Special Paperbacked Essays, Vol.40

macspin2

 

乗物酔いってイヤだ

- I did'nt like picnic going take a bus in my youth days, because・・・ -

 

 

 自慢じゃないが、ぼくは大の乗物酔い人間である。といっても、子供の頃の話であるから、今ではよほど体調の悪いとき以外にはそういうことはない。

 どれほど乗物酔いがひどかったかというと、小学生の頃に遠足に乗って行くバスに乗ろうとしただけで、気持ち悪くなってしゃがみ込もうとしたほどである。確かに遠足用バスのあの独特の臭いは今でも嗅ぐとたまったものではないのだが、小学生の頃なんかは、まさに

「パブロフの犬」

 の理論を自らが証明して見せていた状態だったのである。

 乗物酔いは何と言っても堪え難いほどの頭痛、吐き気が主な症状であるが、それ以外にも目まい、異常な肩こりなども出てまさに身動きすらできなくなることもある。この世にこれほどの苦痛があろうかと思うほどであるが、車を降りてしばらくすれば治ってくるのだから不思議である。車の振動が主な原因なのだろうか、その証拠に遠距離ドライブではたいてい行きの車内で酔うことが多い。不思議と帰りは酔わないのである。

 そんなぼくも最近ではめったに酔わなくなったが、その理由は乗り物慣れしたことと、ある食べ物のおかげであると思っている。

 そのある食べ物とは何か?

 それを順を追ってお話しようというのが今回のお話である。

*

 ところで小学生の頃といえば、何もぼくだけが乗り物に弱いのではなく、クラスの約半数のこともが乗り物を苦手としていた。いくら酔い止めクスリを飲んでいたとしても、バス出発直後に先生が、

「は〜い、皆さ〜んおはよう、昨夜はよく眠れましたかあ〜?」

 などとマイクをもって喋り始めた途端に、

「ウエロエロエロ〜」

「ハッ! 先生ッ、××君がハキましたッ!」

 となるのもしばしばだったのである。

 さらに悪いことに乗物酔いには、通称、

「モライゲロ」

 という症状を引き起こす特徴があって、これは他人の乗物酔いによる症状を見たり、その音を聞いたり、さらにはその臭いを嗅いでしまったりした場合、かなり高い確率で伝染してしまい同様の症状を引き起こすという、いわば感染による二次症状のことである。

 だから、前述のように誰かが出発早々、

「先生ぇ〜、○○君がぁ〜」

 などと余裕かまして車内の通路を歩いて先生に連絡したとしても、次の瞬間にはその「誰か」だって、

「あっしまった、今○○君のゲロ見ちゃった! ううう気持ち悪りい、うううもうだめエロエロエロ〜」

 となってしまうことも多々あるのである。まさにミイラ取りがミイラに、コブ取りがコブに、ゲロちくりがゲロもらいに、なのである。

 だから、ただでさえ乗り物に弱いぼくとしては、自分が我慢していても「モライゲロ」になってしまうこともあったし、そんなだから常に遠足や工場見学といったバスに乗る行事は大の苦手だったのである。

*

 そんな中、最も印象に残る出来事はやはり小学校の遠足であった。

 その日は天気もあまりよくなくどんよりとした空模様。おまけに行き先は郊外の山の上にある農園。必然的にそこに行くまでの道のりは、

「ザ・ロング・アンド・ワインディング・ロード」

 である。

 まさに、先生たちが計画した

「オラオラガキども、酔わんかいッ!」

 的なイジワルな意図見え見えの遠足なのである(少なくともぼくにはそう思えたのである)。

 ところがその日、窓際に座っていたぼくは不思議と酔わないでいた。その理由は、朝食の時にある食品を沢山食べたせいだと思われる。

 そんな朗報的な食品とはなにか?

 それこそが今日のテーマ、梅干しなのである。

 オフクロがいうには、なんでも梅干しには乗物酔いを防ぐ効果があるとかないとか本で読んだというので、朝からそれ食えやれ食えとせかされたぼくは、オバアサンのような顔をしながら酸っぱさに耐えつつ梅干しを食べてきたというわけである。

 実際これといって確かな手ごたえはないのだが、そういえば胃の辺りも何となくすっきりしてて、頭痛も起こってこない。まさに初めての快適なバスツアー体験である。

 そうなるとバスの中でじっと座っているのが退屈なほどである。

「酔いやすい子」

 のレッテルである窓際におとなしく座っている必要などないのである。

 ぼくは周りの友達にしきりにはしゃいで喋りかけてばかりいた。まさに有頂天であった。

 さて、しばらくすると郊外に出たバスは、徐々にその揺れを大きくしていった。すると、隣の子が、

「ああなんだか酔いそう・・・」

 などというので、いつもなら頑として窓際の席は譲らないところであるが、その日のぼくは、意気揚々として、

「さあこっちに座りたまへよ」

 などといって、自らバスの中央部に腰掛けたのである。ところが悲劇はここから始まったのである。

 まず、後方斜め2つ後ろの方角の席からウンウン唸る声が聞こえてきた。続いてビニール袋に何やら液体とも固形ともつかぬ物体が注がれる音。

「ううむっ、こ、これは」

 ここは一体誰が早くも離脱したのか確かめたいところであるが、ぼくは好奇心を抑えて先生に報告するよう前の席の子に異変を伝えた。

 すると、今度はすぐ後の席の子が、

「ウラアアア」

 と、これまた液体とも固形ともつかぬ物体がビニール袋に注がれる音とともに何やら異臭が漂う。

「うううっ、連続攻撃か、これはたまらんっ」

 さすがにここらへんで伝染病「モライゲロ」によって自分自身がやばくなるのを感じながらも、梅干し効果でグッと抑えた。

 ところが早速他の人にも伝染したのか、なんと先ほど席を変わった隣の席の子までもが、

「ウロオオオ」

 とやった。

「!!」

 最初の子のは音響効果のみ、二番目の子のは音響効果に加えて強臭効果、そして三番目の隣の子のは音響効果、強臭効果、視覚効果ときて、まさに効き目三倍である。

「うへえええ・・・」

 しかし、ぼくは耐えた。おそらく耐えることができたのは梅干し効果なのだろうが、もう一つは3人もの乗物酔い患者を発生させたため先生がすぐにバスを停車させたことで、適切な処置をとったことによる二次災害の防止効果であろう。

*

 とにもかくにも、ぼくは最悪の思い出を作らずに遠足を終えた。ちなみに、先ほどの3人の残りの小学校生活はあまり楽しいものではなかったかもしれない。というもの、小学生というのは全く残酷で、彼ら3人はその後周囲から、

「や〜い、ゲロ出し人間!」

「バッチイバッチイ」

「切って切って! 早く切って!(両手の指をつなげだ状態にし、他人に手刀で切ってもらうと『バッチイ』のがうつらないという、いわゆる子供のオマジナイ)」

 などとからかわれていた。これこそがまさにイジメなのである(そういいながらもモライゲロを免れた勢いでぼくはバッチイバッチイを連呼するほうにちゃっかり回っていたのだが)。

 いずれにせよ、ぼくは今でも毎日梅干しを食っているのであるが、乗物酔いにお困りの方は一度試してみるがよろしい。

 まさに梅干しを「梅干し様々」と崇めることウケアイである。

 

Published 2001.6.10

  

  

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