〜ある女盗賊の物語〜
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勇敢な戦士や 偉大な魔法使いたちの織り成す
剣と魔法の世界ブリタニア
眩い光と漆黒の闇が奏でる 語り継がれるべき大いなる英雄伝
そしてひっそり消えていく 小さなあまたのものがたり...
・
〜 光と闇の狭間を生きる ある女盗賊の物語 〜

the another side of UltimaOnline? NO!! This IS UltimaOnline!


喧騒と欲望が蠢く街、首都ブリテインをねぐらとするあたい。
ここはあたいの庭、そしてあたいの仕事場。
そう、あたいは盗賊。
生きるために、あたいはこの街でなんでもやった。どんな薄汚いことでさえ...。
ただひとつ、あたいが手を染めてない悪事はコロシだけ。
あたいが所属する王立盗賊ギルド「黄金の右手」の古い掟...”殺しはご法度”
世界がふたつにわかれる以前に定められた古い掟さ。
あたいみたいな古株は、いまだにそんな掟に縛られてる。
もう覚えてる者なんか誰もいやしない、古い古い掟にね。
そしてあたいは、PKギルド「KTA」の一員でもある。
裏社会に君臨する闇組織 KTA。
それはブリタニアの大いなる影、そして恐怖。
ここは殺し、強奪、何でもありだ。
殺しをしないあたいがPKギルドに所属してるってのもおかしな話だけど、
誰かの大切なモノを一瞬のうちに奪い去るってことに大した変わりはない。
あたいはブツを、やつらは命を...。
仲間たちは歴戦の強者揃い。やつらはみんな血に染まってる。
天下の大泥棒のこのあたいも、仲間の間じゃ下っ端さ。
それでもにいさん、
あんたあたいの冒険談を聞きたいんだろ?
ふふ、にいさんはラッキーだ。
今日のあたいは気分がいい。滅多なことじゃ話さないんだよ。
でも...気をつけるんだ。
最後まで話を聞いたら、あんたもきっと黄金の右手を目指したくなる。
あたいに憧れてね。ふふふ。
そうさ、あたいは盗賊。
<誕生>
あたいはこの世界Izumoの誕生と共に生まれた。
あたいの生まれ故郷はトリンシックだ。
おっと、意外かい?ふふ、まぁ聞きなよ。
あたいみたいなベテランにもなると、最初の街にブリテインは選ばない。
にいさんだって、生まれたばかりの世界の、首都の喧騒は聞いたことくらいあるだろう。
賑わってるなんてもんじゃ、ないさ。戦場だよ、まるで。
首都から始めるのは何も知らない素人さ。ふふ、賢明じゃないよ。
トリンシックの宿屋前に生まれ落ちたあたい。
鞄の中には薄汚れた金貨100枚。
これが今のあたいの全て。たったこれだけ...。
はは、この世界で真に平等と云えるのはこれだけだ。
どんな勇者も、乞食にも、最初に与えられるのはたった100枚の金貨。
誰もがこの金貨100枚を握りしめ、
あるいは戦士、あるいは商人、あるいは殺人者として、ね、
ふふ、生きていくのさ。
そして100の100倍の富と名声を得るか、冷たい荒野にその屍をさらすか、
それはその後の自分の器量一つで決まるんだ。
剣と魔法が支配するこの世界では己の力だけが全て。
そして、剣と魔法が織りなす光と闇の狭間に
あたいら灰色の生きる場所が生まれる。
そう、あたいは盗っ人、
あたいは灰色。
そうさ、あたいは生まれついての泥棒。
生産なんて性に合わない。戦いも嫌いだ。
自慢の右手だけを頼りにこの世界をのし上がっていく。
クズ社会に咲く灰色の薔薇、
あたいは盗賊。
<修業時代−トリンシック>
この世に生をうけたばかりの裸のあたい。
いっぱしの盗賊になるためには、いろいろやらなきゃいけないコトがある。
なにはなくてもスキルだ。
この世界は全てスキル。技術が無けりゃ何も出来やしないのさ。
あたいら盗賊に必要なスキルはそんなに多くない。
にいさん、知りたいんだったら教えてあげるよ。
|
<盗み> |
言うまでもなく、これは一番重要な技術だね。
このスキルが高ければ高いほど、重たいブツを抜くことが出来るようになる。
盗みが成功する確率も、このスキルの高さによるんだ。
技術が低い者は王立盗賊ギルドに入会することすら出来ない。
あたいかい?
ふふ、野暮なこと訊くんじゃないよ。
あたいに盗めないものなんて、ないさ。
|
<覗き> |
文字通り、他人様の鞄の中を覗く技術だ。
盗みには、手探りで手当たり次第に盗む「ランダムスティール」と、
獲物の鞄を覗いてブツを選んで盗む「セレクトスティール」とがある。
ランダムスティールなんて子供の遊びさ。
あたいらみたいな盗みのエキスパートは、狙ったブツにしか手を出さない。
覗きの技術を使って、ちゃんと下調べしてから盗むんだ。
もちろんあたいは覗きもプロさ。
あたいの覗きは絶対ばれないよ。
|
<ハイド> |
盗みに成功しようが失敗しようが、ばれる時ってあるもんだ。
あぁ、もちろん衛兵(ガード)にばれたら瞬殺だよ。
ガードの魔の手を逃れた後の話さ。
どんなにのろまな奴だって、大切なお宝が無くなりゃ気が付くもんさ。
なかにはあたいに攻撃してくる骨のある奴もいる。
そんな時、あたいはこの技術で身を隠すのさ。
|
<ステルス> |
これは姿を隠した状態で歩くことができる特殊な技術だ。
あたいみたいなベテランにもなると10歩も歩くことが出来る。
便利なもんだよ。
お喋りに熱中してる哀れな犠牲者の傍らにそっと忍びよるのさ。
ブツを抜くその瞬間までは隠れたままでいられる。
効率よく仕事をこなすために、無くてはならない技術だね。
例えば盗みがばれて隠れてる時でも、ただじっとしてるのは間抜けなもんだ。
次なる獲物を求めて、あたいは身を潜めたまま進むのさ。
|
そしてもちろん |
ブリタニアで生きていくためには、絶対に押さえておかなきゃならない重要な技術だ。
なんと言っても、ここは魔法の国だからね。
最後にもう一つ、盗賊ギルドのことを忘れちゃいけない。
ギルドに入ってない者はモンスターやNPCからしか盗めない。
王立盗賊ギルド員だけが、他人様から盗みを働くコトができるんだ。
あたいらみたいなならず者も、結局は王の庇護下って訳さ。
はっ、嫌な話だ。
もちろんギルドに入るには厳しい条件がある。
盗みスキル60以上、それと48時間の活動時間だ。
今のあたいは、まだどちらの条件も満たしてない。
生まれたばかりの新米泥棒が人様から簡単に盗みを働けるほど、この世界は甘くない。
まずは盗みの技術を上げなくちゃ。
・
トリンシックの宿屋をあとにするあたい。
街外れで、ジェロームへのエスコートを待つNPC貴族を見つける。
あたいは彼を引き連れてトリンシック北門をくぐり、
向かうはジェローム?
いや、この先の森の奥さ。

木々をかき分け森を奥へと進むあたい。
辺りに人目がないことを確認すると、彼の鞄をそっと覗く。
786枚の金貨。
さすがは貴族。
ここはガードの目が届かない圏外だ。
助けを呼んだって来やしない。
ふふ、ありがたく戴いとくよ。

もちろん盗るモン盗ったら用済みさ。
・
あたいが次に向かったのはトリンシック南の厩舎。
手にした金貨と引き替えに、あたいはパック馬を購入する。
ジャニス。
うん、良い名前だ。

盗みの技術を磨く泥棒にとって、パック馬は最高の相棒だ。
愛馬のパックの中に荷物を入れて、それを自分自身で盗むんだ。
繰り返し、繰り返しね。
おっと、馬に自分をガードさせる事を忘れちゃいけない。
こうすることによって、衛兵に咎められることなく練習出来るからだ。
・
栗毛のジャニス相手に、来る日も来る日も練習に余念がないあたい。
やがて盗みのスキルが60を超える頃には、48時間の活動時間も満たしてる。
さぁ、いよいよ盗賊ギルドに加入だ。
<王立盗賊ギルド>
盗賊ギルドの一員になるには、この広いブリタニアからギルドマスターを捜し出さなきゃならない。
捜索は困難だけど、こんなことでへこたれてちゃこれから先の盗賊生活やっていけない。
あたいは旅支度を整えると、生まれ故郷を後にする。
気品溢れる貴族の街トリンシックとはおさらばさ、あたいにゃ似合わない。
向かうはスカラブレイだ。
王立盗賊ギルド「黄金の右手」のギルドマスターをスカラで見かけたって情報を
既にあたいはつかんでる。
・
スカラは狭い街だ。
到着から一時間もしないうちに、銀行付近を徘徊する大先輩Deeを見つけ出す。
彼に近づき、あたいは胸を張って宣言する。
「Dee
Join」
これであたいもギルドの一員。
ふふ、ここに大盗賊
那由多様が誕生したってワケさ。

続いて彼から変装キットを購入する。
これを使うと、一定時間自分の名前と髪型を変えることができるんだ。
あたいら盗賊の、七つ道具の一つさ。
さぁ、これで人様から盗みを働ける。
あたいは腕試しに、街の中で最も人が集まる場所へと向かう。
銀行だ。
・
獲物を求めるあたいの目に留まったのは、銀行のドア付近に佇む若い男。
見習い剣士らしく、古びた皮の鎧をその身にまとい、
片手には剣、片手には盾。
男の名前はValkyrie。
ふっ、ありがちな名前だ。
そっと男に忍びより鞄の中を覗きこむ。
ちぇっ、ろくなもん入ってない。
鞄の隅に大切そうにしまいこまれた幾枚かの金貨をつかんだ、その瞬間...
「GUARDS!」
男の叫びを聞きつけて、どこからともなくやってくる衛兵達。
振り下ろされるハルバードの一撃!!
あたいは一瞬で灰色の世界。
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薄れゆく意識の中であたいが聞いたのは、
その後幾度となく耳にすることになる、ガード様の決め台詞。
「野蛮な行為に後悔するがよいっ!」
・
死の世界へと旅立ったあたい。
慌ててヒーラーに向かい蘇生をしてもらう。
ふぅ...。まだまだ修行が足りないな。
ばれずに盗むには覗きの技術も磨かなきゃ。
それには同業者の助けが要る。
もうこんな小さな街じゃ役不足だ。
さぁ、いよいよ出発だ。
首都へ向かおう。
ブリテインへ。
<王都へ>
スカラからブリテインまで続く街道を、愛馬ジャニスと進むあたい。
行き交う人も少ないこの静かな街道が、首都ブリテインに続いてるなんて嘘みたいだ。
愛馬の背中に揺られながら、目指す新天地へと思いを馳せる。
(おっと、パック馬は乗れなかったっけ?)
程なく街道をぽつらぽつらと冒険者が往来するようになり、
やがてあたいの進む道は二つに分かれた。
あたいは草に埋もれてぼろぼろになった道しるべに目を向ける。
北:Yew 東:Britain
ふぅ、ここがあの有名なブリ西三叉路か...。
人殺しがよく出没する場所だって噂には聞いている。
辺りを用心深く見渡すあたい。
遠くから聞こえてくる狼の鳴き声。彼方に見える山脈に日が沈んでいく。
もうすぐ夜だ。
こんな場所にぐずぐずしてちゃいけない。
東だ。
・
今、街道をひた進むあたいの両側には、まるでのしかかってくるような絶壁。
そこかしこに、あたいと同じような荷馬を連れた鉱夫らしい男達が
切り立った黒い岩肌にハンマーを穿っている。
男の一人に声をかけてみる。
「ここはブリテイン西の鉱山だ。俺達ゃ掘り師だよ。
そしてここはガードの巡回場所にもなっている。
つまりあんたは、もうブリテインのガード圏内に居るってことだ。
この切り通しを東に抜け、更に進むと首都ブリテインだ。」

低い声で言葉少なくそう語ると、男は再び作業に戻っていく。
男の鞄の中にはつまらない石ころしか入ってなかった。
たちまち興味が失せた鉱夫達にあたいは背を向け、
街へと続く狭い街道を再び、東へ。
・
民家が点在する山林の街道をあたいは進む。
東へ、東へ。
やがてあたいの体全体に、しびれにも似た感覚が走りぬける。
大きな街が発する独特の雰囲気。
街のざわめき、獲物のにおい。
白くたなびく帆を張った堂々たる船が行き交う港に架かる巨大な木橋。
橋を渡りきると、景色はがらりと、変わった。
初めて目にする大きな建物。
いかにも歴史がありそうな古びた石畳。
そして見渡す限り、人、人、人。
ついにあたいは辿り着いた。
そう、ここはブリテイン。王国の首都だ。
様々な人種が行き交うブリタニアいち大きな街。
忙しそうにあたいの横を駆けぬけていく大勢の獲物達。
活気溢れる街並みと、その陰に潜む、欲望。
あたいの求めていたモノが今、目の前に広がる。
王都ブリテイン、
今日からここが、あたいの第二の故郷。
・
長い一日が終わった。
今日のねぐらとなる薄汚れた路地裏で、
汚いぼろ切れにくるまってあたいは眠る。
見果てぬ夢を、かき抱いて。
<修業時代−ブリテイン>
田舎から都会に出てくると、得てして色っ気がでるってもんだ。
スキル上げもソコソコに盗みに没頭するあたい。
王都ブリテイン、ここは泥棒天国だ。
来る日も来る日もあたいはこの街を駆け抜ける。
もうここはあたいの庭だ。
知らない場所なんて無いし、知らないコトなんて無い。
でも、やがてあたいも知ることになる。
上には上が居るってコトを。
この大きな街には同業者も多い。
そしてその中の幾人かは、このあたいでさえ目を見張るような凄腕の持ち主だ。
この街じゃあたいなんかまだまだ駆け出し。
まだまだひよっこなあたい。
未熟さを思い知ったあたいは、中断していた修行を再開した。
まずは同業者の多い銀行前で仲間を集い覗きの特訓だ。
互いにバックを持ち合って覗きの技術を修練する。
銀行は沢山の人が訪れる場所だ、退屈はしない。
覗きの技術が100になる頃には、すっかり銀行に集まる常連達の顔も見知ってしまう。
次はハイドの訓練だ。もちろん習ったばかりのステルスも。
繰り返し繰り返し技術を磨くあたい。

・
まだ完璧に仕上がってないあたいだけど、
またちょこちょこと稼ぎにでるようになった。
鍛え抜いた技術を試してみたくてしょうがなかったんだ。
銀行前で眠たい会話をしてるあいつらの鞄の中身を、
見たくて見たくてたまらなかったんだ。
盗みの技術を駆使しブツを抜きまくるあたい。
ステルスを使って家侵入もやってみる。
やがて大量の現金やインゴット、貴重な魔法武器を手に入れたあたい。
稼いだ金を握りしめ、あたいは大工屋へと向かった。
家の権利書を購入するためだ。
家を建築して、そこで残ったスキルを仕上げるんだ。
<アジト>
汚れた金で買った一枚の権利書。さぁ、建てる土地を探さなきゃ。
家が建ったら今度はその中で特訓だ。
しばらくブリには戻れない。
第二の故郷にしばしの別れを告げ、あたいは北へと向かった。
土地を探して彷徨うあたい。
やがて、とある街にほど近い草原に手頃なスペースを発見、
無事家を建てることが出来た。
空っぽの家に盗んだ家具を配置する。
さぁ、ここは誰にも邪魔されないあたいだけの場所。
心おきなく訓練できる。
パック馬を連れ込んで再び訓練の日々。
くる日もくる日も、つらい修行に明け暮れる。
そしてついに...あたいの盗みスキルは100に。
夢にまで見た、誇り高き「GrandMaster PICKPOCKET」の称号。
完璧に仕上がったあたい。
準備はOKだ。
さぁ、ブリテインに戻ろう。
・
少しの間"家"と呼んでいた建物のドアを開けるあたい。
ドアを閉めたら、もうここはあたいの家じゃない。
あたいのねぐらはブリテインの薄汚れた裏路地。
ここに戻ってくる時は、持ちきれないほどのブツを手に入れた時だけ。
そう、ココはあたいの、アジト。
後ろ手にそっとドアを閉め、
そしてあたいは歩き出す。
南へ。
首都ブリテインへ。
<始まり>
ブリテインの石畳に再び足を印すあたい。
今のあたいに盗めない物なんてない。
ここはあたいの庭、そしてあたいの仕事場。
そう、あたいは盗賊。
あたいの旅は、今、始まったばかり。
そう、全てはココから始まるんだ。
ブリテインから。
喧噪と欲望が蠢く街、ここ王都ブリテインから。
あたいの愛する街、
ここ、王都ブリテインから。
.
.....
.......
「なんだい、にいさん。寝ちまったのかい?」
三の刻を知らせる鐘が鳴り、ふと我に返るあたい。
時を忘れて昔話を熱っぽく語っていた自分にやっと気が付く。
ふっ、あたいらしくもない。
こんなにペラペラと、まるで若い娘のように...。
どこからか流れてくる吟遊詩人の奏でるリュートの音色。
窓から差し込むブリタニアの二つの月明かりが、
薄暗い部屋と、あたいの傍らで眠る男の顔を照らしだす。
若い船乗り。
剣士に憧れてオクローから来たって言ってたっけ?
歳の頃は十五、六。
若い、本当に若い。
あたいは目を閉じて、ブリタニアに初めて足を印した日のことを思いおこす。
...懐かしい。
そう、あの頃あたいも若かった。
過ぎ去った遠い日々を再び思い出しながら、
あたいは窓の向こうに広がるブリタニアの城下町をぼんやりと眺める。
冒険者で賑わうこの街に夜なんて無い。
そしてあたいら盗賊にも、夜なんて、ない。
今こそあたいたちが暗躍する時間、夜ふけのブリタニア。
でも、こんな気分の日に仕事をしてうまくいった試しがない。
今日の仕事はお休みだ。
あたいは肌身離さず身につけている小さなポーチから、古びた一冊のノートを取り出す。
ぼろぼろに破れたこの紙束こそ、あたいの生きてきた証。
ブリに初めて来たその日から欠かさずにつけている日記だ。
窓から注ぐ月明かりをたよりに、
そっとあたいはページをめくる。
リュートが奏でる悲しい純愛歌を聴きながら、
静かに
しずかに
...

「Guards!GUARDS!」
哀れな犠牲者の悲痛な叫びを背に受けながら、
あたいは自慢の良く動く足で人混みの中を風のように駆け抜ける。

「ははは、すまないけど気がつくの遅すぎダヨ。」
あたいの黄金の右手は狙った獲物を逃がさない。
そしてもちろん、捕まるなんてヘマもするはずない。
ブリタニア第二銀行から裏通りを抜け、一気にガード圏外へ。
ふぅ...。ココまで来ればもう大丈夫。
あたいは弾む息を整えて、たった今盗んだばかりの魔法の剣に目を向ける。
えへへ、ついてるな。今日はコレで二本目だ。
...それにしても、あの人ずいぶん不用心だったな。
あれじゃ、あたいに盗んでくれって言ってるようなもんだよ。
得意の鑑定技術を使って魔法の剣を調べ始める。
わお、POWERだ!しかも銀製じゃないか!
へへ、さすがあたい。今日も冴えてるヨ!
どうやら追っ手も来ないようだ。
あたいは上機嫌で、流行唄を口ずさみながら次の職場へと歩き出す。
すると突然背後から、耳慣れたガードのキメ台詞が聞こえてきた!
「野蛮な行為に後悔するがよいっ!」
どきっ!
なななんでガードが?
ココってガード圏外のはずじゃ?
ガードの魔の手から逃れるコトはもちろん出来ない。
振り下ろされるであろうハルバードの一撃。
そして一瞬の後に灰色の世界。
覚悟を決めたあたいは思わず目をつぶる...
...が、
いつまで待っても訪れない死。
?
恐る恐る開いたあたいの目に映ったのは、
ハルバードを構えたいかつい衛兵ならぬ、
くしゃくしゃの巻き毛に、鋭く光る黒い瞳を持つ背の高い男。
顔に満面の笑みを浮かべながら...
ん?満面の笑み?
ちぇっ、ニタニタしてるだけじゃん。
「はははは、天下の大泥棒那由多様も、さすがにガードにゃかなわないってか?
自慢の亜麻色の髪が一瞬真っ白になったみたいだったぜ?
大丈夫、首はちゃんとつながってるよ。」
もぅ、びっくりさせないでよ。
彼の名前はナック。
ブリで時々見かける同業者だ。
年齢は不詳。結構おっさん入ってるね。
盗みの腕はソコソコやるらしいけど、なにより有名なのはそのホラだ。
自分は偉大な大盗賊ナックウィルの末裔だっていっつも吹いてる。
あたいはトレードマークの熊マスクを深く被り直すと仏頂面で答える。
「...久しぶりだね、元気?」
「はは、ご覧の通りぴんぴんしてるよ。
そーゆー那由多も...うん。元気なのは見りゃあわかる。
相変わらず殺しても死ななそーな顔してるぜ。
仕事中か?
どーだい今日の成果の程はヨ?」
仕事中だよ!それこそ見れば分かるじゃん!!
...って、
この男に真面目に切り返してもしょうがない。
それに、憎まれ口を叩き無邪気に笑うこの同業者を、
あたいはけっしてキライじゃない。
あたいとナックは、近くのプレイヤーショップの中に入ると椅子に勝手に腰掛ける。
お店の主はどうやら留守らしい。物言わぬベンダーがじっと宙を見つめてる。
テーブルを挟んで互いの近況を報告しあう。
「今日は、そうだね。まーまーってトコかな?
そーゆーナックこそ、どう? なんかいーもん手に入ったけ?」
「俺はダメだなぁ。さっき一銀で剣盗んだけどよ、ゴミよゴミ!ほら見てみ。」
ナックがテーブルの上に無造作に置いた魔法の剣を、あたいは鑑定の技術で調べる。
ふむ。見た目は悪くない感じだけど、なるほど只のRUINだ。
「まったく最近は冴えねーったらありゃしねーよ。
新世界トランメルが出来てからこっち、フェルッカの過疎化にも困ったモンだ。
みんな盗賊の存在できねぇトランメルに行っちまった。
エモノなんかどこにもいやしねー。
ま、俺達盗賊にもその一因があるって言われりゃそれまでだけどよ。」
「まったく昔が懐かしいぜ。覚えてるかい?那由多。
家侵入で荒稼ぎしてた頃を。
あの頃は良かったなー。
それに比べて今はどうだ、こんなんじゃ商売上がったりだ。
俺もさっさと足洗って、こんな立派な店でも経営してみてーもんだ。
おっと...誰かきたぜ?」
カランカラ〜ン。
店に入ってきたのは、真新しい鎧を着込んだいかにも戦士風な男だ。
窮屈そうに被ったヘルムの下にちらちらと見える顔は、まだ若い。
ナック:「いらっしゃいまし。」
..え?
ナック:「あたくし、この店の店長を務めさせていただいておりますディアスと申します。
剣士様は狩りの帰りでございますか。今日の成果はいかがでございましたか?
おぉ、それはそれは。
で、本日は何かお探しで?」
さすがホラ吹きナック。あっという間に店の主人に早変わりだ。
ディアスだって?ふふ、誰だいそれ?
ナック:「剣ですか。ふむふむ銀製の、細身の剣ですね?
おお!剣士様は運がいい。たった今、良い品物を仕入れたばかりで御座います。
この品はヒスロスの洞窟奥深くに巣くうバルロンから入手した名品中の名品。
魔 法 の 剣 に て ご ざ い ま す 。
どうぞお手にとってご覧なって下さいまし。」
「は?この娘でございますか?えぇえぇ全くふびんな話でございますよ。
先代が亡くなった今では、店長としてこの娘の成長を見守ることしかあたしには出来ません。
親代わり?いえいえとんでもない。
嬢様はもう立派に成長されてますよ。
仕入れに関しては、今ではあたしなんかより目利きでして、えぇ。」
嬢様?
あたいが?
くくく、頼むよナック。
あたいは吹き出しそうになるのをこらえるので精一杯。
「亡くなったお父上も、きっと天国で喜んでいることでしょう。
あぁ、どうも話が湿っぽくなってしまいました。
あ、お買い上げ戴けますか? 有 り 難 う ご ざ い ま す。
魔法の剣は金貨五千枚になりますが、お客様。」
「最近はこの辺りも滅法物騒になりました。お気をつけてお帰り下さいまし。
へぇ、またのお越しを... お 待 ち し て お り ま す。」
カランカラ〜ン。
「名品中の名品、ねぇ...」
皮肉たっぷりにあたいは切り出す。
「へへ。名品となまくらが見分けられないようじゃ、
あの男もこの世界で長くは生き残っていけまい。
"鑑定の技術がなけりゃ杖を使え"ってなもんだ。
はっ。
ま、授業料ってとこだな。」
「はは、言えてるかも。でもねナック、
お口の方ばっかで、肝心の右手がお留守だったんじゃないの?」
あたいはそう言うと、たった今盗んだばかりの金色に輝く鍵をポケットから取り出す。
"a ship key"...男の鞄から抜きさった船の鍵だ。
船鍵は、家侵入が出来なくなってしまった今、あたいら泥棒にとって一番の獲物。
奪った船の鍵にリコールの魔法を唱えると、その船まで飛ぶことが出来るんだ。
船倉にお宝があったらもちろん全てイタダキだ!
仮に空船だったとしても、模型化しちまえば船の権利はあたいのもの。
「おぉ!でかした那由多!俺にも分け前よこせよ!」
「はは、じゃ今度キャッツレアの酒場でテキーラでもおごったげるよ。」
お酒が苦手なナックにそう言うと、あたいはリコールの呪文を唱えはじめる。
さっきの戦士が盗まれた事に気が付いて、銀行の予備鍵で先に船に戻られちゃたまんない。
いつまでもナックのあほたれに付き合ってる程あたいは暇じゃない。
"Kal Ort Por"
一瞬の後、目に映るのは果てしなく続く青。
海上にゆらゆら揺れる船の上。
良かった、あたいのほうが一足速かったみたい。
急いで船倉に駆けよるあたい。
わおっ!
この船サルベージ船だ!

船倉には、沈んだ船から引き上げられた財宝の数々。
鞄にぎゅうぎゅう詰め込むと、あたいは六分儀を取り出し座標を調べる。
えーっと、ここから一番近い陸地は...
OK、ムーングロウだ。
あたいは錨を上げると、船首を東へと向かわせる。
やがて見えてきたムーンの港。
強奪した船を港の桟橋に寄せてサクサク模型化。
ふふふ、成果は上々だ。
意気揚々とあたいはムーンの街一番の上宿へ。
沢山働いた自分へのご褒美だ。
今日の獲物を酒の肴に、お気に入りのエンパスアビー産赤ワインで祝杯をあげる。
やがて床に何本もの空ボトルが転がり、いつしかあたいは夢の中。
・
夢の中のあたいは、なぜかナックと一緒に船旅なんかしてる。
船長はもちろん、あの鎧の戦士。
とても言葉に出来ないほど恐ろしい悪夢にうなされ夜中に飛び起きると、
二日酔いの頭がガンガンといかれたビートを刻んでる。
気分は最悪だ。

家の権利書のようなブレス属性品は盗めない。
そんなコトはこの世界の住民なら泥棒じゃなくたって知っている。
ただしなんでもそうだけど、物事には例外ってもんがある。
二階層目のバックの中にブレス品があった場合、そのバックごとなら盗めるんだ。
もちろん、そんな不用心な人をこのフェルッカで見かけることは希だ。
でもなかには...
・
獲物を求めてムーン銀行を彷徨うあたい。
赤いマントを羽織った戦士風の兄さんに目がとまる。
ステルスで姿を隠したまま彼に近づいて、そっと鞄を覗きこむ。
わおっ!二階層目のバックの中に、
い、い、い、家の権利書発見だっ!
二階建ての権利書かしら?
それともタワー?
まてよ砦?
いやお城??
いやぁ〜ん。♪
はっ!
妄想の世界へトリップしてる場合じゃないって!
落ち着いて、那由多!
そうだ。久しぶりのおっきい獲物、これを逃がす手はないヨ。
浮かれちゃダメだ、慎重にやらなきゃ!
高鳴る胸の鼓動をぐっと抑えて、あたいは権利書をじっくり観察する。
なーんだ、これスモールハウスの権利書じゃん。
ちぇっ、ドキドキして損した。
気を取り直して、あたいは権利書入りのバックに手をかける。

バックの中には
スモールハウスの権利書にヤングチケット、ルーンが一つに幾枚かの金貨。
全部まとめてイタダキだっ!
ふふ、お兄さんにはかわいそうだけど、
不用心に持ち歩いてるトコを、よりによってこのあたいに見つかったのが運の尽き。
ん?まてよ...金貨?
伸ばした手をあわてて引っ込めて、
あたいはバックの隅っこに積まれた金貨の山を睨み付ける。
その数385枚。
バックの重さ含めると...都合14ストーン?
ぬぬぬ、盗めないじゃ〜んっ!
そう、泥棒が一度に盗めるのは10ストーンまでって決まりなんだ。
いくらあたいだって14ストーンじゃさすがに手が出ない。
一気に脱力、あ〜あ。
いやっ、待てよ!
14ストーンとはいえ、やりようによっては盗めないこともない。
二回に分ければいーんじゃん。最初にお金。次にバック。
わお!あたい冴えてるっ!
もちろん一回でさえ難しいところを二回もなんてそれこそ至難の技だ。
でも盗み難いブツを抜いてこそ真の盗賊ってもんだ。
あたいは息を殺して、彼の様子をじっと窺う。
そう、あせっちゃだめ。
ヘタに手を出すよりも、今はチャンスを待つべきだ。
やがて彼は、道行く見知らぬお姉さんとお話し始めた。
あたいも隠れたまんまで盗み聞き。
ふむふむふむ...。
どうやらこちらのお姉さん、この近くでお店を営んでるらしい。
どういう話の流れだかわからないけど、彼をお店まで案内するコトになったようだ。
お〜!チャンス到来、ちょーラッキー!
お店ってコトはガード圏外だ。
ガードの目が届かない圏外のほうが俄然お仕事しやすい。
それでこそ待った甲斐があるってもんだヨ!
お姉さんと彼は、仲良く馬を並べてムーン南門から圏外へ。
あたいも彼らを見失わないよう後を追う。
数分の後、小奇麗なスモールマーブルショップへと到着する。
店内でお喋り中の彼の傍らへと、あたいはステルスの技術で姿を隠したまま一歩一歩忍び寄る。
ここで姿が出ちゃったらオハナシにならないぞ。
慎重に、慎重に。
やっとのコトで彼の隣に辿り着く。
ふぅ...。
一息つくとあたいは、お気に入りの真っ赤なお洋服に着替えはじめる。
街中ではカムフラージュの為、黒っぽい服を着ているコトが多いけれど、
大きいブツを狙うときは、敬意を表して着替えることにしてるんだ。
赤は血の色、怒りの色。
赤い血はあたいたちが生きている証。そして怒りはとってもピュアな感情。
赤はあたいの大好きな色だ。
よし、準備OK。
まずは邪魔な金貨を排除しよう。
金貨を盗ったあとには、大本命の権利書入りバックが控えてる。
ココはうまく立ち回らなきゃならならないぞ。
もちろん、盗みを行うと同時にステルスは解除になっちまう。
だからなるべく気が付かれないように、建物の陰をうまく利用するんだ。
盗んで姿が出ちゃうと同時にダッシュだな。うん。
あたいは彼のバックをそっと開くと、385枚の金貨の山に手を伸ばす。
おっと、あわてちゃイケナイ。今はまだダメだ。
彼らの会話が一番弾んでるトキを狙うんだ。
・
・
・
時間が経つのがやけに長く感じる。
よしっ、今だっ!
あたいの黄金の右手発動!
もちろん成功だ。
♪
同時にあたいは勢い良く店を飛び出し、南へと激走する。
後ろを振り向くとお店のお姉さんが追ってくる!
ちぇ、なかなか鋭いな。
南へ数ブロックほど逃げ、建物の影にてHIDING。
よし、OK。うまく隠れられたぞ。
彼女があたいを探してる間に、急いでお店に戻らなきゃ。
邪魔者は居ないにこしたことない。
なんといっても本命は家の権利書のほうだ。
ステルスを使い、あたいは素早くお店へとんぼ返り。
あちゃ、やっぱ彼女のほうが一足早く戻ってら。;;
泥棒のコト、彼に話しちゃってるかなって心配したけど、
どうやら彼女、あたいが泥棒だって気が付かなかったみたい。
自分の店からいきなり人が現れて走り去ったんで不審に思って追いかけた、ってトコかしら。
もちろん彼もま〜ったく気が付いてないご様子。
あたいは期待を込めて彼の鞄を再び覗き込む。
思った通りだ。
まだ二階層目に入ってるヨ、あたいの権利書。♪

よし、今度はバックごと。いよいよ大本命だ。
慎重に、慎重に。
落ち着いて、おちついて。
ドキドキ脈打つあたいの心臓、
ゆっくり深呼吸して整える。
・
さぁ、いくよ!
いち、にぃ〜の、さんっ!
お金を抜かれて軽くなった彼の権利書入りバックは、難なくあたいの鞄の中へ。
同時にあたいは一目散に走りだす。
すぐ後ろまでお店の彼女が追いかけてきてる!
今度こそ泥棒だってバレちゃったに違いない!
ここで捕まるわけにはいかない!!
殺されちゃう前に、ほら、急いでっ!
あたいは自慢のよく動く足で彼女をぐんぐん引き離す。
逃げ足だけは超一流だ。
近くの建物の影を利用してHIDING。
そしてそのまま、じっと息を顰める。
.....
OK。
もう大丈夫。
彼女をまんまとやりすごしたあたい。

たった今奪ったばかりの権利書の感触を確かめると、
心地よい達成感があたいを包む。
大きな仕事をこなして、あたい最高ご満悦。♪
あっ、そうだっ!
あれだけ不用心な彼だ、きっと楽園トランメルからやってきた新米冒険者に違いない。
泥棒が存在できないあっちの世界で育った彼にとって、今回はきっと初めての体験だろう。
彼がこれからこっちの世界で生きのびていけるように
アドバイスしてあげるのを忘れちゃイケナイ。
そう。
世界がまだ一つだった頃には、誰もが自然と身に付けていた護身術も、
楽園で育った世代にとっては、全然まったく身に付いてない。
若い頃からすこしづつ学んだり経験してったりってコトないまま、
こっちに来ていきなり大きなモノ奪われちゃう。
これはある意味大きな問題なんだ。
あたいは急いで雑貨屋に向かいノートを購入してくる。
「家の権利書を二階層目に入れちゃダメだよ」
「こっちは怖〜いトコなんだ。でもくじけないで生きてね」
さらさらとペンを走らせる。
ま、ナニ書いたって、実際んトコ何の意味も持たないんだけどさ。
どんなにきれい事並べたって、
盗まれた人にとって泥棒は、憎むべき存在に他ならないもんね。
ステルスで姿を隠しながら再びお店へと戻るあたい。
いるいる。
そ〜っと近づいて、お店の床の上にアドバイスを書き綴ったノートをさりげなく..。
そして少し離れて反応を盗み見るやらしいあたい。
お店のお姉さん、早速ノートに気が付いたみたい。
彼女:「なんか盗まれたみたいだよ?」
あらら?二人ともまだ気が付いてなかったんか。
あわてて彼は荷物をあらためる。
数秒の沈黙。
そして、
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ついに権利書が盗まれてることに気が付いた彼。
とても耐え難いほどの厳しい現実にがっくりとうなだれ、言葉を失う。
そんな彼に、お店の彼女、気前よく金貨五千枚を手渡し
「足しにしてよ。」
う〜、なんていい人なんだー。
彼と彼女の間に芽生えつつある愛。
そこまで見届けて、あたいはその場をそっと後にする。
彼女:「土エレかなんかで、すぐにまた稼げるよ!」
彼:「...なに、それ?」
え?
Earth Elemental 知らないの?
その場を去りかけた足に、好奇心という名の抗いがたい鎖がからみつく。
戦いをしないあたいだって土エレくらいは知ってるよ?
そのままあたいは盗み聞きモード。ふむふむふむ。
話によると、この子ダンジョンにすら行ったコト無いんだって。
モンスターを倒してお金を稼いだんじゃないなら、
一体どうやって権利書買ったのかしら?
謎だわ?
そーいや最近じゃ、全然苦労しなくっても権利書くらいならサクッと買える時代だってよく聞くな。
危険とロマンに満ちた冒険すらする必要もないのか...。
ふぅ〜、まったく良い時代になったもんだよ。
あたいはため息を一つついて、
ブリタニアがまだ二つに分かれていなかった遠い昔のことを思い起こす。
そう、あの頃....
・
右も左もわからず殺され奪われ、
そして生きることを学んだ、いや学ばされた、否、学ばざるを得なかった
あたいの遠い青春時代。
フィールドは殺人者達の庭で、街は泥棒の巣窟だったあの頃、
処世術を知らない者は彼等にとってカモ以外の何者でもなく、
対策してたって、ほとんど無力に等しかった。

自分で稼いだお金が誰かの懐に入ってしまう事なんて当たり前。
苦労して買った家の権利書を、買ったその瞬間に盗まれてしまった悲劇の冒険者達、
あたいは幾度と無くこの目にしてきた。
大いなる自由という混沌のただ中にあったブリタニア、
そこに法は無く、秩序も無く、そしてもちろん保護も無い。
分不相応な者は家なんて持てないのが当たり前だったし、
やっとの思いで建てた家だって、
乗っ取られてしまうことが日常茶飯事だったあの暗黒時代。
あたいはそんな黒いブリタニアに生まれて、やがて身も心もその色に染まっていったんだ。
それに比べて今はなんていい時代なんだ。
冒険もろくにしてない戦士ですら、こうやって権利書を買うことが出来る。
はっ、ずいぶん時代も変わったもんだ。
・
いきなりシリアスモードに突入してるあたい。
そんなあたいを引き戻したのは、あたいが思ってもみなかった彼の台詞。
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え?
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え、え、え?
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ええ〜!?
そーなの〜???
見た目で戦士だとばっか思ってたケド、
今時珍しい汗を流してお金を稼ぐ勤労青年だったワケ?
そんでなに?それ以外の稼ぎ方知らないって...
ホントに〜??
再びあたいは行かなくってもイイ妄想の世界にTripOut。
さっきのダークな色の懐古から、今度はうってかわってセピア色の想像へ。
・
日没近い鉱山に、一人黙々とハンマーを振るう彼。
額に汗をにじませながら、必死に石を掘り続ける。
彼の夢は、お金を稼いで小さいながらも暖かい家を建てること。
それが彼の、たった一つのささやかな夢。
雨の日も風の日も鉱山に通う彼。
得意の鍛冶技術で鉱石から武器防具をこさえ、
かかえきれないほどの商品を街の武具屋に売り歩く日々。
とても素朴で、とっても純粋な彼。
真面目に一生懸命働いて、そしてついに手に入れた一枚の権利書。
今日は彼の血と汗と涙の結晶が実を結んだ祝福すべき日。
溢れんばかりの達成感と充実感に酔いしれる彼。
ずっとやめていた大好きなお酒で祝杯をあげる。
今日だけの、ささやかな贅沢。
明日から始まる土地探しの旅に備えて、早めにお休みのベットへ入る彼。
安住の地を求めて広い荒野へ、今旅立ったばかりの彼。
つらい放浪の日々、その先にあるのは夢、そして希望。
そう信じて、疑わない彼。
絶望が待ってるなんて
夢にも...思わない....かれ
・
あああああああっ!
やめてやめてマジやめてっ!
こんなのまやかしだ!
あたいはこんなの好きじゃない!
さっきのダークなほーのが千倍良かった。セピア色なんて大っ嫌い!
あたいは盗賊だ!こんなコト考えちゃいけない!
庶民の皆様の努力の結晶を一瞬で奪い去るコトこそあたいら盗賊の生業だ!
あたいはいままでだって...
いやっ!
今まであたいが奪ってきたのは、権利書なんてかわいいモノばっかじゃない!
不用心な人からあたいは、それこそ根こそぎ奪いまくってきたんだ!
あたいはそーやって生きてきたんだっ!!
....
こ の 世 界 に あ る も の は
す べ て は か な い も の な ん だ
....
だ か ら 本 当 に 大 切 な も の な ら
も っ と も っ と
た い せ つ に し な き ゃ い け な い ん だ
....
念のため買っておいたもう一冊のノートに、
あたいはもう一度メッセージを書き留める。
ポーチを取り出しノートと権利書を入れ、
それをそっとお店のテーブルの上に...
そして静かにその場をあとにする。
おっと、勘違いしないで欲しいんだけど、
あたいは義賊ってワケじゃ全然ないよ。
そんなのあたいにゃ似合わない。
眠たい偽善もゴメンだね。
あの権利書は、正当な代価として彼にくれてあげただけ。
あたいがずっと忘れていた遠い昔の思い出を
/
本当に若かったあの頃のあたいを /
遙かな時の彼方に置き去りにしてきた過去を /
闇に染まる以前に ほんの少しの間だけ 確かにあたいにもあった、あのセピア色の日々を /
もう二度と戻れない / 記憶の中の / あたいを...
思い出させてくれたその代価には、
彼の思い出が沢山詰まった、
権利書という名のちっぽけな紙切れがお似合いだっただけ。
ただ...それだけ。
あたいが今回盗んだモノは、
あの子が楽園トランメルで培った、
ママの体内のように穏やかで安全なブリタニア、という幻想だ。
暖かな土地で育った彼にとって、
とても堅固で、
そしてとてもはかない幻想だ。
そうさ、あたいは盗賊。
あたいに盗めないモノなんて無いんだ。
だからあたいは、
心だって、固定概念だって、
なんだって盗んでみせるんだ。
....
あたいの興味はすでに彼等から遠く離れ
そして新たな獲物を探すため
あたいは
闇を這うように
歩きはじめる

柔らかなリュートの調べは、いつしかmagpieのさえずりへと変わり、
夜の霧を纏った王都は
訪れた朝の光を受け、つかの間の眠りから目覚める。
あたいは 幼い日々の日常を綴った日記をそっと閉じると、
安宿のドアを開け、人っ子一人居ない明け方の王都をあてどなく彷徨う。
あたいの黄金の右手に大切なモノを奪われた多くの冒険者達、
あたいと共にこの街を駆け抜けた仲間達、
そして あたいがこの手に抱いた数々のお宝達が、
冷たい石畳を踏みしめ歩くあたいの心の中に浮かんでは消え、
消えてはまた浮かぶ。
あたいがこの世界に生まれてから、もう随分長い時が流れた。
時代は変わり、世界は変わり、住む人々が変わっても、
あたいは変わらずにこの街を生きてきた。
人様が汗水流して築き上げたモノを一瞬のうちに奪い去る、
薄汚い泥棒として。
盗み...
その行為の是非なんてあたいにゃわからない。
ただ一つ言えること、
それは、
殺人者も盗賊も存在できるこの世界...
怒りや憎しみ、
そういったピュアな感情に心を大きく打ち震わせることが出来るフェルッカを、
あたいはたまらなく愛しているってコト
ただそれだけ。
王都ブリテイン。
あたいはこの街で数え切れないほどの悪事を働いてきた。
奪われているのはあの日のあたいなのかもしれない。
そう思いながら、それでもあたいは盗む。
あたいがあたいらしくあるために。
あたいはネガティブ行為に魅せられた薄汚い略奪者。
そうさ、あたいは盗賊。
犯した罪と後悔と、そして多くの矛盾を抱えながら、
あたいは王都ブリテインを駆け抜ける。
今日も、そしてこれからも。
いつかこの世界が終わるその時まで、
物語は 続くんだ。
FIN