地球防衛軍SS 〜双頭の鷹 双翼の虎〜
前編『暗雲』
鋼鉄の巨人が轟音と爆炎を伴いながら崩れ落ちる。
見上げるほどに巨大なその鋼の体躯には圧倒的な破壊力と、異星の超科学力の粋が結集されていたが、地球防衛軍が誇る超高性能スナイパーライフル『ライサンダー』の前には抗うべくもない。
自慢の制圧兵器群の遙か射程外から、重戦車の正面装甲さえ紙切れのように貫く有翼弾芯鉄鋼弾を桁外れの精度で弱点たる機体下部に集弾され撃破されていく様は、まるで鴨撃ちだ。
そこにはもうかつて猛威を振るった侵略者の面影はない。
「やったぜ! 悟(さとる)! 相変わらず凄い腕だな」
ヘルメットの通信機から聞こえる歓声と賞賛のかけ声に思わず頬をかきながら、地球防衛軍所属のスナイパー・山城悟(やましろ
さとる)は苦笑混じりに答える。
容貌こそそれなりに整っているものの、眠そうな糸目からはあまり緊張感が感じられない。
加えて青年らしからぬおっとりとした口調。
ヘルメットからはみ出した癖毛は寝癖全開だ。
このとぼけた容貌から、彼の二つ名である”鷹の目の射手(”を想像することなど常人には不可能だろう。
「みんなの援護がなかったらこんなに上手くはいきませんよ」
「お前のスナイプに助けてもらえるから、俺たちは命がけで戦えるんだぜ?」
「理由はどうあれ、命がけで戦うのは凄い事です。誰でも出来ることではありませんよ」
掛け値無しの賞賛と歓声を心地良く感じながらも、悟が驕ることはない。
実際、仲間達がダロガの足止めをしてくれていなかったら、ここまで正確に一方的に狙撃することは不可能だったろう。
もちろん陽動が無くとも、彼の腕なら単騎でダロガの軍勢を迎え撃って一歩も引くことはなかっただろうが、ここまで少ない被害で一方的に撃破するのは流石に不可能だ。
それに何より悟の過剰なまでに謙虚で控え目な性格が、仲間達の援護を何より貴いものと感じさせていた。
(みんながここまで闘ってくれているんだ。一発でも多く、一秒でも早く当てて、被害が出る前に殲滅する!)
「次、いきます。当てにしてますからね」
「その言葉、そのまま返すぜ。やっちまえ!」
「了解です」
再び繰り出される悟の狙撃は以前にも増して正確を極めていた-----
悟が己の才能に気付いたのは高校生の時だった。
それまで文武両道に秀でた能力を示しながらも、何故か満たされないものを感じていた悟にとって、射撃競技との出会いはまさに運命だったと言えるだろう。
「百年に一人の逸材だ」
「彼は歴史を変える」
「常識を越えているよ」
針の穴を通す、どころか針の先端だけを撃ち抜くと称えられた悟の狙撃能力は神業と称するに相応しかった。
理屈ではない。
視力でもない。
”分かる”のだ------そこ(に目標があり、どうやったらそれを撃ち抜けるのか、が。
銃を手に取るだけでその使い勝手や命中精度が実感できた。
自ら手入れをすることで、銃そのものをまるで己の肉体の一部のように体感することが出来た。
悟にとって銃とはもはや体の一部であり、優れた銃は素晴らしい手足なのだ。
だから彼にとって遠く離れた目標を撃ち抜くことは、自らの指で目前のコップを突く行為に等しい。
外す方が難しい(のだ。
だが、悟が周囲の無邪気な(そして無責任な)賞賛や、狙撃の喜びに浸っていられる時間は長くはなかった。
(僕のこの能力は一体何のためにあるんだろう?)
無心で的を射抜く喜びからふと目覚めると、思わず我が身を振り返り考え込んでしまう。
『目標を撃ち抜く』-----ただそれだけで何一つ生み出さない。
誰の役にも立たない、何の使い道もない、特異な才能。
成すことが出来るのは破壊のみ。
まるでそれは目標を撃ち抜く以外に何の役割も持たない銃そのもののような個性だ。
元々謙虚で自制的な性格だった悟は、己の才能の歪さを自覚すると、ますます内向的な性格に磨きをかけてしまった。
悩む必要がないほど圧倒的な能力があるのに、目的だけが、無い。
(僕は一体何の役割を果たすためにこの才能を授かったんだろう? この能力を一体何に使うべきなんだろう?)
自らの射撃能力を少しでも高める事を目的として研鑽を積んでいる他のアスリートから見れば憤懣やるかたない懊悩だが、逆に言うなら極めてしまった悟は悩むしかなかった。
彼にとって狙撃能力とは手段であって、目的ではなかったのだから。
猟銃に頼らなくても狩りが出来る現代では、猟師を志したとてその個性を十全に生かし切ることは不可能だろう。
だからといって軍隊に入隊して人を殺めるなど論外だ。
故に万が一を思って入隊した地球防衛軍で訓練中に、異星人の侵略を目の当たりにした悟の心は思わず震えた。
「これだ。僕はこの時のために生まれてきたんだ!」
それは彼にとって天啓だった。
破壊にしか役に立たない己の才能を人のために生かすことが出来る初めてのチャンス。
鍛錬に鍛練を重ねた狙撃能力と、命を賭けて共に戦ってくれる仲間という両翼を得て、若鷹は真の覚醒を迎える。
今や地球防衛軍最高のスナイパーと謳われる彼は、今大戦屈指の英雄の一人として数えられていた。
次に続く