Special Paperbacked Essays, Vol.42

macspin2

 

こんなコトしでかしちゃったゾ

=サービス・ステーション事件簿2=

- I'm so sorry that I had clashed someone's new car -

 

 

 汚いようだが、サービスステーション(ガソリンスタンド)の世界というものは、実はガソリンを売ることで儲かっているわけではない。もちろんガソリンが売り上げの主体であることは否定しないが、正味の利益は、エンジンオイル、タイヤ、ウォッシャー液や水抜き剤などを売って初めて粗利益を得ているのである。

 食べ物に例えてみるとわかりやすく、ガソリンを主食であるご飯だとすると、オイルやタイヤなどは栄養たっぷりのおかずなのである。ご飯は必要不可欠な存在であるのだが、そのわりにはどうしても軽視されやすく、旨味もあって美味しいおかずのほうが重要視されるというわけである。

 したがって、店頭で両者を並べて売る場合、ご飯とおかずのどちらをたくさん売るのが儲かるかを考えたとき、おかずをとるのが正解なのである。例えを戻すと、要するにサービスステーションで窓拭きや灰皿掃除を行うのは、単なる親切やサービスからなどではなく、大袈裟に言えばすべてその車のボンネットを開けさせて、減ってもいないウォッシャー液を補充するよう勧めたり、入ってもいない水を抜くための水抜き剤を勧めたり、汚れてもいないエンジンオイルを換えさせるためといっても過言ではないのである。

 ちなみに大きな声ではいえないが、当時の価格で普通車1台のオイル交換をすると、その値段のおよそ3割は売った店員のふところに入っていたのである。これでは売り込む店員も目の色を変えざるを得ないというわけである。

「洗車は金にならん。ココ(サービスステーション)はボンネットを開けさせてナンボの世界じゃ」

 先輩社員達はそうつぶやき、チンタラチンタラガソリンを注いでいる時間などもったいない、ましてや、洗車や空気圧調整などやってるひまもないので、いきおいそういう地味な仕事はぼくらアルバイトなんかにやらせるのであるが、実はこの3割のマージンはぼくらアルバイトにも適用されていた。

 だから本来ならぼくらも血眼になって営業活動を展開しなくちゃならないのだが、そこは先輩後輩の間柄、しかもアルバイトとあっては為す術もなく、ぼくらは洗車とガソリンと窓拭きに明け暮れたのである。

 そんな毎日が続いていたある日、事件は起こったのである。

*

 ある日の午後、例のM先輩がお客さんの事務所から新車を預かって帰ってきた。どうやら上得意さんが忙しいので、出張給油及び洗車というわけである。

 M先輩はちょうどその頃オイルなどの成績が芳しくなく、上層部から叱咤される日々が続いていた。そんなだから、お客さんから車を預かって帰るなど、これはまさにチャンスだったといえる。なぜなら勝手にボンネットが開けられて、あれが少ないこれが足らないと持ち主に報告し補充することができるからだ。しかもそれらはすべて持ち主の眼の届かないところで行われるのであるから楽なもんである。

 M先輩は車から降りてきたかと思うと置いてある新車を指さして言った。

「おうい『少年』、この車洗ってくれや」

「ほい」

「おっと、洗車機通すなよ。こりゃあ手洗いど」

「えっ、手洗いっすか?」

「まだ(購入して)2か月の新車じゃけんのう」

「・・・」

 ぼくは一瞬嫌な顔をしたであろう。というのは、当時の洗車パターンには大まかに分けて2種類あり、一つは洗車機を通してほとんど自動で行うもの、もう一つは、洗車機を通すということは高速でブラシを回転させて洗うわけなのでボディに微妙な傷がつく場合があるため、タオルで水と洗剤を流しながら丁寧に洗う「手洗い」である。当然、「手洗い」は料金も高いがやるほうは面倒くさい。ぼくは心の中で、

「(チッ)」

 と舌打ちしながら洗車ブースへその車を入れ、わっせわっせと水洗いした。ところがさすがに新車だけあって、塗装面の被膜がしっかりしているのだろう、さして力を入れて洗わなくても汚れはあっさりと落ちた。

「(ウフフ、こりゃあボロイなあ)」

 と心の中で呟きつつ、ホースですすぎの水をかけていると、M先輩がニコニコしながら近づいてきた。

「ウッシッシ、この客ってば、

『新車なら買ってしばらくしたら1回目のオイル交換をしたほうがいいですよ』

 なんて言ったら、

『すぐやってくれい』

 じゃと。ちゅうわけで『少年』、洗車終わったらコレ、整備場へ入れてくれよのう」

 そういうと、M先輩は整備場の方へルンルンで小走りに去っていった。

 ぼくは、先輩もこれで成績的には一息つけるだろうと思って、それならばこの新車の隅々までキレイにしてあげよう、そうすれば先輩がお客さんからもっと喜ばれるだろうと思い、整備場まで車を運んでM先輩がボンネットを開けて整備している間に車内を清掃することにした。

 整備場というのは、車両を止める位置の下側に車一台分をゆうに押し上げられるジャッキがあり、正面の壁にはにはランプ点灯確認用のための大きな鏡がついている。

 車を整備場に前向きにつけると先輩は、

「おっ『少年』、車内清掃まで手伝うてくれるんか?」

「はい、これで先輩もこれから成績上がるといいっすね」

「臨時収入が入ったら、また飲みに行くかのう」

「ウシシ」

「ムフフ」

 などと、二人して車内で盛り上がっていた。

*

 そしてぼくは、車内をひたすら掃除機掛けと拭掃除に専念したのであるが、やはり新車だけあってとても掃除しやすい。まさにウエス一拭きでピカピカである。先輩は先輩で、運転席とボンネットを行ったり来たりして調整と交換に余念がない。

 ちょうどその時先輩は、エンジン下部にあるドレンボルトを緩めて古いオイルを抜き、エンジンルームをフラッシング(洗浄)するため、再びドレンボルトを閉めて安いオイルを入れていた。

 ところが、最終段階の灰皿掃除をしようとしたとき、悲劇は起こったのである。

 というのは、その新車の灰皿はセレクターレバーが「P」の位置のさらにコンソールの下側にあって、レバーが「P」にあるときは取り外しが難しい位置と形状にあった。

 そこで当たり前のことだがぼくは助手席に座り、セレクターレバーを「P」から「D」レンジに動かそうとした。しかし、その時M先輩はオイルを抜いたばかりでフラッシングのためエンジンをかけ、アクセルをメチャクチャふかしたりしている最中であった。ぼくはそのことに全く気づかなかったのである。

「ガクンッ(『D』レンジに入れる音)」

「グオオオンッ、ギュキキキ〜!!」

 先輩とぼくが一瞬、えっ? という顔をした途端、車は急発進した。

「おわわわわっ〜!!!」

 ぼくと先輩は強烈な縦Gがかかり、シートに押し付けられたようになった。と、次の瞬間、

「ガッシャ〜ン!!」

 ぼくと先輩が叫びながらシートに押し付けられるのとほぼ同時に、新車は正面の壁と鏡に激突した。その結果、鏡は大破し、新車のほうもバンパーはおろかフロントグリルは見るも無残になったのは言うまでもない。

「・・・な、なに、今の?」

「すっ、すいません!」

「なっ、何がどうしたん?」

「は、灰皿が『P』レンジでっ、セレクタを動かしてしまってッ!」

「・・・ウソじゃろ?」

「ホント、すいませんっ!」

「・・・これ・・・新車・・オイル・・・」

 M先輩は放心状態となり、ブツブツ言い始めたかと思うと車を降りて整備場の床にへたり込んでしまったのである。

 無論、新車の持ち主には支店長クラスが平謝りに行き、修理代は全額ステーション持ちとなったのである。

 当然悪いのはぼくなのであるが、アルバイトということもあって責任追及と弁償はこらえてもらった。ところが可哀想なのはM先輩で、喜び勇んでオイル交換をしていたはずの彼は、翌月の給料から整備場の大鏡の弁償費用数万円を引かれていたのである。むごい。むごすぎる。

*

 いずれにせよ、ぼくはそれ以来車内の清掃をはじめ当分の間洗車をさせてもらえなかった。おかげでずいぶんとオイルやタイヤを売った思い出がある。がしかし、お客さんに勧めているときもM先輩の恨めしそうな眼差しを感じなかったことはないのである。まさに針のむしろとはこのことである(と言いながらちゃっかり点数を稼いだぼくなのである)。

 まあしかし、この事件はすべてぼくが悪いのである。なのに、結局はM先輩に全責任を負わせてしまったので、もちろんその時もぼくは平謝りに謝って先輩に許してもらったのだが、後年ぼくが転職して数年後に再びそのサービスステーションに立ち寄るとM先輩の姿はなかった。店の人に聞くと、すでに退職しているという。

 結局洗車の話から変な話になってしまったが、M先輩とはその後は音信不通になってしまい、どこでどうしているのかわからなくなってしまった。でもM先輩、もしこれ読んでたら許してね。本当に本当にぼくは反省してるんですから。

 

 

Published 2001.7.10

  

 

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