
ウルトラマンがM78星雲に帰った後
ウルトラマンといえば、TVヒーローのパイオニア的存在であり、数々の戦闘を通じてたくさんの子供達の夢を育んだ偉大なる存在として知られていた。
ところが、彼が地球上に在住していた期間、彼は長嶋茂雄、石原裕次郎と並ぶ日本全国区の英雄であったにもかかわらず、最後となった戦いにおいて怪獣・ゼットンに敗れてしまい、ついに地球上での生命を失うこととなったのである。
日本全国の少年少女たちは彼の訃報に接し、一様にいたたまれぬ思いと彼への追悼の念にかられたものである。
ところで、このように殉職という形で地球上での生命を失ってしまった彼が、兄・ゾフィーに引き取られて故郷のM78星雲に帰った後、どのような人生、いやウルトラ生を送ったのかについては一般的にあまり良く知られていない。
地球上に伝えられた関係筋の消息によれば、彼はM78星雲総督府から地球での功績を称えられて、「財団法人ウルトラマン養成専門学校」なる戦士養成機関を設立する許可を与えられ、その初代理事長に就任したということであった。
ところが一説によれば、怪獣・ゼットンに敗れたその負け方があまりにも不甲斐ない、あれではM78星雲ひいてはウルトラ一族の名折れだと酷評されM78星雲中のマスコミをはじめ名高い格闘家などにも相手にしてもらえず、晩年は落ちぶれてTVの「ウルトラヒーロー大集合」のような懐かしのスペシャル企画への出演以外には収入もなくなってしまったという噂も流れてきたのである。
そしてそれを裏付けるように、ウルトラセブンやタロウ、エース、ティガなど彼の弟分たちが彼の代わりに地球上で活躍しはじめたせいもあって、もはや地球上での彼の立場と印象はなくなった、というのが現在の日本政府とM78星雲総督府関係筋の公式見解である。
* では、なぜ彼ほどの地球功労者がこのような立場に追い込まれてしまったのか? あれほど、悪い怪獣たちを駆逐し地球上の平和を守ってきたはずのウルトラマンが、たった一回の敗戦でなぜこれほどまでに人々の心から忘れ去られねばならなかったのか?
この点について疑問の声が日増しに高まる中、ついに彼の故郷であるM78星雲に興味深い委員会が設置された。それが、
「M78星雲・ウルトラマン活動実態調査委員会」
である(以下「委員会」という)。
つまり、ウルトラマンの人気が地球上で衰退したのには彼の活動内容自体に何か特別な事情があるのではないかとして、M78星雲は自らによる調査に乗り出したというわけである。
そうして、やっと最近になって第1次中間報告書がまとめられた。
それによると、ウルトラマンの人気がここまで衰退したのには、彼にとって決定的な、唯一無二の欠点ともいうべき欠点があったからに他ならないというのである。
さらにいえば、この決定的欠点が彼に様々な疑惑をもたらす結果となったばかりか、彼自身の能力の限界・精神的苦悩を呼び込んでしまい、そのためとうとう彼は最終戦闘においてゼットンに敗れ去る結果となったのではないかと結論付けているのである。
では、彼をそうまで悩ませ、追い詰めることとなった要因とは何か?
その前にまず、彼が地球に渡来した背景をおさらいしておかねばならない。
そもそも彼は地球を守るために、宇宙のはるか遠くM78星雲からやってきた。
しかし、あの奇異で巨大な姿のままでは地球上、とりわけアグレッシブな風潮を極度に嫌う我が日本において生活をしていくことは非常に都合が悪いので、人間の体を借りて暮らしていたのだが、それが地球防衛隊のハヤタ隊員である。
ハヤタ隊員は職業上、せっせと地球の防衛のために日夜奮闘していたのであるが、なぜか毎週1回は必ず街を破壊し尽くそうとする悪い怪獣があらわれるために緊急な出動を余儀無くされるので、オチオチ寝てもいられなかったらしいと報告書は記録している。
しかも、たいていの怪獣は身の丈40〜50mもあって口から火炎を吐き、バカ力でもってビルや家屋をなぎ倒すのである。もともとウルトラマンとしての彼の任務と目的は、怪獣が現れ街を破壊し始めるのを阻止し、それらを撃退することにあるのだから、本来ならばハヤタ隊員はすぐさまウルトラマンに変身して怪獣をやっつけなければならないはずなのだが、ウルトラマンがハヤタ隊員であることは隠しておかなければならない。そのため、毒蝮三太夫扮する他の隊員らがなにやら安っぽいビイムのような光線を発する拳銃で必死に怪獣に応戦(それらは怪獣に対して一向に太刀打ちできないようなシロモノであるが)している間に、こそこそと建物の影に隠れ、医師がよく患者のノドを見る時に持つような器具に似た変身用装置である「フラッシュビーム」なるものをやにわに取り出して、
「ジョワッ!」
と一声、呪文を唱えるのである。
すると、摩訶不思議なことにハヤタ隊員は身長40mもあるウルトラマンに変身してしまうのである。
そうしてハヤタ隊員改めウルトラマンは怪獣と一生懸命戦うのであるが、ウルトラマンは変身した後は人間の言葉はおろか日本語さえもしゃべれないので、戦闘中の言葉ときたら、
「デヤアッ!」
とか、
「ヘヤアッ!」
などと、表記すればするほど、
「ハアアアア・・」
と力が抜けていくようなかけ声しか出せないのが難点である。
しかももっと残念なことに、彼はその体の特性からなぜか地球上に3分間しか存在できないことになっており、もし3分を超えて地球上にいれば、彼は即座に死んでしまうと規定されているのである。このため、彼の胸についている通称「カラータイマー」がウルトラマン自身に警告を与える一種のアラーム装置的な仕組みになっていて、変身後2分間は青色なのであるが、残り1分を切ると自動的に赤色に変わって点滅を始め、その間に敵怪獣を倒さないと、とてもヤバいのである。
そこで彼は、怪獣を倒す最後の切り札、彼の腕をクロスさせて放つ最大の武器「スペシウム光線」を放つのである。
この光線を浴びた怪獣どもは防御する術もなく爆破され、跡形もなくなってしまうのである。そしてそれを見届けたウルトラマンはジャンプ一番、宇宙の彼方へ帰っていくという算段である。
こうしてウルトラマンは連戦連勝、地球の平和は守られて日本全国の少年少女たちは彼の強さにうっとりし翌日の宿題をも忘れる結果を多くもたらしたのである。
* さて、委員会のまとめた報告書によると、彼に寄せられる疑惑の最たるものは、
「なぜ『スペシウム光線』を最初から使わないのか」
ということである。
なぜなら、彼はウルトラマンに変身した後は、3分間しかもたないというのに、なぜかギリギリのところまで「スペシウム光線」を放射するのを我慢するのである。
それまでは、柔道みたく投げたり投げられたり、相手をつかんで叩いたり蹴ったりの繰り返しである。そんな子供のケンカのような技の応酬でもって、口から火炎を吐き散らすような怪獣が倒せるわけがないというものである。
なのに、「スペシウム光線」を出せば敵はたちどころに倒れるのである。
だったら登場当初から「スペシウム光線」を出しておけば、怪獣との闘いによって破壊される建物の被害を最小限に食い止めることもできたであろうし、なによりウルトラマン自身の体力の消耗やカラータイマーの点滅による自身の生命の危機をも防ぐことだってできたはずなのである。
にもかかわらず、自ら好んだように怪獣との怠惰な戦闘を積極的に展開し、のみならず戦闘中には必ずといっていいほど怪獣の優勢な場面を誘発し、自分の不利な場面を故意につくり出しては見守る一般市民をハラハラさせるというのは合点がいかないというものであろう。
こうなると、
「これはウルトラマンとその怪獣との間に何がしかの密約があって、一種の『八百長』を演じていたのではないか?」
「怪獣は倒れる代わりにウルトラマンから金銭的なものを受領していたのではないか?」
という疑念が一部の学者たちの間から出はじめるのもやむを得ないというのである。
もし仮に、そうではないというのであれば、ウルトラマンがああまでして3分間ギリギリまでドタバタ劇を繰り広げる必要もないのであるし、もとよりウルトラマンの放送時間も短縮できたというものである。
またそのほか、若い学者たちの間から出た疑惑としては、
「ウルトラマンは敵怪獣を倒した後、いつも空に向かって飛んでいくが、どこへ帰っていくのか? M78星雲だとすればあまりに遠くて身が持たないのではないか?」
であるとか、
「ウルトラマンはどこでどうやってハヤタ隊員に戻るのか?」
「口が動かないのにどうやって発声しているのか」
などのような疑念もあった。
もっと辛辣な疑惑としては、
「ウルトラマンの背中についているジッパーは一体何なのか? 誰かが中に入っているのか?」
などといった、夢もロマンも、それこそ元も子もないようなものもあったらしい。
* ところで一方、このような疑惑のふりかかったウルトラマン本人は当初こそひどく憤り、M78星雲営テレビに出演して、名誉棄損で委員会を告訴すると息巻いていたらしいが、かつて彼に破れた怪獣諸君の証言が得られるごとに次第に不利な立場に追い込まれたため、最終的にはおおむね次のようなコメントを出したとされている。
「もし私が最初からスペシウム光線を出さなかったのを諸君らがおかしいと咎めるのなら、『仮面ライダー』君が最初から『ライダーキック』を出さないのを諸君らがおかしいと咎めないのは如何なるわけであろうか」
なぜか委員会はこのような主張を、
「う〜む、さもありなん」
と受け入れてしまった。そして証拠がための一環としてすぐさま地球に赴き、北海道は小樽に隠居中の仮面ライダー氏に面会して前述の事項を問うたところ、年金生活者となっていた仮面ライダー氏はこういったという。
「もし私が最初からライダーキックを出さなかったのを諸君らがおかしいと咎めるのなら、『サザエさん』のカツオ君がいつまでも小学生のままであるのを諸君らがおかしいと咎めないのは如何なるわけであろうか」
なぜか委員会はまたしてもこのような主張をも、
「う〜む、さもありなん」
と受け入れてしまった。そして証拠がための一環としてすぐさま東京都江戸川区にある長谷川町子事務所に赴き、絵コンテ及び原作者に面会して前述の事項を問うたところ、原作者の長谷川町子さんはとうに亡くなっているというのにいつまでも長谷川町子さんとしてサザエさんを書き続ける絵コンテ及び原作者はこういったという。
「もし『サザエさん』のカツオくんがいつまでも小学生のままであるのを諸君らがおかしいと咎めるのなら、『ド根性ガエル』のピョン吉がTシャツに平面的に張り付いているのにもかかわらず大飯を喰らい、なおかつウンチを出さないのを諸君らがおかしいと咎めないのは如何なるわけであろうか」
このようにして、この後も委員会は次々と訪問先で、
「『侍ジャイアンツ』で番場蛮が『ハイジャンプ魔球』を投げられるほどのジャンプ力を誇るのを見たJОCが、彼をオリンピック走り高跳び代表に推薦しなかったことを咎めない理由や如何に」
とか、
「『サーキットの狼』でロータス・ヨーロッパに乗った風吹裕矢とポルシェ・カレラに乗った早瀬左近が時速150kmで走行中に窓も開けずに会話ができたことを咎めない理由や如何に」
とか、
「『王家の紋章』でアメリカ娘・キャロルと古代エジプトの王・メンフィスが初めて出会った時、お互い母国語以外はしゃべれないはずなのにいきなり日本語でベラベラと会話していることを咎めない理由や如何に」
などといった妙に説得力のある提言に押され反論できなくなって、とうとうウルトラマンと和解せざるを得なくなったとのことである。
* とまあ、ウルトラマンの疑惑については委員会の第2回報告書を見なければ現段階ではなんとも言えないが、いずれにせよアニメやヒーローといった子供たちの夢をはぐくむものは、決して現実的であってはならず、そうかといって非現実的過ぎると前述のウルトラマンのように灰色の疑惑をかけられる可能性もある、と報告書はまとめているようである。
念のため言っておくが、これは何もぼくが思うのではない。あくまでも委員会がそういっているだけなのだ。ぼくがそう思っているわけではないのだ。
え? じゃあ報告書はどこで読んだのかって?
もう忘れました(笑)。
Published 2000.12.10
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