ディープ・インパクト
2008年2月24日。
日曜出勤へ向かうつもりの彼は、
ベッドから出てシャワーを浴びながら、
ひげを刈っていた。
昨年のテニス部の夏合宿の前に、
シーズーとの髪切りマッチ用に買ったバリカンが、
ひげの刈り込みにも重宝していた。
防水仕様なので、髪を刈るのもバスルームだし、
シャワーを浴びながら鏡を見て、
ひげを刈ったりもしていた。
鼻下辺りのひげをやるため、
バリカンのアタッチメントを外し、
彼は直刃で鼻をのばし、刃をあてていた。
直刃でも、水平な角度なら、
肌を傷つけることもない。
くちびるの下にあるひげを刈るため、
彼はバリカンの刃先をあごの少し上にあて、
ひげを根元からえぐり取るように、
バリカンを押しあてて刈り上げた。
瞬間。
ツルッ。
(ンッ!)
彼の濡れた右手がすべり、
その指先からバリカンが弾け飛んだ。
とっさに、彼は手を出した。
宙に浮いたバリカンを払い除けようと。
あわよくばキャッチしようと。
しかし、刃先で指をケガしたら、
という怖さから、彼はうまく止められず、
手のひらの根元、中途半端な座標に、
バリカンの胴が辺り、クルッと跳ねた。
まずい、落ちる…。
落ちると、下にはてぃんこがあり、
さらに下には足の指がある。
そんなところに刃先の直撃を食らうのは、
あまりに痛そうで、イヤだ。
とっさに彼は腹を突き出した。
落ちてくるバリカンを腹トラップで押し、
身体から遠いところに落とそうと思ったようだ。
しかし、彼のもくろみとは裏腹に、
突き出した腹は、バリカンにギリ届かなかった。
そして、バリカンの刃先が重力に導かれる先には…。
ジャクッ。
「ホゥォアチャーッ!」
彼の絶叫の中、バリカンの刃先は、
彼のてぃん毛の一部を刈り取り、
てぃんこの根元、右寄りに突き刺さって、
一部の皮膚と肉をえぐり取り、
床に落ちていった。
バリカンが手をすべり抜けてからここまで、
ほんの、コンマ何秒のできごと。
「ッ…」
刃がえぐり取っていった根元には、
魚肉ソーセージの如き白ピンクの肉がのぞき、
その1センチ弱のピンクの傷口は、
茶褐色の皮膚とコントラストを見せていた。
しばらくして血がにじみ出し、
やがてピンク色の肉が見えなくなるほど、
血は溢れてきて、排水溝の辺りを赤く滲ませた。
「ツゥ…」
痛いが、最初にとっさに口にした、
「ホゥォアチャーッ!」
が、なぜそれだったのか無性におかしくなり、
また、てぃんこと足は守ろうと思いながら、
なぜ腹は突き出せたのか、
自分の選択のセンスに無性に腹がたち、
何ともいえない感情のまま、
彼はバスタオルを手に取り患部に押さえつけ、
流れたままのシャワーの下に、
しばらく、うずくまっていた。
幸い、傷の面積はさておき、
深さはそれほどでもないらしい。
これなら、無意識のうちにポロリと落とし、
交番に届けられる心配も、
犬に食われる心配も、
どうやら、なさそうだ…。
尿道が下側でよかった。
上側だったら、尿道に穴開いてたよな、
そうしたら、おしっこのとき、
どんな“Y”放物線を描いていたんだろう…。
いや、“ト”、いや“h”か…?
などと、生物の進化の過程に感謝しつつ、
その進化に追いつけていないような自分に、
複雑な思いをめぐらせつつ、
風呂を上がった彼はてぃんこにガーゼを巻き、
マラソンのときのテーピングを巻き、
身仕度を整えて出かけて行った…。
日曜出勤へ向かうつもりの彼は、
ベッドから出てシャワーを浴びながら、
ひげを刈っていた。
昨年のテニス部の夏合宿の前に、
シーズーとの髪切りマッチ用に買ったバリカンが、
ひげの刈り込みにも重宝していた。
防水仕様なので、髪を刈るのもバスルームだし、
シャワーを浴びながら鏡を見て、
ひげを刈ったりもしていた。
鼻下辺りのひげをやるため、
バリカンのアタッチメントを外し、
彼は直刃で鼻をのばし、刃をあてていた。
直刃でも、水平な角度なら、
肌を傷つけることもない。
くちびるの下にあるひげを刈るため、
彼はバリカンの刃先をあごの少し上にあて、
ひげを根元からえぐり取るように、
バリカンを押しあてて刈り上げた。
瞬間。
ツルッ。
(ンッ!)
彼の濡れた右手がすべり、
その指先からバリカンが弾け飛んだ。
とっさに、彼は手を出した。
宙に浮いたバリカンを払い除けようと。
あわよくばキャッチしようと。
しかし、刃先で指をケガしたら、
という怖さから、彼はうまく止められず、
手のひらの根元、中途半端な座標に、
バリカンの胴が辺り、クルッと跳ねた。
まずい、落ちる…。
落ちると、下にはてぃんこがあり、
さらに下には足の指がある。
そんなところに刃先の直撃を食らうのは、
あまりに痛そうで、イヤだ。
とっさに彼は腹を突き出した。
落ちてくるバリカンを腹トラップで押し、
身体から遠いところに落とそうと思ったようだ。
しかし、彼のもくろみとは裏腹に、
突き出した腹は、バリカンにギリ届かなかった。
そして、バリカンの刃先が重力に導かれる先には…。
ジャクッ。
「ホゥォアチャーッ!」
彼の絶叫の中、バリカンの刃先は、
彼のてぃん毛の一部を刈り取り、
てぃんこの根元、右寄りに突き刺さって、
一部の皮膚と肉をえぐり取り、
床に落ちていった。
バリカンが手をすべり抜けてからここまで、
ほんの、コンマ何秒のできごと。
「ッ…」
刃がえぐり取っていった根元には、
魚肉ソーセージの如き白ピンクの肉がのぞき、
その1センチ弱のピンクの傷口は、
茶褐色の皮膚とコントラストを見せていた。
しばらくして血がにじみ出し、
やがてピンク色の肉が見えなくなるほど、
血は溢れてきて、排水溝の辺りを赤く滲ませた。
「ツゥ…」
痛いが、最初にとっさに口にした、
「ホゥォアチャーッ!」
が、なぜそれだったのか無性におかしくなり、
また、てぃんこと足は守ろうと思いながら、
なぜ腹は突き出せたのか、
自分の選択のセンスに無性に腹がたち、
何ともいえない感情のまま、
彼はバスタオルを手に取り患部に押さえつけ、
流れたままのシャワーの下に、
しばらく、うずくまっていた。
幸い、傷の面積はさておき、
深さはそれほどでもないらしい。
これなら、無意識のうちにポロリと落とし、
交番に届けられる心配も、
犬に食われる心配も、
どうやら、なさそうだ…。
尿道が下側でよかった。
上側だったら、尿道に穴開いてたよな、
そうしたら、おしっこのとき、
どんな“Y”放物線を描いていたんだろう…。
いや、“ト”、いや“h”か…?
などと、生物の進化の過程に感謝しつつ、
その進化に追いつけていないような自分に、
複雑な思いをめぐらせつつ、
風呂を上がった彼はてぃんこにガーゼを巻き、
マラソンのときのテーピングを巻き、
身仕度を整えて出かけて行った…。
