Special Paperbacked Essays, Vol.24

macspin2

 

運のイイ男(前編)

- "Such a lucky guy I am" part 1-

 

 

 毎度ばかばかしいお話であるが、今回は人間の持つ運のいい悪いについて話してみたいと思うのだ。

 というのも、ぼく自身は昔から結構運のいい男だと思うからなのである。

 誤解のないようにしていただきたいのだが、運がいいからといって、宝くじが当たったとか、財布を拾ったとか、そういう金運ではない。またあるいは、乗るはずだった飛行機に乗り遅れたけれど、その飛行機は途中で墜落してしまったとか、そういう悲運回避的な話でもない。

 要するに、何かコトをしでかしたときに、本来負うべきはずのリスクが最小限にとどまったか、あるいは皆無だった、という程度の話なのである。

 そんなぼくが一番運が良かったなあと思うのは、やはり高校生時代である。

*

 普通、高校生の男の子というものは、大人と少年の狭間を微妙にドリフトする年ごろであるから、ちょっとしたヘマをしでかした時など、その顛末如何によっては、それ以降の人生を大きく左右されかねない大事な年頃だと思うのである。

 その証拠に例えば、ぼくの友人でサッカー部だったある男は、先生から

「おまえはサッカーは巧いか知らんが勉強はできんなあ」

 と言われ、それを真に受けた友人は、後にサッカーは当時の社会人リーグからスカウトが来るくらいの力量にまで上り詰めたものの、勉強は全くできなくなってしまったりしたのである。

 そんな人生の前夜祭とも呼べるべき多感な高校生の時期を、ぼくは結果的にではあるが実に巧みに泳ぎきったような気がするのである。

 ちなみに例えば、テスト。

 ぼくらはよく集団で先生の目を盗んでカンニングをやらかした。これが結構ばれずにすみ(もちろんバレた生徒もいたが)、先生からは、

「う〜む「少年」、平素よく授業を聞いて勉強してる成果がでたッ。今後もこの調子でガンバレよッ」

 などと、カンニングのおかげで獲得した満点の答案用紙をもらって、ウシシとほくそ笑んでいたものである。

 しかし、そんなのはまだ序の口。

 なんといってもツイテいたその最たる例は、タバコである。

 ぼくは今ではタバコはやめてしまったが、高校生の時はタバコを所持または吸引することによって、一種のステータスとでも言おうか、なにがしかの優越感と周囲の羨望を集めるアイテムであった。無論、タバコは20歳未満は禁止であるが、そのご法度を密かに破ることが、カワイイ不良たちのステータスであったのである。

 さてここからが本題。

 ぼくがタバコを生まれて初めて吸ったのは、高校1年生の冬である(こんなこと言ってももう時効だろうな、ホントに・・・)。

 ある日、悪友O君とS君(ちなみに、このS君という人物こそ後のぼくにさまざまな悪行を伝授した人物である)とぼくの3人は、放課後の教室に残って好きな女の子の話を展開していた。

 だが、日ごろ3人とも先輩たちのタバコを吸う姿にあこがれていたのと若気の好奇心から、タバコというものは一体どういうものか、なぜか話は女の子からタバコの方向へとそれていったのである。

 だがしかし、そこはカワイイ不良の見栄があり、自分の口からは、

「ボク、タバコ吸ったことなんてないも〜ん」

 などとは言えない。自然と会話がきごちなくなってきた。

(以下、カワイイ不良たちの会話・東京弁バージョン)

「ところで、F先輩ってさあ、タバコ吸ってるの知ってた?」

「うむ、俺見たことがある」

「俺もだ。結構みんな吸ってんのかな」

「う〜む」

「・・・なあ」

「・・・なんだよ」

「・・・おまえら、タバコ吸ったことってある?」

「え・・・い、いや、あるかなあ・・・い、いや、やっぱないなあ」

「お、俺もないなあ、実は・・・」

「だろ?」

「お、おう。オマエはあんのか」

「い、いや、俺もない」

「・・なんだ・・・」

「吸ってみる?」

「吸ってみるか」

「吸おう吸おう」

 とこんな具合で話はまとまった。しかし、吸ってみようと決まれば、カワイイ不良たちはさっそく手順を確認しあった。だがしかし、ここでも問題発生、である。それはタバコそのものをどうやって調達するかということである。

 当時は今と違って、タバコはたいていタバコ屋さんの店先か、その店に隣接する自動販売機でしかタバコを購入できなかった。つまり、タバコを購入するにはタバコ屋の店先かよほどの往来でないと買えなかった時代なのである(ううう、年がバレちゃう・・・)。

 だから、いざタバコを吸おうということになっても、学生服を着たまま一体誰がそのような店先などで堂々とタバコを買うのかという問題が浮上したのである。

(以下、カワイイ不良たちの会話・大阪弁バージョン)

「O君、買いにいきいな」

「な、なんでやねん、S君こそいきいな」

「アホ、わいがこんな格好(学生服)で買いにいけるかいな、ほなら『少年』いきいな」

「え・・・」

「そうや、『少年』買いにいきいな」

「う・・・」

「いきいな」

「いきいないきいな」

「いきいないきいないきいな」

「・・・かなんな、んもう」

 なんだかよくわからないが、とにかくそういうようなわけで、O君とS君が見張り役で、気の弱いぼくが実際にタバコを購入する役になった。

「マイルドセブンが最初はいいらしいゾ」

「いやいや、やはりハイライトが日本人には合うらしい」

「ラークはちょっと高いな」

 などと、一丁前のことをひそひそと言い合いながら、ぼくらは比較的人通りの少ないタバコ屋の横に設置してある自動販売機の前に立った。

 ぼくは一応学生服の上着だけは脱いで、そそくさとお金を投入し、マイルドセブンのボタンを押した。そしてそれはすぐに下の商品口に出てきた。予期していたこととはいえそれまで自動販売機などをつかったことのなかったぼくは思わずびっくりしてしまい、慌てふためいた。

「おわわッ、出た、出てきたッ」

「あ、当たり前だろッ、早くとれよッ」

「静かにやれよ、静かに」

「わわッ、誰か来たッ!」

「ひええッ!」

 などと、んもうパニック状態である。

 しかし、そこは運のいいぼくのこと、タバコ屋の店番のオバサンにも不審がられずにすんだのであるが、とにもかくにもこんな調子で、ぼくら3人はタバコを買うことに成功した。

 こうなると次にすべきことは、着火剤の調達である。

 今でこそ100円ライターがまん延しているが、当時はまだそのようなものは世の中になかった。そこで、ぼくらは理科実験室にあった実験用アルコールを点火するために使う、「大型徳用マッチ」をくすねることにしたのである。

 幸い、その日の放課後には誰も実験室におらず、また誰にも見られずに実験室に入ることができたため、労せずしてぼくらはマッチをも手に入れることができた。全く運のいいとはこのことであろう。

 さて、タバコ、マッチと揃えたぼくらに必要なのは、あとは喫煙場所だけであった。

 これは、カワイイ不良高校生の定番プレイス、屋上しかあるまいということになり、ぼくらは迷うことなく屋上に上がった。今から考えてみれば、屋上というのは実に喫煙に適した場所であることがうかがえる。

 まず、高いところで吸うために煙が目に付かない、他人の迷惑にならない、同様に人目につかない、そして喫煙に適したリラックスできる風景と環境が得られる、などである。

 さてさて、環境とアイテムのそろったぼくら3人は、早速火をつけて吸ってみることにした。

(以下、カワイイ不良たちの会話・広島弁バージョン)

「どうやって吸うんかいのう?」

「先っちょに火ぃ点けてのう、すぐ息吸やあええんじゃないか思うんじゃがのう」

「ほいじゃが、一気に吸うたらたちまちムセるけんいうて誰か言よったような気ぃするんじゃがのう」

「ほいじゃあ、誰か吸うてみいや」

「わしゃあええけん」

「わしもええわい」

「ほいじゃあわしが吸おうかぁ」

「シゴされんなよ(意訳;ヤラれんなよ)」

 などと、不安めいた会話をしつつ、結局ぼくらは3人同時に火をつけて吸い込んだ。

 結果は・・・ほぼ3人同時に急性喘息状態に陥ってしまったのである。

 しかし、それは最初の1本だけのこと。

 その後、翌日も、そのまた翌日もカッコつけて吸ってみたりしているうちに、ものの数日後にはぼくらはれっきとしたスモーカーの仲間入りをはたしていた。まさにニコチンの面目躍如、効果絶大である。

 ほどなくアイテム類も充実を図りはじめた。堂々とタバコを持ち歩くことは危険きわまりないので、カムフラージュのためにカセットテープケースの中にタバコを数本しのばせるようになり、いつも屋上や自転車置き場の影などに隠れてタバコを吸っていたのである。

*

 しかし、悪事は長く続かないもので、不幸は突如やってきた。

 ある日、O君の友人がひょんなことからヘマをしでかしてしまい、結果的に学生服の中に入れてあったタバコを先生に見つけられてしまった。

 すぐにそいつは職員室に連れていかれ尋問を受けたのだが、その時先生から、同様にタバコを吸っている連中がいるのではないか、その連中の名前を言えと追及されて、そいつがすぐにO君の名前を白状したために、当時タバコを吸っている連中は芋づる式に職員室に呼ばれ、当日のうちに保護者たちに通報されてしまったのである。

 その事実を放課後に知ったぼくらは戦々恐々とした。こうなればぼくらもいずれ呼び出しを受けるであろう事は明白であった。

 しかも、O君とS君とぼくの3人は特に仲が良かったために、この3人のうち誰かが捕まれば、それこそ芋づる式に一網打尽にされることも明白であった。

 だがしかし。

 ぼくはその日呼び出しを受けなかった。

 なぜならО君は、ぼくとS君の名前を白状しなかったからである。

 О君はなんと友達思いのいいヤツであろうか。そしてなんとぼくたちはツイているのであろうか。ぼくとS君はほっと安堵の胸をなで下ろした。

 だがしかし(再)。

 ぼくだけは全くもってツイていた。

 というのも、S君は翌日、別ルートの友人の「芋づる」により、あっさり呼び出しを受け、同様に親に通報されてしまった。

 ところがS君もまたО君同様、ぼくの名前を割らないでくれたのである。なんと友達思いのいいヤツであろうか。

 おかげで、一連のタバコ吸引不良生徒たちのリストにはぼくの名前は出なかったのである。

*

 このように、なんとぼくはツイているのであろうか。

 カンニングをはじめ、タバコといい、高校生のぼくはまったくもって自分自身がツイていることを確信したのである。

 ところが世の中はそんなに甘くなかったのである。というのもぼくはその後、とんでもない事実を知ることになるのである。

 はたして「運のいい」とは一体どのようなことを言うのであろうか・・・(「後編」に続く)。

 

 

Published 2000.9.10

 

 

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