葉桜が来た2
〜星祭りのロンド〜
(電撃文庫 夏海公司)
いきなりであるが、敢えて言わせてもらおう------本作は『読むギャルゲ』である。「おいおい、この作品をギャルゲと一緒にするんじゃないよ」「確かにラノベだけどそりゃあんまりじゃ?」などと反論したい人には、こう答えさせてもらう。(くわっ)ギャルゲを舐めるなよ? もはや最近では出来の良いギャルゲは下手な王道など遙かに凌ぐことを、少なくとも自分のHPに来る人間なら分かっているはず。本作はまさに”そういうレベルのギャルゲ”なのだ。
時は近未来。宇宙より飛来した人型種族アポストリとの抗争と講和の果てに仮初めの平和を得た日本、と書くといかにも筒井康隆辺りが書くハードSFでも始まりそうな雰囲気なのだが、その肝心のアポストリが「雌性体しかいない」「金髪紅眼の美女ばかり」「見た目が若いまま固定されている」「他種族の血を吸うことで遺伝子情報を取り込む」「銀が苦手」-----おいおいコレ何てギャルゲ? と問いたくなるようなギャルゲ設定てんこ盛り。
しかも主人公は哀しい過去を持つ完璧超人で無駄にモテまくり+ヒロインはすでに子犬状態+恋の鞘当てが必ず登場、ってもう十年前のギャルゲをプレイしているような錯覚さえ憶えてしまう。
-----だが、心せよ、諸君。古来より兵法でも言うではないか、毒を仕込むなら甘いものの中に、と。甘ったるくて心地良い設定と展開に脳のシワが溶けていく頃を狙い澄ましたかのように、猛毒が打ち込まれるわけだ。それは時に血で血を洗う苛烈な戦闘だったり、時に冷徹でリアリスティックな政治劇だったり。この落差が本作の最大の妙味と言えるのではないだろうか。例えるならタバスコをかけたイチゴショートケーキのように!…………ゴメン、間違えた。コレ、単にまずいだけだよね。ええと、気を取り直して例えるなら、見るからに甘くて美味しそうな厚焼き卵にかじりついたら、中から旨辛明太子があふれ出てきたような感じ。うん、コレならオッケーだろう。いやもう銀シャリが進む進む。この甘ったるい部分と、辛味の効いた部分のバランス感覚というか匙加減が絶妙だと思う。
また個人的感想ながら、展開に隙がない。それはもう可愛くないくらいに隙がない。端っから結末を用意してあって、そこから逆算してシナリオを組み立てて、なおかつ余裕を持たせた分でギャルゲ要素をちりばめてあるんじゃないか、と勘ぐってしまいそうなくらい隙がない。もうちょっと隙があった方が面白味が増すんじゃないかと、捻くれたことを考えてしまいそうなくらい。
一巻では若干物足りなさを感じていた政治的要素だが、今回は灯籠というナイスキャラのお陰で緊張感が増している。やっぱり政治家は冷徹じゃなくっちゃね(冷酷でも良し)。結局政治家って九人を助けるために一人を殺すか、一人を助けようとして九人を死なせるかの違いだけで、十人全て救える政治家なんていないということを良く体現しているキャラだと思う。味方全てを助けられないなら、せめて犠牲は最小限に-----確実に、迅速に殺す。一軍を率いるなら、それくらいの覚悟は欲しいところ。
そしてこういう”立った”敵役がいてこそ、一歩も引かない南方親子の凄みも増すというものだ。ちと主人公が出来過ぎな気がしないでもないが、面子やプライドよりも実利を優先する灯籠の性格を読み切った見事な一手としておこう。でも難敵を相手にここまで読み切れる割には、葉桜の心情は一ミリグラムも読めない辺り、見事なギャルゲ属性であるとしておこう。
敢えてケチを付けるとしたら、主人公の性格にもう少し幅というか厚みを持たせた方がいいんじゃないかとも思う。良くも悪くも癖が無いので、シナリオを動かすというよりはシナリオに動かされてる嫌いがあるように思える。まあ、本作ぐらいシナリオの完成度が高いと、それを超えて動くようなキャラは出しにくいし、逆に完成度を阻害する要素にもなりかねないので難しいところではあるが。
というわけで。三巻以降もこのレベルで”旨辛明太子入り厚焼き卵”を期待させてもらいたい。