天上人は神の国の夢を見るか2
〜『天上人のジレンマ』〜



 『ダブルオー』第十三話のメメントモリ攻略戦について思うところがあったので、あれこれ書いてみました。なんだか擁護っぽくなってますが、それは本作が好きな人間の身贔屓ということで聞き流してやってくだされば幸いです。三章仕立てでどうぞ。




第一章「モビルスーツの性能の違いが戦力の決定的差であると言うことを教えてやる」
 これがダブルオーの基本的なスタンスではないかと思う。個人的にはね、性能の差を技術で補う展開って大好きなのよ。
何しろ自分は『エリア88』大好き人間なので。性能が同等以下の機体で、戦力的に劣る相手を打ち破る展開に燃えるのは男児の基本だと思う。


 だけど、『ダブルオー』それを真っ向否定している。言ってしまえば戦闘の勝敗を決める要素として「機体の性能」が「パイロットの技量」より上に設定されているのだ。それは第一期、第二期を通してブレがない本作の特徴だと思う。そしてそれは恐らく正しい(面白いかどうかはともかくとして)。

 例として空戦を挙げるなら、第二次世界大戦時に名を轟かせたエースパイロットが現代航空戦においてF4ファントムに乗って、F-22ラプターの大編隊に単機で挑んで圧倒的な勝利を収められるかと言ったら……まず無理だろう。状況やあるいは幸運次第で勝つことがあるかも知れないが、大局的に見れば必ず負ける。
兵器の性能が向上すればするほど、人間の能力が介入する余地は減少してく。人間の能力は簡単に2倍や3倍に増大したりはしないが、兵器の性能は十倍二十倍になることも珍しくない。人間の進歩速度と兵器の進化速度の間には圧倒的なまでの開きがあり、しかもその距離は(科学の進歩にともなって)加速度的に開いていくのだ。『戦闘妖精 雪風』などに代表されるように、最終的には人間が不要な無人兵器の方が効率的になることも珍しくない。


 実は本作でも同様のエピソードが第一期で描かれている。第15話『折れた翼』。手を結んだ三大大国の圧倒的物量による消耗戦に、遂にガンダムマイスターたちが屈する話である。この戦いを見れば分かるが、これだけ圧倒的な戦力とぶつかってもガンダムは全く無傷であり、そして永久機関の太陽炉のお陰でエネルギー的にも全く問題がない。そう、
無敵のガンダムの敗因はパイロット(人間)の限界なのである。逆に言うならパイロットがハロだったら……というのはさすがにあれなので、ヴェーダ辺りが無人機として操作していたならガンダムチームは勝利していたのだ。いや、世界中の全戦力を相手にしても何の問題も無く勝っていただろう。なぜなら有人機たる三大大国の大軍団方が先に”疲弊”するだろうから。

 つまりはソレスタル・ビーイングにおいてガンダムマイスターと呼ばれるパイロットの価値はその程度なのである。技量的に優れていなくてもいい----
ぶっちゃけるならド素人でも構わないくらいである。むしろ必要とされるのは組織(理念)に対する忠誠心であろう。ダブルオー世界では大きすぎる機体性能差を人の力で覆すことは基本的に不可能なのだ。




第二章「勝てば官軍 負ければテロリスト」
 いきなりでなんだが
ソレスタル・ビーイングの基本戦術は反則(チート)である。これはもう絶対的な大前提と言い切ってさえいいと思う。考えるまでもない、戦力差が絶対的すぎるのだ。あまり詳しくない人間が例えるのもどうかと思うが将棋でいうなら、片や王将以外に四つの駒だけで、片や全部の駒+持ち駒無制限で対局をするようなものだ。技量とか頭脳とかそんなレベルでどうにかできる状況ではないことが良く分かると思う。

 だからソレスタル・ビーイングは反則技を前提にして初めて成り立つ組織だ。第一期のチートとしかいいようがない性能差、第二期のトランザム濫用。どちらも必然である。くどいようだがこの条件を前提として、初めてソレスタル・ビーイングの作戦は成り立つのだから。先の将棋の例で言うなら、
持ち駒は四つだけど二回行動が可能、という感じで。そんな反則を持ち込んで初めて喧嘩になる状況ではないかと思う。つまりダブルオー世界においては同じ条件下で少数が多数と戦えば、基本的に勝つことなどあり得ないということなのだ。

 そういう意味ではトランザム導入のタイミングは、自分は絶妙の時期だったと思っている。圧倒的なガンダムの性能差によるアドバンテージがなくなった段階で新しいアドバンテージを与えなければ、
ソレスタル・ビーイングなど中二病患者の弱小テロリストに過ぎないのだから。もちろんご都合主義の可能性も決して低くはないと思うが、結果オーライ(笑)。




第三章「たった一つのさえたやり方」
 だから長々と書いてきた果てに結論を出すなら、
ソレスタル・ビーイングが勝利を得るためには反則(チート)を最大限に生かす以外の選択肢がないということになると思う。彼らのアドバンテージはその一点しかないのだから。実際、スメラギの戦術は笑っちゃうくらいその反則活用に徹している。これも第一期、第二期を通してブレがない(もっとも第一期のスメラギはちょっと間抜けだけど。飲み過ぎか?)。

 故にメメントモリ攻略戦において「トランザムでごり押ししている」「力押しだ」「他に芸がない」という批判をするなら、それは的外れであるとしか言いようがない。
反則(トランザム)でごり押しする意外にどんな戦術があるのだろうか?(実際にはごり押しですらなくて、ギリギリ綱渡りのような作戦ではあったが)。「トランザムを使うな」という人は、ならば代わりの作戦を立案してみて欲しい。実際自分も考えては見たが、正直言って有効な手段は思いつかなかった。せいぜい、ケルディムの超長距離狙撃能力を生かして遠距離攻撃ぐらいしか思いつかない。セラヴィーにしろアリオスにしろ、ジンクスやアヘッドを十機以上同時に相手にしたらなぶり殺しになる運命なのだから、正面からがっぷり四つに組むなど論外。奇策以外に手はなく、選択肢などほとんど無い。「トランザム濫用はつまらない」という意見は一理あると思うが、実際問題トランザムを使わなかったらなんにもできないよ? いやマジで。それくらい圧倒的な戦力差があるんだから。ツインドライヴも使い方次第では打開策になりそうだけど、これも別の意味で反則だからなあ。


 もちろんそんなデジタルな戦術論だけじゃ面白味がないので、ブシドーやぎっちょんみたいな性能差さえ補ってしまいそうな凄腕パイロットを出したり、マネキン大佐のように戦術面で優れた相手を出したりしてフォローはしているとは思う。

 でも、こうしてみるとスメラギって戦術予報士としては結構不運なのかも。
彼女が優れた戦術家であればあるほど、機体の特殊性能(トランザム、ツインドライヴ)に頼らなければ勝ち目がない戦力差であることが見えてきちゃうだろうから。それこそ黒髪の魔術師じゃないけど、互角の戦力を用意できなかった段階で戦略的に負けてるようなものだよね。戦略的敗北を戦術的勝利で取り戻そうとするのは至難の業であり、逆に戦略的に勝利を得ていれば戦術的敗北は大勢に影響を与えない。初めてちょっとだけスメラギに同情したかも。


おしまひ


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