地球防衛軍SS 〜双頭の鷹 双翼の虎〜
後編『反撃』



 それは遙かなる大宇宙の果てと呼べばいいのか。
 それとも多次元宇宙の中心領域とでも呼べばいいのか。
 無数の世界が交わりながらも、完全に重なり合わない重層確率領域の融合点で”彼ら”は会合を繰り広げていた。

 ”今回の干渉は明らかに協定違反である”

 ”我らはヒューマン、彼らはインセクター。あくまでルールを守っているつもりか。小賢しい”


 そこには圧倒的な質量があった。
 圧倒的な年月。圧倒的な思念。圧倒的な存在密度。
 人類をすら遙かに凌駕するその”存在”を例えるのに最も近い言葉を使うとするなら『神』という概念になるのだろうか。

 ”我らの走狗たるイレギュラー・ポテンシャルは、あくまで潜在可能性としての干渉兵器。物理実現レベルでの干渉は規定違反であろうに”

 ”所詮奴ら(アウターロード)は理の外たる存在。真の法則を理解することの叶わぬ異質ども”

 ”ならば我らの真理で駆逐すべきではないか”


 だが、彼らが神々だというのなら何故ここまで好戦的なのだろう。
 あるいはだからこその神々か。
 なぜなら神々の本質は闘争だからだ。
 悪魔と争い、人類と争い------神々同士で争う。

 ”協定違反には協定違反で応じればよかろう”

 圧倒的な中でも、更に圧倒的な一つが冷然と断じる。
 まるで感情の揺らぎの感じられないその声には、どんな嚇怒より憎悪より重々しい怒りが込められていた。
 感情を超え、理性を超え、知的創造力を極限まで精製した静かなる怒りの天雷。

 ”とはいえ、互いの協定拘束力をかいくぐるには時間も質量も足りませぬ”

 ”構わぬ。出来る範囲でよい。それで十分であろう”

 ”御意。現在、交接可能な平行宇宙の座標と必要エネルギーを割り出すまで、今しばしのご猶予を-------”




 もはや敗北は避けられない情勢ながら、それでも悟はその身を引き摺り勝利を目指す。

 (僕は彼に誓った。”決して奴らに家族の安心を脅かさせることはない”と。例えこの身が砕けても、その誓いだけは果たす!)

 グレネードの爆風に逆らわずダメージを最小限に抑えながら、障害物の間を転げ回り勝機を窺う。
 確実に削られていく命を完全に捨てる覚悟でなければ、もはや相打ちにさえ持ち込めないだろう。
 今や手負いの狼と化した悟は傷だらけの牙を限界まで研ぎ澄ます。
 己の五感を極限まで駆使し、勝機と死線が交錯する一瞬の見極めなければ痛撃を与えることなど覚束ない。
 恐らく勝機と死線の間には限りなくゼロに近い距離しか残っていないだろうが、その間隙こそが唯一にして最後のチャンス。
 射程がほぼ同じである以上、相手の必殺距離はこちらの必殺距離でもあるのだ。
 防御を捨てて必中に徹するなら一発くらいは返せるはず。
 その必中の一撃をどこまで必殺に近づけることが出来るのか-----それが今の悟にとっての全てなのだ。
 この窮地において極限まで射撃精度を高めるつもりなら、もはやそれ以外の全ては捨てなければならないだろう。
 爆風に痺れる耳を、閃光に眩む目を必死で研ぎ澄ましながら、悟は障害物の影から間合いを伺う。

 (例え相打ちでも、この強敵を倒さなければ人類に未来はない!)




 間合いを離すことさえままならない苦境においてなお、ヒカリは勝負を諦めてはいなかった。
 いや、正確に言うならもはや先が見えた勝負における最大戦果を目指す以外に道はなくなっていた
 ------すなわち相打ち。

 (アレには勝てない。だけどアレを生かして帰すわけにはいかない。ならばもはや道は一つですわ)

 その最後の選択肢さえお世辞にも確率が高いとは言えなかったが、他の選択肢が残されていない以上、その唯一を最大確率で突き詰める以外に道がない。
 それは命がけで戦い抜き、そして最後にヒカリの生を願った親友の期待に応えられないことを意味するのだが。

 「……ごめん、亜由美」

 激戦の中でさえ静謐な雰囲気と共に、彼女は親友の面影に詫びる。
 親友の願いに応えられない不甲斐なさを特攻で贖うのは褒められたことではないが、今は綺麗事を言っている場合ではない。
 
 (あの世でもう一度詫びるから……今は力を貸して頂戴!)

 これ以上亜由美のような犠牲者を出さないためなら、自らの命を賭けてなお死力を尽くす覚悟がヒカリにはある。
 敵の射線を回避して迂回した障害物を己が手で破壊して、敢えて視界の通らない爆炎を巻き上げると、防御シールドの出力を全開にしてヒカリは爆炎の中を突っ切る。
 一撃もらうのは覚悟の上。
 レイピアを食らえば一撃で消し炭になるのも覚悟の上。
 己の意識が途切れるまでの一瞬で、相手の命脈を絶ち斬る!




 「この一撃……届け!」

 「一緒に死んでもらいますわよ!!」

 唯一の勝機を窺っていた二人が飛び出したとき------

 領域交錯(クロスコンタクト)

 ------飛び出した二人を待っていたのは、同じような制服を着て、同じような武器を構え、同じような覚悟をその目に宿した、同じような容貌の二人だった。



次に続く


 戻る