Special Paperbacked Essays, Vol.33

macspin2

 

ギックリ腰とぼくの秘密

- Sking is so wonderful, but... -

 

 冬、といえば雪である。そして雪といえばウインタースポーツの王者、そう、スキーである。

 最近では、ゲレンデの5人に4人はスノーボーダーとなってしまって、雪山の王者の称号という地位をスノーボードに奪われつつあるが、な〜に、いくらスノボががんばってスキーヤーがゲレンデから一人もいなくなったとしても、滑る場所の名前は「スキー場」なのである。どう転んでも「スノボ場」なんて名前にはならないのである。どうだ参ったか、スノボめ。うわははは(といいつつスノボに転向した少年であるが、今回はそのことは伏せておこう)。

 さて、こうしてスノボに対して勝ち誇ってたってしょうがないのである。

 今回は、まだゲレンデがスキーヤー一色だった頃、「少年」が知り得たひょんな謎のお話。このお話は結構知ってる人も多いと思うのだが、あえて全世界に向けて発信することにしよう。

*

 事件は今から数年前、新潟県は湯沢温泉。御存じ、上越新幹線の駅がスキー場に直結していることで知られる「ガーラ湯沢スキー場」を、野郎ばかり4人で訪れた時のことである。

 ぼくらの住む街からH君のワンボックス車でもって一路中国自動車道から北陸自動車道へと夜通し中走らせ、朝方やっと現地に到着したぼくらは、ヘトヘトになりながらも早速スキーの準備を整え、ゲレンデへと飛び出したのである。

 そのおかげで、初日の夜はくたくたになり爆睡したのであるが、翌日のゲレンデで事件は起きた。

 2日目の天候は、曇り時々どんより、のちドンドヨドヨ〜ンといった感じで、しかも気温が高くなってきていて、雨ともガスとも区別のつかないモヤがかかってきはじめ、コンディションはあまり芳しくない。天候がよくないと、スキーのワクワク感もいまいちである。

 が、せっかく新潟県まで来たというのに、そんなぜいたくなことはいっていられない。

「こんなときこそ滑って滑って滑りまくろうではないかッ」

「そうだッ、我々は今まさにガーラ湯沢に存在するのだッ」

「滑ったあとは温泉とお酒が待ってるッ」

「だから我々は滑るのだッ」

 などといった感じで、果敢にゲレンデへと飛び出していった4人であった。

*

 それでもなんとか午後になり体も温まってきたころ、ぼくらは結構難易度の高いコブ斜面を滑ることにした。

 あとから考えると、長時間にわたる車の運転と狭くて揺れる車内での仮眠、着いてすぐの丸一日の滑降などといった要因が大きく働いていたというのに、そんな疲れのたまった体でコブ斜面を滑るのは無謀と言われてもしかたがない。

 まして、ここは天下のガーラ湯沢スキー場である。

 ぼくらは斜面を見下ろしながら不安にかられた。

「う〜む、こりゃキツイな」

「ま、ケガせんようにいくしかないな」

「誰か先にいけや」

「そっちこそいけや」

「いけやといったらいけや」

「いけやといったらいけやといったらいけや」

 などと言い合って、いつまでたってもらちが明かないので、結局思い思いの位置から滑って行くことにしたのである。

 そして、

「うしっ、ぼくがっ」

 といって、ぼくが果敢にコブ斜面を攻め始めて、50mくらい滑降したあたりであろうか。

「ビリビリビリッ!」

 突如ぼくの背中からお尻かけて高電圧電流のような衝撃が走ったのである。

「ア・エ・イ・ウ・エ・オ・ア・オッ?!」

 ぼくが思わず放送部の練習用台詞を口走ってしまったほど、それは強い衝撃だった。そしてぼくの体を走る電流はすぐに激痛と化し、ぼくはコブ斜面中部で滑降を停止せざるを得なかったのである。

 なんとかゲレンデの端っこに停止したぼくは、うずくまって呻いていた。

「う〜ん、イテテテッ! こ、腰がっ、せ、背中がっ!」

 その痛みは想像を絶するものであった。腰を伸ばそうとするとたちまちお尻から腰、背中にかけてとてつもない激痛が走るのである。だからぼくは、その場にストックを突いて腰をかがめた姿勢のまま動けなくなってしまっていた。

 そう、これが俗にいう「ギックリ腰」だったのである。まさに姿勢としてはまるで150歳の水戸黄門といったジジイ状態なのである。

 しかもまずいことに背筋を伸ばすことができないでいるため、スキーで滑り降りることはおろか、スキー板を脱いで立って歩くことすらもできないのである。

「おわ〜・・・こりはまずいな〜」

 ちょうどその時あたりから天候はますます悪くなり、視界がさらに悪くなってきた。激痛の身に天候の怪しさは精神的にもダメージを与えるものである。

 しかし、誰一人として助けに来るものはいない。

 何度かまっすぐ背伸びしようとしても激痛でそれもできない、ということを何度か繰り返してしたが、いつまでもこうしていても仕方がないので、痛みを我慢してジジイ姿のまま自力で滑り降りようとしたとき、ありがたいことにSがそばに滑ってきた。

「おおっ、Sッ、S!」

「むっ? どうしたん?」

「うむ〜・・・それがなあ、なんか急に腰が痛くなって動けなくなった。イテテテ」

「ふ〜ん、そりゃいけんなあ。じゃ、ま、とりあえず下まで降りようや」

 いうが早いか、Sはとっとと滑降を始めた。

 下まで降りれないからここにたたずんでいるんじゃね〜かバカッ、とぼくは言いたくなったのだが、その時Sはすでにぼくの視界から消えかけていた。

 それでも150歳の水戸黄門の心境とスタイルでなんとか下まで降りたぼくは、待っててくれたSと一緒に車に乗り込み、一路最寄りの病院に向かったのである。

*

 さて、出てきたのは老医者であったが、ぼくの姿勢とスキーウェアを見るなり、

「ははあ、こりゃまたヤッタね。あんた、遠くから車なんかで来て、でもっていきなり滑っとったろうが。ギックリ腰じゃな、おそらくは。うむっ」

 といかにも俺はそういう症状は見慣れてるぞテメこの野郎といった口調で言い切った老医者であったが、しかし激痛におびえるぼくとしてはいちいちそんなジャブに応戦してもいられないので、泣き顔でうなずくばかりであるのが情けない。

 やがて準備が整い、やれ横向け背を向け仰向けになれと指示されてレントゲン写真を撮られ、再び待合室で待たされた揚げ句、やっとこさ老医者の最終診断を仰ぐことになった。

 ところが。

 現像されたレントゲン写真をためつすがめつした結果、老医者はしばし考え込んでいる。やがて、老医者はつぶやいた。

「・・・ははあ・・・そうか」

 老医者のこんな台詞を聞いたとき、ぼくはもしやこの激痛の原因にはスキーではなく何か他の肉体的要因があってのことなのか、あるとすれば一体それはなんなのだっ? と身動きできない状態のまま悶々とした。

 やがて医者は、驚きを隠せないままこういったのである。

「あんたあ・・・人より背骨が1本多いよ」

「へ?」

「ほれ、ここ見てみ。ここがこうなってこう・・やっぱ、順番からいっても一つ多いわな」

「はあ・・・?」

 いきなりそんなことをいわれても、何がどうなのかさっぱりわからない。

「たま〜にいるんよね、こういう人」

「・・・それって、この痛みの原因なんすか?」

「ああん? そりゃ関係ね〜べさ。ただ人より骨が多いってだけのこった」

「はあ・・・」

「ま、どっちにしてもこりゃやっぱ『ギックリ腰』だわ。3、4日安静にしてな。動いたり、酒飲んだり風呂入ったりしちゃいかんべ」

 老医者はそう指示してくれたもののぼくはあまり耳に入っていなかった。

 人より背骨の本数が多い。

 それは一体何を意味するか。決してギックリ腰になりやすいということではなく、正常の人よりも背骨一本分、胴が長いということなのである。

「わかった? 安静にしてなよ? スキ〜なんか絶対ダメ」

「ほえ〜い・・・」

 ぼくは適当に返事をしてその場を後にし、窓口で鎮痛剤と湿布薬をもらい、Sに抱えられて150歳の水戸黄門状態のまま宿に帰ったのである。

*

 失意のまま宿に戻ったぼくだったが、体が言うことを聞かない状態では他のみんなと一緒に行動をすることすらできないでいた。だからぼくも、

「ぼくのことはほっといてくれないか。君たちは君たちで楽しく夜を過ごしてくれ」

 と、半ば同情を乞いたい一心で自嘲気味に言ったつもりだったが、Sらは、

「ほうか。んじゃそうさせてもらうわ」

 といって、そそくさと風呂に行く始末。揚げ句の果てにはH君などは、

「これ持ってきたんじゃけど、うまいんよな〜。ほれ、自家製ど」

 といって、酒飲みの垂涎の的、「手作り酒盗」なんかをバッグから持ち出してきて酒を勧めるのである。

 そんなだから、ぼくが医者の忠告を聞かず、風呂に入ったあげくヤケぎみに酒をあおり、腰痛の治癒が著しく遅くなったのはいうまでもない。

*

 こうしてぼくのガーラ湯沢ツアーはあっけなく終わった。結局ぼくは残りの日程を宿で安静に過ごし、怪我から2日後には全員で車に乗ってやっとこさ帰途についたのであるが、ただ単にギックリ腰でスキーができなかったばかりでなく、長年の胴長の原因をも究明されてしまった結果となったのである。

 秘密がわかったのだからいいじゃないか、ヒョウタンからコマだよ、と人はいうものの、こんなコマならぼくはいらないのである。

 

 

Published 2001.2.25

 

 

  

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