直線上に配置

@〜坂〜 A〜魔性〜

 広い割に、人気のない道路の脇をカップルが、二人乗りをしている。
高校二年だろうか、まだ初々しさの残るブレザーの着こなしが、私をそう判断させた。彼らは自転車をピンク色のワゴン車の傍に止めた。ワゴン車からぬっと顔を出したおじさんから揚げパンを二つ、受け取ると、一つを連れの女の子に手渡した。女の子は何とかお礼をしようとするが、男は何も答えない。女の子に座るよう促すと、また自転車をこぎ始めた。始めはグラグラと頼りなく、途中からはきれいな直線を描いていた。
 すると自転車は道をはずれ、坂へとさしかかった。長い長い上り坂である。この坂はその急さと長さから、地元の少年たちからは、『ガクガク坂』と恐れられている程であった。男は更に過酷な条件で、挑もうとしているのであった。
 男は、女の子に疲れを悟られまいとして、絶えず話しかけ続ける。女の子は息が上がっていることに気づいているのだろう、ただ「うん・・・」と相槌を打つだけ。そんな気遣いも静かな空間を出すのに一役買っていた。彼の、ただでさえふらついている横を、煌びやかなスポーツカーが追い抜く度に、二人を乗せる錆付いた自転車は左右に大きくぐらついた。そしてまたその度に、 二人とも無口になってしまう。男は苦笑いを浮かべつつ、またくだらない話に力を入れる。そんな時はさも興味深そうに耳を傾けるのであった。
 坂道を八分ほど来た頃には、男の足は既にガクガクだった。男は話しかける余裕もなくしてしまっていた。女の子は、そんな男の、息遣いと汗だけが全てであった。
 私はちょうど15年前の自分の姿を思い出していた。そして私もまた、ラクラクと彼らの自転車を追い抜き、坂を越えた先にある桜の木の下で彼らを待ってみることにした。

                (神奈川県在住 PNわんちゃん)

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