Special Paperbacked Essays, Vol.25

macspin2

 

運のイイ男(後編)

- "Such a lucky guy I am" part 2-

 

 

 前回のお話は、いわばカンニングしてもタバコを吸っても先生に見つからず、運良く咎められなかったぼくなのだというお話だったが、ではその後どうなったか、というのが今回のお話である。

 ちなみに、前編と後編に分けたのは話の重大な展開があったわけではなく、ただ単に長かったからなのである。期待した諸君、済まないなあ。

*

 例によって悪友O君とS君とぼくの3人は、タバコのみならず、よく授業をさぼって麻雀をしていた。

 聞くところによると、最近の高校生たちは授業中に堂々と麻雀をやるのだと聞いたことがあるが、それに比べれば授業をさぼって麻雀をするなど、他の生徒たちにとっても授業をの邪魔をしないだけカワイイものである。

 しかも、麻雀といっても、実際のジャラジャラ音を立てる牌を使ってやるのではなく、トランプのような、いわば旅行用タイプとも呼べるカード型の静かなやつである(最近は見かけないなあ・・・)。

 しかも、放課後の誰もいなくなった教室を使っての麻雀であり、カワイイ不良たちはカワイイ不良たちなりに、周囲に気を使っていたのである(そんな不良いるかって〜の)。

 さて、そんなある日、ぼくらは美術の授業の一環で県立美術館に絵画鑑賞に出かけることになった。ところが、この絵画鑑賞、生徒のめいめいが適当に固まって美術館に行きめいめいが適当に鑑賞してめいめいが翌日感想文を出すという、極めてアバウトなものであった。しかも、先生の引率さえもないのである(先生までもがめいめいに行っていたらしいのである)。

 となると、小学生でもわかる話だが、生徒たちが美術館に行こうがどうしようがわかるはずがない。美術館に飾ってある絵などそんじょそこらの本屋の写真集でも見れる。

 ゆえに。

 カワイイ不良のぼくたちが真面目に美術館に行くはずがない。

 美術館行きをさぼって、遊びに行くことになるのは必然というものである。

「おい、これからどうする?」

「うむ、サテン(喫茶店)にするか?」

「いやいや、せっかくだから、麻雀しに行かんか?」

「いいねえ」

「では行きますか」

「行かれますか」

「ムフフ」

「グフフ」

「ウヘヘ」

 てなわけで、ぼくとO君とS君は雀荘に行くことにしたのである。

*

 それまでO君とS君は雀荘は何度か行ったことがあるらしかったが、ぼくは初めてだった。

 H駅前の「N会館」というパチンコ屋の2階に、その雀荘はあった。

 今でも覚えているが、その雀荘の入り口には、

「18歳未満入店禁止」

 と書かれた看板がでかでかと出ていたものである。

 つまり、当時は学生はもちろん、学生服で雀荘に出入りすることは、法律に抵触することだったのである(どの雀荘でもそうである。今でもそうだが)。

 要するに規則違反は規則違反であるのだが、ぼくとO君とS君は最低限のルールはきちんと守っていきましょうやってやつで、きちんと雀荘に入る前にはガクランを脱いで、それをバッグに忍ばせてから店に入り、卓についたのである。堂々とは規則を犯さないところ、そこはやっぱりカワイイ不良なのである。

*

 雀荘でぼくとO君とS君は麻雀にふけっていた。

 ぼくたちが高校生であることは、もちろん店員もうすうす気がついていたのに違いないが、せっかく来て麻雀を打っているお客さんをむざむざ帰したりするようなことはしないので、半ば黙認である。

 ところが、お客さんの中には、

「俺は一切の不正を許さないゾッ!」

 なんてな、ある意味裁判官にでもなったほうがよかったような人がいて、ぼくらが高校生だと気づくと店員あるいは学校、最悪の場合は警察に通報しちゃうような人もいるのである。

 あにはからんや、その日もそういう人はいた(らしいのだ)。

 そんな事とはツユ知らず、ぼくとO君とS君の3人は、

「おっ、出たかチョーさん待ってたホイ! な〜んちゃって(注;使い古されたギャグ)

「あ〜あ、俺オリたオリた、『折たく柴の記』! な〜んちゃって」(注;『折たく柴の記』=確か高校の日本史に出てきた偉い学者が書いた本の名前だったような・・・)

「うっへ〜、そのリーチ、なんかチクチクくるねえ、チグリスユーフラテス河! な〜んちゃって」

「ぐええ〜、何じゃそのダサい上がり手は! ダサいダサいの太宰治! な〜んちゃって」

 などと、授業で習った単語や名詞を織り交ぜた、くっだらない駄洒落を言い合いながらの舌戦麻雀である。

 しかもこれらの会話はすべて、タバコをふかしながらの会話である。雀荘で高校生らしき若者が、タバコを吸いながら平日の昼間から麻雀をしている・・・・まあ通報されないほうがおかしいというもの。

 そしてはたせるかな、ぼくらは学校に通報された。

 でもどうしてぼくらの学校名が特定できたかというと、それはS君の持ってたバッグに市立F高校のネームがばっちりデカデカと入っていて、S君はそのバッグをあろうことか壁際の上着掛けにド〜ンとかけていたからである。しかもご丁寧にそのバッグには当時流行りはじめた白いマジックペンで、これまたしっかりと「S」の名前が記されていたのである。

 しかも、通報された内容ってのがとんでもなくて、あとで聞いたところによると、

「雀荘で学生が麻雀を打っているらしい」

「そのうち一人は大勝ちを収め、多額の現金を受け取っているらしい」

「負けたほうは暴力団関係者から資金援助を受けているらしい」

「タバコだけでなくマリファナも吸っているらしい」

「人を殺して逃げてる途中らしい」

 などと言われたい放題。もちろんこれらは誇張表現であるが、一部事実があって、それは大勝ちを収めていたのはO君であり、大負けこいてぼくに借金を申し込んだのはS君だということである。

 さて、通報されているとも知らず、ぼくらは適当な時間を見計らって雀荘を出て学校に戻った。

 すると、次の授業が始まる前に教室に教頭先生がやってきて、

「S君てのはいるか? S君てのは誰だッ?」

 とわめくではないか。

 S君は驚き、

「ぼくですけど」

 と言うが早いか、教頭先生が

「君がS君かッ! すぐに職員室に来いッ!」

 と叫んで、S君を連れていってしまった。

 ぼくとО君はイヤ〜な予感がしたのだが、30分後、職員室から「保釈」されたS君が帰ってくると、やはりその予感は当たっていた。S君は雀荘で麻雀をしていたことが通報されてばれたことを告げ、肩を落として、

「・・・なんでバレたんだろうか?」

「う〜む」

「俺、なんか目立ってたかなあ」

「う〜む」

「俺、会話には気をつけてたんだけどなあ」

「う〜む」

 しかし、あとから考えれば、

「そりゃあ、お前がネーム入りのバッグを壁に掛けてたからだろ〜がッ!」

 と吉本新喜劇風のツッコミをいれたくなるのだが、落ち込んでるS君を目の前にして言えるものではない。それに、S君はО君とぼくと麻雀をしたという事実を決して漏らさず、先生には雀荘の店員と打った、と証言しているので、ぼくらはそれ以上S君にツッコミはいれられなかったのである。

 かくして、S君は、前回のタバコといい、今回の麻雀といい、親にも見放されてしまい、とうとう「不良」のレッテルを貼られてしまったのである。まあ、もっともS君に限って言えば、彼はそれ以外にも形容のしようのがないほどの悪いことばかりしていたので(これはまた別の機会に・・・)、周囲にはさほど影響はなかった。

 となれば運のいいのはぼくである。

 タバコ、酒、麻雀・・・ありとあらゆる悪行をとがめられず、また容疑者リストにも挙がらなかったのである。もちろんこれにはО君とS君という、決して友人をチクらない友達思いのヤツラに恵まれたせいもあるが、これとて一種のツキであろう。

 と、このようにして、とうとうぼくは高校の3年間のほとんどを、いわゆる本当の意味の「不良」のレッテルを張られずに過ごしたのである。

「フハハハ、どうだ、諸君、ぼくはツイているのだぁ〜!」

 ・・・などと叫びながらも、ぼくはしのびよる悪魔に気づかないでいたのである。

*

「いや〜、ぼくほど運のいいやつもおらんよなあ」

 と、3年生の終業式を間近に迎えた12月のある日、ぼくはタバコをふかしながら周囲に吹聴していた。すると、クラスの誰かがぼくを呼びに来た。

「先生が呼んでるよ。職員室だそうだ」

 ぼくは、おおかた来年の卒業を控えて、部活のなくなった剣道部の部室に置いてあるぼくの荷物をいつ引き取るのか、といったくらいのお小言だと思って、職員室を訪ねた。

 すると、びっくり! である。

 なんとそこには、担任のY先生とぼくの母親がかしこまって待っていたのである。

「おう、来たか。ここへ座れや」

 と、低い口調でなにやら不気味な雰囲気を漂わせている。

 母親ときたら、まるで昼メロドラマのヒロインの継母を演じる佐久間良子のように、陰湿な雰囲気を醸し出し、うつむいたままである。このシチュエーションはかなりマズイのでは・・・直感的にそう思ったぼくが、恐る恐る座り、何事かと訊ねると、Y先生と母親から発せられた言葉は、ぼくの想像をはるかに超えたものであった。

「おう、ワレ(注;「お前」の意)、ちょっと上着脱いでポケットの中見してみいや」

「え?」

「ポケットの中に何が入っとるんか、いうて言いよるんよの」

「な、なにも・・・」

「今の今まで、バレんかったと思うとるんか?」

「は?」

「ОとSとワレがツルんで悪さ(注;ここではタバコや酒をたしなむなどの法律違反の意)しよったんはみ〜んなお見通しなんど」

 ぼくは身が凍る思いがした。するとここで、母親が顔をあげた。

「・・アンタ、先生やウチが何も知らん思うとったら甘いんよ」

「はひ・・・?」

「あんたが麻雀したりタバコ吸ったり酒飲んどったのは、みんな知っとるんじゃけんね、ウチは」

「ええっ?!」

「ワレ、うまくОとSが隠してくれたいうて思うとるみたいじゃが、み〜んなわかっとるんど。考えてみいや。ОとSのほかにも悪さしよったヤツラもおるいうのに、その中でワレの名前だけ今まで出んかったんど、いっつもお前らツルんどるのに逆におかしかろうが」

「う・・・」

「じゃが、ワレも主犯格じゃあないにしても、相当悪さしよったんじゃのう。ОとSがそういうて言いよったけん」

 これを聞いたぼくはびっくりして、

「えっ、О君とS君がそう言ったんスか?」

 Y先生は自信たっぷりに、

「あの二人が今でもお前の名前を出さんかった思うとるんか? え?」

「ぐ・・・」

 母親も、

「もう正直にいいんさい」

 ぼくは、О君とS君は絶対に言うはずがないと思いながらも、でもこういうふうに聞かれればそういうこともあるかもしれない、もはやこれまでか、と観念してしまった。

「う・・・すいませんでした」

 ぼくは、ポケットの中のタバコ類をテーブルの上に置いた。すると、

「ほらみいや。ね、お母さん」

「やっぱりアンタ・・・うううッ」

「え? え?」

「ワレも友達思いのないヤツよのう、ОとSはワレの名前を言うとらんいうてさっき言うたじゃろうが。自分から自白してからに、お前こそバカじゃのう」

「な? な?」

 つまり、Y先生の言うには、ぼくがО君とS君と麻雀をしたりタバコを吸ったり酒を飲んだりしていたのはうすうす知ってたけれど、現場を目撃してもいなければ直接の証言もなく、またО君とS君のみならず誰もぼくの名前を出さないので一緒に遊んでる仲間にしてはおかしい、とかえって不信を募らせていたようなのだ。

 そこで、母親を学校に呼んだうえ、О君とS君がしゃべったとほのめかせば、自ら証拠品を出したり自白するのではないかと考えたらしいのだ。そうして見事その小汚い策略にはまったぼくは、その後1時間近くに及ぶ取り調べ(?)と説教を延々受けることになったのである。

 その後、さらに詳しい持ち物検査が行われ、タバコはおろか、もろもろの青少年にとってけしからんグッズ(詳細は内緒・・・)は押収された。ぼくは一躍「ワル」の首謀格になってしまったのである。

 こうなると、ぼくはもうまるで遠山の金さんに桜吹雪を見せつけられて裁かれた直後の下手人のように、ただもうひれ伏すしかなかったのであり、この時の心境たるや、覚せい剤取締法違反容疑でもって海外逃亡する直前に、成田空港の税関で逮捕された外国人売人のようであった・・・。

*

 しかし、なぜかぼくの場合は卒業間近になって発覚したため、事が荒立てられずにすんだ。これも言ってみれば運の一つであろう。

 だが、結局のところ運のいい悪いではなく、ぼくは友達に助けられていたという方が正しいのかもしれない。

 まあ、不幸中の幸い、という言葉もあるし、これはこれで吉としよう。はっはっは。

 

 

 

Published 2000.9.25

 

 

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