夏を間近にしてやや肌寒い日のこと、普段から親しくしている女友達から一本の電話があった。「彼氏とうまくいっていない、話を聞いて欲しい」とのことだった。数少ない友達のうちのひとり、ましてや女の子となれば片手で数える程しかいないのだ。話を聞かないわけにはいかない。しかしこの子、問題アリなのだ。
 寝癖もそのままに待ち合わせ場所に着くと、既に彼女は紅茶を頼んで座っていた。減り具合からして15分ほど待たせた模様。「遅いよ」、と俺に向かって言う彼女に、少し「ん?」と思いつつも軽く謝っておいた。俺もミルクティーを頼むとさっそく本題の話を始めた。
   「もう付き合って…ヶ月になるんだけどぉ」、
   「別に嫌いになったわけじゃなくてぇ…」、
   「でもやっぱり違うなって思ったのね」

どのくらいの時間が過ぎたのか、俺に紅茶を飲む暇すら与えない彼女の口の達者なこと…既にミルクはティーの下敷きになっていることだろう。
ようやく彼女の話が一段落すると俺は、なるほど彼氏がかわいそうだという解釈をしていた。話をまとめるとこうだ。

一、彼女の誕生日には、バラを年の数引くことの3本をプレゼントしなければならな   い。
一、割り勘はもってのほか。
一、トイレの時も、入り口付近で待たせている。(ハンカチは男のを使う)

たいしたものだ、彼氏をここまで利用できる女は昼ドラでしか見たことがない。まぁそこは友達と言えど他人事として笑って済ませることができるのだが。さらに彼女はこんなことを言い出した。「私がフラれたって他の人に思われてたらどうしよう」。どうやら彼女の辞書には『フラれる』という文字はないらしい。彼氏の傷心よりも自分の評価の方が大事な訳ね。
そして物語は終盤にさしかかる。

「他にいいひといないかな〜」、
「さぁ、いたら紹介するね」
「うん、お願いね」

『飽きたら次へ』がこういうタイプの女のパターンとはよく聞く。もちろん紹介する気はない、俺の数少ない友達を虎穴に放り込むようなものだ。骨の髄までしゃぶられて他の男を探すエネルギー源となるのだ。早く帰りたい、早く退散しなければ…と思っていた矢先に彼女はこう言った。

「SUKI」

ん?んんんんんんんんん??


「・・・・・」


…よし、理解完了
そしてやばい、次の標的は俺なのかまさか。すると次の瞬間また一言。

「とりあえずキスしよう」

え、既にオーケーを出されたつもりでいるのか、というか男なら誰でもいいのか。しまった、さっきもっと厳しく非難すべきだった。わかっていない、こいつはなにもわかっていないんだ。しかしとりあえずってことはその次は……
ドキドキ…いやいや、有り得ん。そもそも子供の頃チヤホヤされていたんだろう、甘やかしてわがままを通してきた結果、更に被害者を生むことになるのだ、そしてまた一人狙われた子羊はこの俺だ。彼女を止めろ、さぁ言え、勇気を出すんだ。おい、ここで彼女の暴走をとめなきゃ誰がやるんだ。今だ、言え、よし、言うぞ!

「あのさぁおまえ…」その瞬間ふとある言葉が頭をよぎる。

『こいつの辞書に「フラれる」という文字はない』
そうか、一本とられた。どうやら付き合わないわけにはいかないようだ。
なるほど、有無を言わせぬ何かがある。こいつのことを魔性と呼ぶのか。




魔性

@〜坂〜 A〜魔性〜