Special Paperbacked Essays, Vol.13

macspin2

 

トンネルには何かが・・・

- An adventure story at a mysterious tunnel -

 

 

 ぼくは前にも書いたが、霊感というものがほとんどない。「虫の知らせ」も感じたこともなければ、日頃幽霊にお会いする機会もない。だから、ぼくにとっての「不思議な体験」というものは、以前の話を最後に体験していない。

 がしかし、ぼく以外の人間が不思議な体験をした場面に居合わせたことはある。これも厳密に言えばぼくもその体験者の一人になるのかもしれない。

 こういうわけで(いつもながらよく分からない展開であるが)、今回は不思議な話第2弾「高校生編」をすることにしよう。

*

 ぼくが高校1年生のある夏の夕暮れのこと。同じクラスの同級生3人とぼくの合わせて4人は、僕らの通う高校から数キロメートルほど南に下った辺りまで自転車を駆って来ていた。

 その辺りには、海側に面したいくつもの水産工場が、それこそ小学校の低学年達が遊びに使いそうな貝殻や牡蠣殻などが渦高く積まれている置き場の中に立ち並んでおり、潮の香りと機械の臭いが入り交じっていた。

 そんなところに、これまた汗臭い、あるいはニキビ臭い野郎どもがやって来て一体何を企んでいたのかというと、実は一種の「肝試し」だったのである。

 というのも、そこには一本のトンネルがあって、そのトンネルには幽霊が出るというのである。その模様を語らせるや、いかにも薄気味が悪い。

 例えば、ある人の話では、

「夜中にトンネルにさしかかった時、不思議なことに急に車のヘッドライトが消え、出口の方向の道路の真ん中に何やら人影が見えた」

 という。

 それからしばらくして、別の人の話では、

「夜中にトンネルにさしかかった時、不思議なことにカーラジオから女性の啜り泣くような声が流れ出し、気味が悪くなったのでスイッチを切ろうとしたがなぜか切れなかった」

 という。

 またしばらくして、別の人の話では、

「夜中にトンネルにさしかかった時、不思議なことにいつまで立っても出口に辿り着かない。そのうち妙な感触に襲われて、気が付いたら朝だった」

 という。

 いずれもクラスの誰かが聞いてきた話なのだが、なんだか話に尾ビレ背ビレがついて伝わるたびごとに恐怖感が増すような話に仕上がったのではないか、と思うほど、作り話としては見事な出来映えであろう。

 かくも面白い心霊スポットが学校の周辺に存在するにもかかわらず冒険も体験としないとあっては広島男児の名が廃るッ! てなわけで、今回は前フリも早く実に分かりやすい展開のまま、本題に突入したというわけなのである。

 ところで、この話を進めていくうえで、登場する4人を、ぼく、X君、Y君、Z君と書くことにする。別に「A君、B君、C君」でもいいのだが、この話の再現性を視覚的に高めるため、あえてこう書いたほうがいいと思うのである。

*

 さて、ぼく、X君、Y君、Z君の4人は、どっぷり日の暮れたトンネルの前に立っていた。

「これがそうか」

 リーダー格のX君がそういうと、一同唾をごくッと飲み込んだ。わずか数百メートルのトンネルの先に、出口らしき光りがポツンと見えるだけで、トンネルの中には一基の電灯さえもない。まるでトンネルがポッカリ口をあけて僕らを飲み込もうとしているかのようだ。

 僕らは相談し、自転車で通行したのではすぐに抜け出てしまうので面白みがない。そこで、まず自転車をこちら側に置いたままにして、全員で歩いて向こう側の出口に抜けてみることにした。そしてその後、もう一度戻ってくるという、2回の恐怖の行程を踏むことにしたのだ。 

 まずは往路である。

 ぼく、X君、Y君、Z君の4人はジャンケンをし、トンネルへの突入順序を決めた。そして、ぼく、X君、Y君、Z君の順番に入っていくことになったのである。

 4人は恐怖心を制御するために、またはぐれないように(はぐれることはないと思うのだが)、手を繋いで歩いた。

 しかし、ここで想像してもらいたい。高校生4人が集まって自転車を降りたかと思うと手を繋ぎあって夜のトンネルに入っていく姿は、もうそれだけで奇怪な光景である(恥ずかしい)。

*

 さて、トンネルに入って数メートル歩くと、もう辺りは暗くてまったくといっていいほど見えない。かろうじて、僕ら4人の足音だけが半円筒型の空洞にこだまするだけである。

 車や人の通行量もぼくら以外には全くなく、なんだかしっとりとした空気だけが僕らにまとわりつき、4人の足音だけがそれぞれの耳に聞こえてくるような、実に気味の悪い感覚を受ける。

 そうしているうちに、往路は何ごともなく過ぎ、出口に出た。

 出口に立ったぼくらは口を揃えて、

「なんだい、何も起こんないじゃないか」

「あの噂はガセだろう」

「バカバカしい」

 などと、トンネルにまつわる噂を否定し、いい気になりはじめた。

 がしかし、周りをよく見渡すと、往路の入り口に立った時よりこちら側の方がもっと暗い。それもそのはず、街灯というものが出口のすぐ近くにはなく、少し離れたところにあるためだ。しかも、こちら側のトンネルの壁には鬱蒼とした木々が上の方からまとわり付いており、辺りが暗いせいもあって、やはり気味が悪い。

 僕らは、こちら側には長居は無用、とばかりにさっさと復路を行くことにした。

 往路と同じようにぼく、X君、Y君、Z君の順に今し方通ったトンネルの中を戻りはじめた。僕らの自転車が置いてある街灯の明かりが遠くの出口に見えるためか、トンネルの中は往路よりも暗く感じる。

 ところが、なぜか往路よりもしんとしていて、湿気のせいだろうか、足音が妙に長く反射してくるのが気持ち悪く感じはじめた。要するに、明らかに往路とは違う雰囲気が漂っていたのだ。必然的に、僕らのお互いを握りあう手に力が入りはじめた。そうすると握られた方は反射的に自分の手にも力を込めるため、連鎖反応で全員が手を強く握りあい、歩調を速めていった。

 

 そうして、復路も約半分当たりまで来た頃であった。ふと、何か上の方角でざわついたような気配がした。

「うん?」

 と思うや否や、突如何かが、わさっ、と上の方から降ってきて、僕らの耳もとを一瞬のうちに通り過ぎた。

「なっ、何?」

「でっ、出たか?」

「ぎえええー!」

 間違いない。ぼくら以外に何かがトンネルの中にいて、たった今襲ってきたのである。

 それまで限界ギリギリのところで耐えていたぼくらの恐怖心は、これによって一気に解き放たれ、ぼくら4人は一心不乱に明かりの見える出口に向かって走り出した。幸い、ほどなくして出口に辿り着き、ほうほうの呈で出てきたぼくらは、電柱に取り付けられた灯りの下で一同無事であることを確認して、安堵の溜息を付いた。

 X君が気味の悪い声がした現象を振り返った。

「なんだったんだろうか、あれは?」

 そして、得体の知れない現象の正体は、電灯の下ですぐに明らかになった。

 なんのことはない、よく見るとそれは、無数のコウモリだったのだ。黒いコウモリがキチチチと何やら気味悪い鳴き声を発しながらトンネルを出入りして飛び回っている。おそらくそのうちの数尾が飛行経路を誤ったかなんかして僕らに襲いかかったように思えたのだろう。まさに、「幽霊の正体見たり黒コウモリ」である。

 ぼくらは、ああよかったあ、と胸をなで下ろし、冒険を終えた束の間の満足感に浸っていた。

 ところが、この後交わした会話によって、笑い話になるべき体験は一転して戦慄の体験となったのである。

*

 ここでその会話をまとめてみることによって、この話を締めたい。

 繰り返しになるが、僕らは4人でトンネルに入り、手をつないで歩いた順番は、ぼく、X君、Y君、Z君の順である。

 また、会話は多少整形してはいるものの、発言の趣意にはいささかの手心も加えていないし、また、ぼくを含む全員の証言に嘘・偽りのないことを、あらかじめ申し上げておく。

 

ぼく「でも俺、先頭にいたから一番先に襲われると思ったけど、俺の後ろの方から来るとはなあ」

X君「そうだよ、こういう時ってふつう、一番前か一番後ろのヤツがやられるんだよな。前後にお前らがいて安心してたのに、なんで俺に襲いかかってくるんだ?」

Y君「あの変な音が聞こえた時はてっきり俺の前のヤツに襲いかかったと思って、あわてて前のヤツの手を放して、後ろのヤツの手を引いて逃げようとしちゃったよ、俺」

Z君「でもやっぱ俺も、先頭とビリケツ(最後尾の意)だったら恐かっただろうなあ。よかったあ、俺、前後にお前らがいて」

 

 繰り返すが、手をつないで歩いた順番は、ぼく、X君、Y君、Z君の順であり、僕らは4人だけでトンネルに入った。それなのに、ぼくを除く3人全員が、前後に人がいて手を握りあったという・・・

 

 

 Published 2000.3.25

 

  

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