
腹痛
急を要するお腹の病気 ― 外科的腹痛を中心に― 徳村弘実 質問
腹部消化器の働きは生命の根本的な営みであり、清潔でない食物を口から食べこれを受け入れ消化吸収する。残った老廃物を胆汁などとともに腸内細菌を無限に含んだ便として排泄する。
本来無菌的な体を維持するため、汚い食物との最前線で消化吸収しながら細菌や異物の進入を防ぐという難しい、免疫学的活動をしている。したがって一旦これに故障を起こせばさまざまな症状や病気をきたすことは想像に難くない。
病気が引き起こす症状の中で消化器症状が多いもこのためである。さて腹部症状には腹痛、嘔気・嘔吐、下痢、便秘、腹部膨満や腫瘤触知などがあるが、なかでも最も重要なのは腹痛である。腹痛は救急外来の5 0 % の症状を占めるとされる。とくに急性腹症は急激に起こる強い腹痛を主訴とする腹部疾患の総称で、短時間に症状が増悪し、救命のため開腹手術を余儀なくされることが少なくない。したがって急性腹症かどうかの診断が腹痛患者を診たときの一番のポイントになる。
今回、われわれ消化器外科医がどのようなことを考えて腹痛患者さんを診て診断し治療していくかということを少しでもご理解いただければ幸甚です。腹痛から診断するには、問診と触診がとくに大事である。まず問診であるが、痛みの性状はどうか、痛みの起こり方、経過はどうか、特徴的な体位をしているか、痛みの発生と食事との関係、既往歴、特に開腹手術の既往はあるのか、女性の場合は月経の状態を聞く。また、高血圧や心疾患など基礎疾患はないのか、常用薬剤はないのか、そして便秘、下痢、嘔吐、血尿、黄疸などの随伴症状の有無を詳細に聞き出せば検査をほとんどせずに診断可能なことが少なくない。尿管結石、胆石症、急性虫垂炎などで以前に同じ症状の経験があったときは診断は用意となる。開腹手術の既往は詳細に聞く必要があり、腸閉塞、腸狭窄の診断に大きく近づく。また、痛みの起こり方、たとえば青天の霹靂のような突然発症した腹痛は血管性疾患( 腹部大動脈瘤破裂、上腸間膜動脈血栓症など) 、臓器破裂、消化管穿孔を考えなければならない。
視診では腹部膨満や手術瘢痕があるか、そして鼠径部に膨隆があるかを必ず観察する。そけい部とくに大腿ヘルニアの嵌頓は緊急手術の対象となるからである。触診は、圧痛の部位の確認を腹部全体くまなく行う。圧痛の最強点を探し出し、その場所で反動痛( B l u m b e r g 症状) や筋性防御( デファンス) の有無を確認する。もちろん両者は腹膜炎を示す重要なサインになるからである。直腸視診はダグラス窩の視診により骨盤内炎症が診断できる重要な所見がえられうことも忘れてはならない。聴診では腸雑音の聴取によって腸閉塞が疑われたとき腸管麻痺と腸狭窄の鑑別の手助けとなる。急性腹症でない腹痛の特徴としては、腹部の真ん中の痛み、痛みが間欠的である、部位が特定できない、筋性防御反応がない、慢性に繰り返す腹痛であることが多い。検査としては、検尿一般( 尿アミラーゼも)
、一般血、生化学検査( AST:G O T , ALT:G P T , L D H , γ G T P , C P K , アミラーゼ) 、腹部X - p ( 立位、臥位) 、胸部X - p 、心電図、腹部エコー、腹部C T が挙げられるが、全身状態が不良なときは必要な検査を最小限行うことも注意する必要がある。腹痛の部位による頻度の高い疾患を上げてみる。まず心窩部痛では、急性虫垂炎初発時、胃十二指腸潰瘍、胃十二指腸潰瘍穿孔、腸間膜動脈血栓症、急性膵炎初期、胆石発作・急性胆嚢炎がある。右季肋部痛では胆石、胆嚢炎、十二指腸潰瘍、肝炎、肝膿瘍、急性膵炎、慢性膵炎、帯状疱疹、肝周囲炎がある。ここで急性胆嚢炎を取り上げると、症状としては上腹部痛( 心窩部痛か右季肋部痛で、背部に放散する痛みであることも多い) で激痛であることも鈍痛であることもある。発熱、白血球増多を伴う。発熱が3 8 度以上、白血球数が1 5 0 0 0 以上のときは重症の壊疽性胆嚢炎が疑われ緊急な対応を要する。われわれはこれに対して早期腹腔鏡下胆嚢摘出術を行い良好な成績を上げている。早いほど、良い。しかし全身状態不良例では経皮経肝胆嚢ドレナージが第一選択となる。黄疸の合併は総胆管結石の可能性が高い。左季肋部痛では急性腹症として胃穿孔、横隔膜下膿瘍、脾破裂がある。膵臓疾患としては急性膵炎、慢性膵炎、膵癌がある。急性膵炎は膵酵素が膵間質内に逸脱し、膵組織を自己消化して膵炎が発生する。浮腫性の軽症のものから、出血壊死に陥り、膵が化膿する重症のものまでいろいろな状態がある。重症膵炎は致命的になりかねないことを念頭に診療にあたる必要がある。
右側腹部痛としては右尿管結石、腎盂腎炎、大腸炎、虫垂炎がある。臍部痛には臍ヘルニア、M e c k e l 憩室炎、小腸疾患として炎症、閉塞、腫瘍が、左側腹部痛には尿路結石、腎盂腎炎、大腸炎( 薬剤性が多い) が多い。回盲部痛はお腹の病気の巣窟みないたところで、上行結腸癌、回盲部狭窄、C r o h n 病、右尿管結石、付属器炎、大腸憩室炎、急性大腸炎、急性腹症としては急性虫垂炎、右大腿ヘルニア嵌頓、卵巣嚢腫茎捻転、子宮外妊娠、卵巣出血、腸重積、腸間膜リンパ節炎がある。
急性虫垂炎は、その診断には痛みの部位としてはじめ上腹部腹部症状の最も重要なのは腹痛である。痛で次第に右下腹部痛となり、炎症の進行とともに下腹部全体の痛みとなることがある。近年虫垂炎はカタル性のものは保存的に治療する方向になっている。なぜなら腸閉塞の一番の原因は虫垂切除術が最も多いからである。また、抗生物質の進歩により内科的に治ることも多くなった。しかし、かといって成功性や壊疽性虫垂炎を見逃すことが依然として危険で少しでも腹膜炎合併の可能性が疑われるときは超音波検査そしてC T をとる必要が出てくる。
左下腹部痛では単純な便秘とくに小児では便秘、急性腸炎、自家中毒がある。急性腹症にはS 状結腸軸捻転、子宮外妊娠卵巣嚢腫茎捻転、大腿ヘルニア嵌頓を覚えておく。下腹部痛には膀胱炎、付属器炎、卵巣出血、潰瘍性大腸炎があり、急性腹症としては流早産、卵巣嚢腫茎捻転、骨盤腹膜炎がある。腹部全体に痛みがあるときは急性のときは穿孔性腹膜炎、急性腹膜炎、腸閉塞が、数日の経過のときは急性虫垂炎穿孔、急性膵炎、腹部大動脈瘤破裂、比較的慢性の痛みでは癌性腹膜炎、結核性腹膜炎がある。最近増加している重篤な疾患として腸間膜動脈塞栓症がある。腸閉塞には内科的治療が優先される単純性、腸管の血流障害を来たし緊急手術が必要な複雑性の鑑別が重要である。癌性のとくに大腸癌の腸閉塞は普通を訴えることが多くないことも特徴である。胃十二指腸潰瘍穿孔による腹膜炎腹腔鏡下大網充填術は潰瘍治療がヘリコバクターピロリ菌の除菌により完治するようになった今日、胃十二指腸に障害を与えないで腹膜炎治療をする手術であり、低侵襲で良好な結果が得られている。最後に急性腹症の診療のポイントを上げる。まず、全身管理( 救命) を行う。腹痛などの症状が強いときは症状のコントロールした後、確定診断をつけ手術適応の診断を行う。
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腹部症状の最も重要なのは腹痛である
以下は胆嚢炎についての文献です。
【胆道炎・胆道癌診療ガイドラインを検証する】 胆道炎ガイドラインの注目点 急性胆嚢炎に対する早期の腹腔鏡下胆嚢摘出術は推奨されるか 実地臨床と診療ガイドラインからみて:徳村 弘実, 松村 直樹, 安本 明浩, ほか: 肝・胆・膵 58:49-56,2009
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| 消化器(肝・胆・膵) 紹介 胆石症・急性胆嚢炎:徳村 弘実: 治療 92:940-94、2010 |
| 急性胆嚢炎に対する経皮経肝胆嚢ドレナージ施行後の腹腔鏡下胆嚢摘出術の検討(原著):徳村 弘実ほか: 日本内視鏡外科学会雑誌 11:381-387、2006 |
| 徳村弘実、鹿郷昌之、原田信彦、ほか:急性胆嚢炎に対する腹腔鏡下胆嚢摘出術−早期手術、待機手術とPTGBDの比較−:消化器内視鏡14:1064−1069、2002 |
| 徳村 弘実,鹿郷 昌之,原田 伸彦,ほか:胆嚢結石症における開腹胆嚢摘出術の適応:胆と膵Vol.24(8);577-581,2003 |
| 徳村弘実、安田篤、梅澤昭子、他:急性胆嚢炎に対する腹腔鏡下胆嚢摘出術の手術成績と手術時期.日腹救医会誌18:245-250,1998
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| 徳村弘実、鹿郷昌之、原田信彦、ほか:急性胆嚢炎に対する腹腔鏡下胆嚢摘出術−早期手術、待機手術とPTGBDの比較−:消化器内視鏡14:1064−1069、2002 |