Special Paperbacked Essays, Vol.17

macspin2

 

やっぱり恥ずかしいッ!

- Ain't that a shame -

 

 

 誰しも、ふとしたときに昔の出来事を思い出す時、その瞬間、

「うわあ〜!」

 叫んでしまうほどの、とっても、とっても恥ずかしい記憶があるのではないだろうか。

 例えば、満員電車に乗っている時に、ひょんなことからその恥ずかしかった出来事を思い出しては、

「うわわわっ!」

 と思わず叫んでしまったがために、周囲のお客さんから、すわっ、一体何ごとかといった目で見られたとか、あるいは、喫茶店で一人静かに紅茶などをいただいている時に、ひょんなことからその恥ずかしかった出来事を思い出し、

「ひいいっ、やめてくれいっ!」

 と思わず叫んでしまったがために、これまた周囲のお客さんから、すわっ、一体何ごとかといった目で見られたこととかはないだろうか。

 ぼくは大いにあるのである。しょっちゅう、叫んでいるのである。

 叫ぶこと自体も恥ずかしいのであるが、そう叫ばしめる原因となる出来事そのものも恥ずかしいのである。

 しかも年月が経てば経つほど、その羞恥感の度合いは増すばかりである。夜中に寝ている時でさえ夢の中で思い出してしまい、

「はッ!?」

 と目が覚めやがて、

「・・・うっへー」

 とひとり冷や汗を拭いながらまたぞろ眠りにつく、といったことも年に数回あるのである。

 どうして、こんな恥ずかしい出来事を思い出してはフラッシュバックに苛まれるのか? どうしたらこの呪縛から逃れることができるのか? いくら悩んでも記憶は消えることはない。

 そこでぼくは考えついた。

 恥ずかしくてとても人に言えないと思うからこそ、それが表面に出てくるのだ、と。つまり、敢えて恥ずかしいことを人に言っちゃえば、もはやそれは周知の事実となり、ゆえにあえて隠すこともなくなり、うしろめたさもなくなるのではないか。

 うむ、これはとてもよい考えである。

 そんなわけで今回は、

「恥ずかしくて人に言えないけど言っちゃえば楽になるかもよ的な話」

 である。

 とはいえ、今回は最初だから、一応人に言える程度の恥ずかしい話を書いてみることにする。でも決して人には言わんでくれい。

*

 その1、初級編。

 今からかれこれ15年くらい前、友人のUとある市内中心部の商店街を歩いていた時、突然Uが言った。

「俺、やっぱ仕事辞めようかと思うんだよな」

 ぼくは、彼のほうを見ると、それまでの明るかった表情が少しくもっていることに気付いた。それまでもUは何度かその相談をぼくに持ちかけていたのだが、その都度ぼくは彼に、もう少しだけがんばってみたらどうだろうかと答えていた。

 彼の話を聞けば、なるほどそりゃ辞めたくもなるだろうな、と思える節もあるのだが、当時のUには結婚したがってる女性がいた。辞めてもたちまちいい仕事もなかった頃でもあり、ぼくはその時も引き止めることにした。

「・・・もう少しがんばってみたら? きっと状況も好転するよ」

「そうかなあ・・・」

 そのような会話を繰り返しながら、ぼくらは人波で賑わう商店街を歩いていった。行き交う人とすれ違いながらも僕らはそのことについて会話を交わした。

 その時、Uが黙りこくってしまったような気がしたので、これはすかさずUを励まさなければッ! と感じたぼくは、前を向いたままでUの肩をグッと抱き、

「わかった。ぼくも明日からいい仕事があるかどうか一緒に探してみるよ。そんで、もしいい仕事が見つかったら辞めて、そんで結婚しちゃおうよ。な?」

 と熱血青春ドラマさながらに、声高らかに言い放ったのである。

 しかしその時ぼくは、なんとなく手の感触の違和感に気付いて、ふとUの方を見やった。

 すると、ぼくが肩を組んだ相手はUではなく、なんと50歳くらいの女性だったのである。

「ひええっ!」

 あわてて手を放すと、その50歳くらいの女性と、その横に控えし彼女の連れ数人がキャーキャーと大笑い、である。

「な〜に、アンタ、プロポーズされたの?」

「なによなによ、誰が結婚してくれって?」

 ぼくが彼女たちのパワーにボ〜ゼンとしているその時、Uは数メートル後ろで、人波に揉まれながらその出来事を唖然として見ていたのである。

 たくさんの人で賑わう休日の商店街。通りで20歳前後の男が見知らぬ50歳前後の女性の肩をいきなり抱いて、「結婚云々・・・」を声高らかに宣言したのである。

 以来、ぼくは歩行中に会話を交わすときには、必ず相手の顔を指差呼称・確認しながら行うことにしているのである。

*

 その2、中級編。

 ぼくがまだ小学2年生の頃である。

 ぼくらが掃除当番をさぼってドッジボールをしたことが原因で、先生に叱られている時だった。男子・女子あわせて10人くらいいたように思う。

 先生は僕らを教室に集めて言った。

「決まりごとを守らないやつはろくな人間になれんぞ!」

 恐ろしい口調にぼくらはビビった。

「なんで掃除をせんのだッ! ええッ!?」

 誰一人口答えする者はいない。

「もう二度とこういうことをせぬように、先生がお仕置きをするッ! 歯を食いしばれッ!」

 先生はいよいよ激こうし、僕らを一列に並ばせた。その先生の定番仕置き、「ビンタ」である。むろん女子に対しては尻たたきだったが、男子には手加減なしの顔面ビンタである。最近ではこういうのを体罰というのだろうが、当時はビンタなど体罰の部類には入らなかったのである。

「用意はいいかッ! 足を踏ん張れ! いくぞッ!」

 そして、ぼくのとなりの男子のそばに立った先生が、手をあげようとして構えた時である。シーンとした教室内に奇妙な音が響いた。

「プウ〜ッ」

 音の主はぼくである。そう、ぼくは力んだはずみで、あろうことか屁をこいてしまったのである。

「む・・・? ぷぷ・・ぶはは・・」

「・・・うへへへへ」

「おほほほほ」

「ぬはははは」

 先生が躊躇しながらも笑いはじめると、ぼくを除くそこにいた生徒全員が笑いはじめた。ぼくは恥ずかしさのあまり顔をあげられずにいた。やがて最初はクスクスだった笑い声も、自然と爆笑に変わっていった。

 しばらくして先生が言った。

「おいっ『少年』、まったくいい度胸をしておるなあ。まあよい。いいか、今度からもう掃除をさぼるんじゃないぞ」

 なぜか先生は機嫌よく職員室に帰っていった。

 そして、残されたのは緊張のあまり屁をこいた一人の少年のおかげで、ビンタを許された少年・少女たち。彼らは再び大笑いの渦中にはまった。そして友人の一人がいった。

「いやあ〜、助かったわ。すまんすまん」

「ほんと、いいタイミングだったよね」

 などと賞賛と感謝の嵐である。でもぼくは一つも嬉しくなかったのである。

 なぜなら、彼らの感謝のまなざしの裏側に、

「でもなあ・・・なんであそこで屁が出るんだろ〜なあ? ぬふふふ」

「男らしくビンタされた方がカッコよかったんじゃない? なんであそこで『屁』なのかしらね、ヒソヒソ」

 的なニュアンスが子供心に読み取れたからである。

 以来、ぼくは満員のエレベータに乗る時や、法要などで黙とうする時などは、とにかく屁だけは出ないように必死で歯を食いしばっているのである。

*

 その3、上級編。

 ぼくが中学2年生の時のことである。

 ある夏の日、同じクラスの仲良しの女の子、M野さんがぼくに言った。

「ネ、来週の日曜日さあ、みんなでどこか行かない?」

「へ? どこってどこにいくのだ?」

「う〜ん・・・決めてないけど、どこでもいいヨ」

 今だからわかる女心、アホ少年是を知らず、である。当時、剣道&勉学少年だったぼくには、M野さんの誘いが一体何の誘いなのかさっぱりわからなかったのである。あとから聞いた話では、M野さんはぼくや友人たちを誘って複数人によるカップルデートをしたかったらしい。そうとは知らず、ぼくはおよそ気のきかないことを訊き返した。

「みんなって誰なのだ? お前と、俺と・・・あとは?」

 M野さんは予期しなかった問いにうろたえた。

「え・・・え〜と、O田くんでしょ、それからK子でしょ、Y子とか・・・」

 な〜んとなく怪しいとは思ったが、剣道少年のぼくは一途である。女の子がどこか行こうというのに黙って見過ごせるはずもない。それにM野さんはこう続けた。

「と、とにかく、みんなでお昼を一緒に食べようかと思うのよ」

「・・・うむ、お昼か。ならば行くか。ではT川の河川敷がよかろう。あそこは天気の良い日にはとても気持ちがいいのだ」

 などと、ぼくはすっかりジジ臭い台詞を吐きつつ、M野さんと次の日曜日の約束を交わして家に帰った。そうして母親に、次の日曜日はM野さんたちとT川の河川敷に遊びに行くことを告げた。

 次の日曜日。

 河川敷でキャッキャッと騒ぎまくる男女中学生6人。小石を水面に向かって投げたり、水を掛け合ったりしてNHKの「中学生日記」真っ青のプレ青春ドラマそのものである。

 ほどなくしてお昼になり、M野さんがいった。

「そろそろお昼ごはんにしない?」

 待ってましたとばかり、男子たちは適当な箇所にシートを敷き、それぞれ思い思いに座った。そして、悲劇はこの時に起こったのである。

 ぼくはてっきりみんな各自がお弁当を持ってきているものと思い、その日の朝に母親に作らせた自家製弁当をバッグから取り出したのである(!)。思えばこの時のぼくはなんの違和感も感じていなかったのだから、恐ろしい。

 かたやM野さんたち女子3人組は、その日の早朝にM野さん宅に集合して作り上げたサンドイッチをシートの上にひろげた。

 ぼくとM野さんたちの視線が合った。

「え・・・なんでお弁当持ってきてんの?」

 とM野さん。

「へ? だって、『みんなで一緒にお昼食べよう』って言わなかった?」

 平然とアホ少年。

 この後、全員約15秒間の沈黙。

 やがてぼくはただ一人お弁当を、残る5人はサンドイッチを、それぞれ無言のまま河川敷でそそくさと食べ、食事後はこれまたそそくさとその場をあとにしたのであった・・・。

 一体、どこの世界に男女カップルデートの場に母親手製の弁当を持参するバカがいると言うのだろうか? どうすればこんな勘違いをしでかせるというのだろうか?

 以来、ぼくは誰かと数人で遊びに行く時、例えばバーベキューに行く時などは、絶対にお弁当だけは持って行かないようにしているのである(当然である)。

*

 どうだッ! う〜むッ、書いてて恥ずかしいッ!

 それに、書いたからって全然平気にならんッ、やっぱり恥ずかしいッ!

 

Published 2000.5.25

 

  

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