彼はブレーキが壊れたように飲んでいた。そしてはたせるかな、やがてNは酔いつぶれてしまったのである。
ぼくらは酔いつぶれてしまったNをタクシーに放り込んで帰すことにしたのであるが、ベロンベロンになってクニャクニャのフニャフニャのヨレヨレのグデングデンになったNを抱えたままではなかなかタクシーが停まってくれないのである。
そこで仕方なく彼を電柱の脇にもたせてぼくらでタクシーを拾ったまではよかったのだが、いざタクシーを停めて電柱の影にもたせてあったNを抱えて乗せようとすると、今度はタクシーの運転手さんに、
「おいおい、そんな『マグロ』さん一匹だけ乗せたって困るよ〜、誰かついててくんなきゃあよ」
と咎められる始末。
これまた仕方なく、家の方向が一緒だったぼくが同乗することになったのである。そして悲劇はこの数分後に起こった。
「う〜む・・・気持ち悪い・・・」
Nがしゃがれ声で呟いた。
「おおおっ? ま、まだ我慢せい、な? な?」
ぼくはまだまだ我慢してもらうよう彼に伝えたが、Nはもはやそれどころではないようだった。
「お客さ〜ん・・・停めますけん、降りてヤッてよね」
運転手さんとしては当然のことである。だがしかし、運転手さんがブレーキを踏んでスピードを落とした時であった。
速度が落ちで少し前屈みになったせいで、Nの限界はリミットに達したのである。
「おおおおええええ」
ついにNは、我慢ができなくなり、リバースするに至った。
しかし、問題はその後である。
Nは運転手の真後ろの後部座席に背をもたれたまま、リバースするに至ったのであるが、前述のとおり彼はノドが狭い体質である。
懸命な読者諸氏はもうおわかりであろう。
猛烈な勢いでリバースされた半ネリ状固形物は、射出口の狭さゆえにその速度を増すとともに角度を通常のそれよりも90°上向きに変えて射出された。そしてリバースされた「それ」は、運転手の後頭部を直撃したのである。
普通、リバースは斜め下方45°以下に向かって行うのが正しいリバースのやり方であると思うのだが、Nの場合は、何分酔いつぶれているうえにノドが狭いときている。水鉄砲並みに射出されるのはやむを得まい。
「うわわわっ、なにするんじゃワレ〜!」
そして運転手さんが慌てふためく最中も、Nはひっきりなしにリバースし続けた。その結果、タクシーが完全に停車するまでリバースしたので、運転手さんはおろか、運転座席、シフトレバーやサイドブレーキまでもゲロまみれである。
やがて、タクシーを停車させて下車した運転手さんがゲロまみれのまま、言った。
「・・こういうケースはわしも初めてじゃ・・おい、どうするんなら、オノレラこれを(怒)」
確かにタクシーの中と、運転手さんの後頭部から背中にかけては悲惨このうえないものであった。
やむなくぼくは、ぐったりしているNを横目に、当時の身の上には大打撃であった金2万円也をタクシー代とは別に運転手さんに払い、なんとか許してもらったのである。げに恐ろしきは酔った時のテロ的なリバースであるなあ。
* その3。
え? もう聞きたくない? 確かにぼくも思いだしたら気持ち悪くなってきた。
う〜む、ではまたの機会にお話するとしようか。
でもいっとくが、「少年」はこのテの話題には事欠かないゾ。ああ汚い。
Published 2001.1.25
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