
酒の肴
アルコールを飲むとき、ただアルコール分のみを飲むだけということは少ないだろう。何がしかの食べ物、いわゆる「肴」を口にしながらお酒を飲むのが味的にも健康的にもいいのだそうで、たいていの人がそうしていると思うのである。
かくいう「少年」もお酒は大好きなのであるが、やはり肴なくしてはお酒は飲めない。何か口にしていないと、お酒がノドを通らないのである。
それに、肴のないままグビグビとお酒を飲んでいると、ひどく悪酔いする。胃や腸が直接アルコールを大量に吸収してしまい、アルコール血中濃度が急激に高くなるからだ。しかもその酔い方たるや半端ではない。前後不覚になることしばしばである。そしてその後に地獄の苦しみを味わうことになるのである。酒飲みの大半はその時の苦しさを知っているからこそ肴を口にしたがるのかもしれない。
いずれにせよ、お酒を飲むときは何か肴を口にする、これが鉄則なのであるが、だからといって食べられるものなら何でもいいというわけではない。味わうお酒の種類によって、また季節によっても微妙な相性があるのである。
今回のテーマは、お酒の肴とちょっとしたウンチクについて。
* まず、ビール。
ビールに合う肴となると、これがまた多種彩々。焼肉、枝豆、ピーナツ、チーズ・・・とまさにビールはオールラウンドな万能選手なのである。
しかし、ぼくの一押しのビールの肴は、なんといっても「豆腐」である。豆腐をいわゆる冷奴にして食うのである。
豆腐の水気をよく切って適当な大きさにして皿に移し、ネギと生姜をかける。お好みで海苔、茗荷などもいいだろう。練り唐辛子などもツウといえる。これらに醤油をたらし、適当なサイズに箸で切り分けて口に運ぶのである。そして、すかさずビールを流し込む。すると、ビールの苦味、豆腐の透き通ったような甘さ、薬味達のピリリ味が混ざりあって、まさに絶妙なのである。
言うまでもなく豆腐は栄養的に見てもいいし、ローカロリーでアルコールの友には最適でもある。
ところで、ビールといえば缶ビールが主流である。この缶ビールをプシュッと開けてそのまま缶に口を付けて飲む輩がいるが、これは邪道である。なぜなら、ビールの味の決め手は泡といってもいいほど、泡の役割は重要だからである。ビールは空気に触れると酸化が進み始めるらしく、確かにビールを放置しておくといくら冷やしても旨くない。だから泡が直接ビールが空気に触れるのを防ぐ役割をしているのだそうだ。
だから、缶ビールを買っても、飲むときは必ずグラスに移して、泡をよく立てて飲むのがよいのである。
余談だが、ビールを注いでもらうときにグラスを傾けるのも泡が立ちにくくなるからダメ。わかった? オッホン。
* 次に日本酒に合う肴について。
日本酒といってもピンキリで、大吟醸酒(原料米の精米歩合が高いもの=より精米するほど純粋な味に仕上がる)からアルコールを混ぜるもの、またウマイのもあれば、混ざり物の多いような安物もあって、一概にどれがよいというのが大変難しいのであるが、日本酒が我が国古来の飲み物であることをふまえて考えてみれば、やはり日本酒の肴といえばこれ、「烏賊(イカ)」であろう。
世界の中でも日本人が特に好む魚介類とされている烏賊は、刺し身でも旨いがいわゆる「スルメ」や「アタリメ」、「サキイカ」と呼ばれる干物の方が人気があるようである。確かに、これら干物をそのまま食ってもいいが、冬などはストーブの上で軽く焙って食うと、これがまた旨い。それらにマヨネーズや七味をつけて食べると美味である。
しかし烏賊といって忘れてはならないのが、「イカの塩辛」である。塩辛というのは烏賊の内臓を取出し、塩をよく振って身の部分と和えるのであるが、日本酒の肴といえば、東の正横綱・スルメ、西の正横綱・塩辛と言えるほどである。
さらに、もっといえば、烏賊の塩辛をはじめ、蛸の塩辛やブツギリ、帆立貝の山葵漬けや塩辛・干物、鰹の酒盗なども番付からはずせない。
それらのもの、例えば焙ったスルメもしくは塩辛を口に入れ、少し温めた日本酒を猪口でキュッと一杯。多少お行儀は悪いかもしれないが、なみなみと注がれたお猪口に口を近づけ、一気に頭をのけ反らせるようにして飲むのである。この時、日本酒を猪口の中に一滴も残さず飲むというのが正統派日本酒の飲み方であるそうな。
* さて庶民のアルコール飲料の王道、焼酎には何が合うであろうか。
焼酎は蒸留酒の一種であるから、特に原材料に麦や米を使った焼酎などは、味そのものは無味に近いくらいである。要するに日本酒と比べるといわゆる旨味・コクというものが極端に少ないのである。旨味が少ないということ余分な成分が少ないということであり、それゆえ悪酔いしにくいということもあるようだが、焼酎の湯割りには、だから梅とかレモンとかを入れる場合が多いようである。
そんな焼酎には何が合うのかというと、これまたなんでもいい。焼酎自体がさほど自己主張をしないアルコール飲料であるから何でも合うのだが、どれか一つを、というのならばぼくはこれを推したい。
それは、「マヨネーズ」である。意外かもしれないが、マヨネーズは焼酎に合うのである。それも「A社」のではなく、「Q社」のマヨネーズが望ましい。なぜかというと、「A社」のに比べ「Q社」のはやや酸味があってこれが焼酎を増進させるのである(決して贔屓ではない)。
ま、それはいいとして、一般的な焼酎はアルコール度数が20度から35度のものまである。だから飲む場合は何かで割って飲むことをお勧めしたい。そうでないと胃や食道が荒れるからである。
ただし、牛乳を飲んだ後に焼酎のロックを飲むと焼酎本来の味がしてこれもまた焼酎好きの方々には捨てがたいものであろう。
* ウイスキーやブランデーの肴には基本的に「乾きモノ」系、すなわち乾物のお菓子や豆類がいいのではなかろうか。チョコレートなどの甘系もいい。またウイスキー系もアルコール度数が高いため、チーズなんかの乳製品の肴が胃を荒らさないためにもお勧めではある。
しかし、ぼくはあえて豆類にこだわる。ウイスキーという飲み物は基本的には孤独で内向的な飲み物だからである。どこが孤独で内向的なのかというと、他のアルコール飲料が、飲むことによって明るく陽気になるような環境と立場(=外向的)であるのに対し、ウイスキーは一人静かにグラスを傾けて物思いに耽るような飲み方が、飲み手そのものに要求されるからである。テレビなんかで、ウイスキーの瓶をラッパ飲みするようなのは邪道なのである。
おっと長くなってしまったが、そんなわけでぼくはウイスキーには豆類、中でも「ピスタチオ」をお勧めする。
要は銀杏の種子を焼いたものであるが、これが旨い。すっかり夜の帳が下りた窓の外を眺めつつ、銀杏の殻を剥いて口に含み、おもむろにグラスを口に運ぶ。唇に触れた瞬間、グラスの中の氷が半回転してカランと音を立てた・・・な〜んてシチュエーションが似合う飲み方がいいと思うのである。
というわけで、ピスタチオは殻の内側にある被膜の渋味がウイスキーと合うし、焼いたときの甘ったるい匂いもまたよし、なのである。
* ワインについてはいうまでもなかろう。
ワインは大体が食事と同時に嗜むものであって、赤ならお肉、白なら魚と言われているように、その食事のスタイルに合わせて飲めばいい。肴という意味ではとくに考える必要もないところだ。
しかし、最近のポリフェノールブームで赤ワインばかり飲み続けるオヤジも増えているらしく、居酒屋などでもメニューにワインが増えてきたように思う。困ったことに、そういうところでワインを飲む輩は大きな勘違いをしているらしく、
「まあまあどうぞお一つまあまあまあまあ遠慮なさらずにホレホレ」
などと、相手のグラスにワインを注ごうとする。そして勧められたほうの輩も、
「いやいやいやいや私などはもういやほんとにおっととと」
とワイングラスを両手で持ってそれを受けたりしている。
日本酒やビール感覚で差しつ差されつなんて、マナーもエチケットも合ったもんじゃないのである。ワインはやはり味わって飲みたいものである。それゆえ、相手に必要以上に勧めたりグラスを手に持ってついでもらったりなどということは避けたいものである(これは私見ではなく本当のマナーなのである)。
さて、そんなワインの飲み方の王道としての肴は、やはりチーズであろう。ただし、ワインの種類によってはブルーチーズでないとダメだったり、カマンベールやモツァレラが最適だったりと、適する種類があるようなので是非個人個人の舌で試してほしいものである。
* 最後に、どの飲み物にも合う最高かつ万能の肴というものはないのか? といわれれば、これがあるのである。あくまでも「ぼく的」にあるだけなのだが、聞けばほとんどの酒飲みがうんうん、とうなずくであろう。
それは「漬物」である。
高菜、タクアン、キムチ、茄子などの浅漬け、奈良漬け、粕漬などなど、これらがあればいくらでも酒が飲める、というのは漬物を置いて他にない。
ちなみに、ぼくは粕漬、チーズ、ヒマワリの種、マヨネーズなど、飲むときにはなんでも食うのだが。
ま、いろいろアルコールの種類もあり肴の種類もあり。
要は楽しく飲むためには美味しい肴は必要不可欠であり、美味しい肴は美味しいお酒と楽しい気分、適切なマナーが何よりの材料ということだろうな。今回は為になるお話であったぞ(?)。
Published 2001.3.25
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