Special Paperbacked Essays, Vol.46

macspin2

 

恥辱の内視鏡検査

- I can't stand it anymore -

 

 

 何がイヤかって、自分の体内に異物を挿入されることほどイヤなものはないのである。勘違いしないでいただきたいのであるが、これは真面目な話なのである。

 むっ、そこの君ッ! たった今ヘンな想像してたでしょ? 違うって〜の! まったく、す〜ぐヘンな想像しちゃうんだから。

 ここでいう異物というのは、例えば胃カメラのようなもののことである。ぼくはいまだかつて胃カメラを飲んだことはないのだが、以前飲まされそうになったとき、医師に向かって絶叫し懇願してやめてもらった記憶がある。

 それほど苦痛の伴う、ましてや異物を体内に入れられる苦しみを味わいたくないのである。

 ところが、ぼくはふとしたことがきっかけで、なんと口からではなく、いわゆる「菊のご紋」から内視鏡を挿入される羽目になったのである。思い出すだに苦痛なのであるが、恥と苦痛を忍んで語らせていただくのである。

*

 ぼくはもともとお腹がユルいタチであった。ちょっとしたこと、例えば、冷たいものを一気に飲みほしたりするだけで、数分後にはゴロゴロとなるのである。

 しかも、精神的にダメージを受けたり、何か悩み事があってそれが増幅したりすると、これまたゴロゴロなのである。

 これを医学的に説明すれば、

「過敏性腸症候群」

 というのだそうだ。

 要するに、腸自体が外的・内的要因による何らかの刺激を受けると、異常な蠕動運動をし始めるので、それによって便が排出されやすくなるというわけだ。

 まあ、腸そのものの器質的疾患ではなく、むしろ神経的なものであるので、これを改善しようとするならば、端的に言って神経質にならなければよいらしい(あと、冷たいもの、辛いものをとらないのは言うまでもないのだが)。

 しかし、ぼく自身は自分のことを神経質だと思っているわけではないので、いくら神経質にならないようにと言われても、どうやったら神経質にならないようにするのかが良くわからない。なにかイライラするような出来事があったとき、勝手に腸が動くのだから、止めようがないのである。

 だいたい、胃腸というものは自律神経によって意志とはほぼ無関係に動くものだと習った覚えがあるのだが、

「それならばなぜイライラしただけで異常に動くのだ? 意志とは無関係のくせにッ!」

 という疑問が生じないわけではないが、それを考えているとまたぞろゴロゴロし始めてはいけないので、あまり考えないようにしているのである。

 さて、このような症状が続くと、さすがのぼくも滅入ってきて、

「ううう、もしかして『過敏性腸症候群』なんかじゃないんじゃないのか? ひょっとしたら新種のガンじゃないのか? むっ、そういえば医者のヤツ、『過敏性腸症候ガン』っていってなかったかっ?」

 などと、勘ぐったりし始めるのである(こういうところが神経質なのかもしれないが)。そのうち一向に症状が治まらないようになると、これはもう病院に行くしかなくなるのである。

 そして病院で症状を告げると、医師曰く、

「う〜む、じゃあ一度内視鏡で診てみるか?」

「はひ?」

「内視鏡だよ。胃カメラの腸版と思えばいい」

「はあ」

 つまり、医師の言うには、胃カメラのようなものをいわゆる菊のご紋から挿入し、んでもって中を見ちゃおうかなってことなのである。

 しかしそれを聞いたぼくは想像しただけで身の毛がよだつ思いがして、なんだかんだと理由をつけて拒否しようとした。が、続く医師の言葉に、

「うしっ、俺も男だ、やってできないことはないッ」

 といとも簡単に意を決して内視鏡検査を選択したのである。

「この検査をしたら原因も何もかも全部わかるけんね。それに痛くもかゆくも何ともないで」

 その言葉を信じて、ぼくは検査申込書にサインした。それは、今から4年前のことである。

*

 当たり前のことだが、腸の中をカメラで診るのだから、胃カメラ同様に腸の中も空っぽにしておかなければならない。それに、胃ならばものを食べて数時間後には空っぽになるが、腸の場合はそれこそ20時間以上をかけないといけないのである。

 それも、前日などは何を食べてもいいというわけではない。検査自体は午後の2時くらいから始まるのだが、あらかじめ検査前日までにもらっておいた「検査食セット」を前日から食べるのである。

 そのセットのメニューを紹介すると、まず検査前日の昼食から始まる。

 昼食はドリアをいうかお粥というか、とにかくお米を極限まで柔らかく炊いたものに、ポタージュスープ。あとはお茶とかお水を飲むべし、とある。

 次におやつ。

 おやつは栄養がたっぷり詰まったビスケット。おそらく昼食だけではまかないきれない栄養分を補給するためであろう。

 そして夕食。

 何やらゼリー状のプロテインみたいな、なんだか宇宙食のようなものを約1リットルの水で摂ることととある。だが前日までは水分はいくら摂ってもいいらしい。

 そして、これだけの食事をとればあとは寝るだけなのである。当然のことだが、アルコールはダメ。ちなみにぼくはここ10年のうちで、禁酒したのはあとに先にもこの日だけである。したがって、その夜は検査に対する不安や、お腹が空くのとアルコールが切れた禁断症状がでるのとで、なかなか寝つけなかったのである。

 翌朝目が覚めると、当然朝食はなし。ただし、朝の水150ccを下剤と一緒に飲むこととあり、これ以降午後の検査が終わるまで指示された場合以外は水分を摂ることも禁止なのである。

 そして下剤の効き目はてきめん、もともとお腹がユルいぼくのことであるから、本来は下剤など飲まなくても腸の中はいつも空っぽのようなものであるのだが。

*

 さて、そうこうしているうちに午後になった。腹が減って死にそうではあるが、病院につくと、指示された場所に行って服を全部脱ぎ、検査服に着替えるよう言われたのである。

 この検査服というのが、いわば緑色の割烹着といったスタイルで、頭からかぶるようにして着るのであるが、おかしいのはお尻の部分がぽっかり開いていることだ。絵で示せないのが残念だが、もしもこの検査服を着て院内を歩けばたちまち背後からウププ笑いが起こるのは間違いないようなシロモノなのである。

 そんな間抜けな検査服を着てイスに座って待っていると、しばらくして看護婦さんが来て、

「一応準備ができていると思いますが、今一度この下剤を飲んでトイレを済ましておいてください」

 というのである。

 ぼくはすでに朝の時点で何も出ない状態になっており、さらにこのうえ下剤を飲めば腸自体が出てしまうのではと言う懸念にかられたが、ここは言うことを聞くしかないと思い、しぶしぶ下剤を飲んでお尻の開いた検査服のまま小走りでトイレに行った。

 すると、なんと結構ウンチくんが出るではないか。おそらくは腸のあちこちに溜まっていた、いわば宿便とでも言うべきものなのか、いずれにせよすっきりはしたものの驚きをかくせないまま、ぼくは再び検査会場へと戻ったのである。

 それから待つこと十数分、名前を呼ばれたぼくは処置室と書かれた部屋に入った。

 そこには簡易ベッドとテレビのようなモニターがあり、マスクにビニール手袋をした比較的若い男性医師が一人立って機械を調節していた。ちらりとマスクごしにぼくの方を見ると、少しだけ不敵な笑みを浮かべたように見えた。そして驚くべきは、なんとそばには若い女性看護婦がいるのである。ということはこれから始まる菊のご紋・秘境突入ツアーを見られるということなのである。しかもその看護婦さんから、

「は〜い、そのベッドにこちらにお尻を向けて横に寝てくださ〜い」

 などと言われた日にゃ、んもうお尻も顔も真っ赤状態である。

 しかもそれに拍車をかけるように、青年医師が、

「は〜い、横に寝たらお尻を少し突きだして。力を抜いて」

 などと言うもんだから、ぼくはもう恥ずかしさのあまりコチコチになってしまった。

 とはいえ、言われるままに横になり、お尻を医師の方に向けると、すぐに冷たいものが菊のご紋に当たったのである。

「ひいっ!」

「は〜いはい、力を抜いて〜」

 思わずのけ反るような感触にもかかわらず、青年医師は平然とうすら笑みをその目にたたえてグイグイと器具を菊のご紋に押しやってくる。

「あえええ」

「よっし、入った。あとは、と」

 青年医師は器具をぼくのお尻に突っ込んだままモニターを調節したかと思うと、するするとコードのようなものをお尻の中に入れはじめたのである。

 ところが不思議なことに、そのコードはどんどん中に入っていくのにほとんど違和感を感じないのである。どうやら、最初に入れた器具をベースステーションにしてそこから一段細いコードが中に入って様子を撮影するのであろう。

 ぼくは一安堵し、なあんだ、これなら屁でもないわとタカをくくった。

 ところが。

 そのコードの先には、空気を注入する器具がついていて、進入する先々の狭い腸の中を空気を入れて膨らませ撮影をしたりするのである。そしてその空気を入れるということは、お腹が張ることを意味する。

 あにはからんや、カメラの先端が腸の曲がり角に達すると、医師がカメラの根本を覗きながらなにやらスイッチを押したのである。

 すると、

「ずぶぶぶぶぶ」

 と音が腹の中から響いてきたかと思うと、まるで小さいころにカエルのお腹にストローで息を吹き込んで膨らませていじめて遊んだときのように、なんとお腹が少し膨らんできたのである。

「おおおお」

 と、ぼくが驚きのあまりに声を出すと、看護婦さんが気づいて医師に何やら合図をしたようで、それを受けた医師がチューブを持ったまま、

「んん〜? 苦しい? ま〜だまだ大丈夫だよ」

 と言うのであるが、ぼくは、お前の体じゃね〜んだから大丈夫かどうかお前にわかるのかよ! と言いたかったのだがそれはとても言えるような状況ではなかったのである。それを察してか看護婦が苦笑したので、ぼくは、これ以上の苦痛と恥辱があるのかと、お尻を突きだしたまま苦悶したのである。

*

 一体何分経っただろうか、あわわおよよと苦悶した結果、医師はスルスルとチューブを抜き去り、それを看護婦に渡すと、

「は〜い、『少年』さん、診た限りでは異常はありませんね。まああまりストレスをためないことですね」

 と言うので、ぼくは一安心した。そして医師と看護婦に礼を述べて診察台から降りたとき、長時間の挿入診察のために菊のご紋がかなり拡がっていることに気づいたのである。

「う〜む、これは・・・気色悪い」

 つまり、足を閉じたときに、な〜んとなくお尻のあの部分がシマらないのである。必然的に歩き方もシマらない。まるで大便の途中でトイレを立ったときのような気分なのである。

 ところで、この腸内視鏡検査は、腸ガンやポリープを発見するのに役立っているが、一度検査すると3年間は検査の必要がないそうなのである。多分腸に発生するガンやポリープは発生から発見されるまでそれだけ長い年月を必要とするということなのだろうが、ぼくの場合あれから4年が経ってしまった。

 そしてぼくは、最近腸の調子がまた良くないのである(恐)。

 

Published 2001.9.25

  

 

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