ベン・トー 1巻
(集英社スーパーダッシュ文庫 アサウラ)
さて、俺は今から諸君らに一つの質問を投げかけたい。極めて単純な問いかけだ。今から俺は二つの答えを用意する。そのどちらか選んだ一つは無条件に手に入り、そしてその代償にもう片方は絶対に手に入らない。ただそれだけの簡単すぎる質問。では諸君、用意はいいか? 次の二つの答えのうち、諸君らはどちらを選び、そしてどちらを捨てる------
A.得すること
B.面白いこと
-------以下の文章は俺と同じ答えを選んだ人だけに付き合ってもらいたい。俺と違う答えを選んだ人、あるいは「お前がどっちを選んだのか分かるわけ無いじゃん」というとても当たり前の……ただそれだけの答えを選んだ人は付いてくるな、とは言わないが、多分読み進めても何の旨味もないと思う。では、野郎ども、付いてこい! 面白いことしようぜ!!
〜あらすじ紹介〜
閉店間際のスーパーを訪れた主人公・佐藤洋はわけもわからないまま凄まじい戦いに巻き込まれてしまう。
それは《狼》と呼ばれし者たちによる、毎夜行われる夕食と誇りを懸けた半額弁当を求める争奪戦であった。
佐藤はひょんなことからハーフプライサー同好会という半額弁当を求めるためだけに存在する部活に所属することになり、先輩の槍水仙、そして同級生の白粉花と共に《狼》となってスーパーを駆け始める。
言ってしまえば半額弁当の争奪戦である。遊びである。学生同士の諍いである。ただそれだけの、取るに足らない、出来事。だが、取るに足らないからつまんねぇ、なんて誰が決めた? って感じだろうか。「何に」夢中になるかということよりも、「どれだけ」夢中になるかということの方がよっぽど大事だろう。例えそれが冷えた半額弁当だったとしても。そこには出会いがあり、バトルがあり、ドラマがあり、成長があり、ラブコメがある。しかもそれに加えて、何と半額弁当まであるのだ。これ以上一体何が必要だというのだ?(……色々必要だと思うぞ)。結局本作の肝というか一番の主張は次の一言に集約されるのではないだろうか。
「姑息な勝利より胸張れる敗北を選ぶ。それがこの領域に生きる者だ」
きゃーーーっっ!! 何この中二病全開の台詞! 思わず「イエッサ!!」とか絶叫しながら突撃しちゃいますわよ、奥様ーーーっ!! という感じの人間は本作を読んだ方がいいと思う。
とりあえず主人公の恋敵?たる白梅(しらうめ)の理不尽さは異常。蝶異常。どれくらい理不尽かというと天災級に理不尽。しかも特定の人物を正確かつ迅速にストーキング&スナイプしてくるので、ある意味天災よりも厄介。例えるならホーミング機能を実装した落雷みたいなもので。一応ヒロインであろう白粉(おしろい)に関しては、主人公の一言が上手く言い表していると思う-----「ええ、まぁ、大丈夫ですよ。頭以外は」------あまりに適切すぎて脱帽だぜ。他人様の創作活動に口を挟むのは御法度かも知れんが、『筋肉刑事(マッスルデカ)』シリーズはお蔵入りにした方がいいと思うぞ。主人公の先輩であり、この世界への導き手である槍水仙(やりずい
せん)もなかなかに強烈。『氷結の魔女』の異名を持つこの世界きっての”狼”であり、いわゆる綾波系に類する魅力を有しているのだが。争奪戦以外では人に手を上げたことがないと主張する仙に、入部騒ぎで白粉に一発撃ち込んでるじゃんという主人公のツッコミに答えて曰く。
槍水仙「あれはフックだ。手を上げてはいない」
先輩、その理屈だと手刀(古流空手)、鉄槌(同)、降ろし打ち(日本拳法)以外の攻撃は手を上げていないことになってしまいます! その他にもなかなか困った-----魅力的な人物が登場しており、読者を飽きさせない。
ただ、ネーミングセンスがイマイチなところとか、ちょっとネタがブラック過ぎるところとか、色々難点があるのも事実。個人的にはもう少し文章の贅肉を落とした方がいいのではないかと思う。何て言うか、文章的にもシナリオ的にも演出的にも脱線しすぎてるような気がする。もう少し本題(主題)や主要人物に絞り込んで掘り下げた方がより魅力的になるのではないか、と思えるのだ。本筋とはほとんど関係ない話題が唐突に割り込んでくると、それが”ノイズ”に感じられて没入感を削いでるように感じてしまう。もっともこういったコメディ系での脱線はスパイスみたいなものなので、完全にそぎ落としてしまうと味わいが浅くなってしまうので、匙加減次第だとは思うが。狼たちの半額弁当に対するこだわりや、戦闘描写、微妙な三角関係などにもっと紙面を割けばより面白くなると思えるだけにもったいないんじゃ無かろうか。
では、ここまで付き合ってくれた諸君。これから夕餉と洒落込もうじゃないか。なに、メニューはよりどりみどりだ。氷結の魔女、魔導士猟犬部隊(吠える孤狼(至高のサバ味噌弁当。楽しい美味(