-----かつて自分の家の近くに『○龍』というラーメン屋がありました。福井ではそこそこ知られたラーメン屋で、なおかつ自分にとっては初めて触れた本格的ラーメン屋でもあります。子供の頃、父親に連れて行ってもらった『○ちゃんラーメン』しか知らなかった自分にとっては、かなり衝撃的な店でした。
札幌ラーメン直系というのが売りで、非常に自分好みの味噌味、濃厚な割にくどくない上質の脂、たっぷり乗せられた美味いモヤシとタマネギ(油臭くて焦げたモヤシにヘキヘキしていた自分にとっては衝撃的なレベル)、スープがよく絡む中太縮れ麺など自分好みの要素が詰まったラーメンが大好きでした。家から近いこともあって、週1〜2回は必ず通っていました。鯖江に移転する前の会社の近くにも支店があったので、仕事帰りに同僚とよく食べに行ったりしていました。日記でお馴染みのK課長もお気に入りの店でした。そう、自分のラーメン人生を語る上においては絶対に外せない店だったのです。楽しい思い出と共に語りたい店だったのです。
しかし栄枯盛衰、諸行無常とはよく言ったもの。顔なじみだったアイヌ系顔の店長(店長スンマセン)が若いにーちゃんに変わった辺りから、この店は明らかにおかしくなってきました。自分たち古株にとって好評だったメニューが次々と姿を消し、代わりに若い世代向けと思われるイマイチなメニューが並び始めた頃はまだ我慢が出来ました。客が少ないときに繰り広げられる店内の微妙な人間関係愛憎劇もまだ割り切れました。
だけどラーメンの命と言えるスープが明らかに薄味になってきたときに、自分は見切りを付けました……見切らざるを得なくなってしまいました。多少のメニュー変更やサービス低下は仕方ありません。店にも色々事情があるのでしょう。しかしラーメン屋がラーメンの味にこだわらなくなってしまったらお終いです。もう存在価値はありません。
そして自分が通わなくなってからしばらくした頃、その店は閉店してしまいました。自分にとって忘れ得ぬ店が閉店したことを残念に思いながらも、その一方で納得している自分がいました。「ああ、あの体たらくでは仕方ないことだな」と。その店は楽しい思い出として自分の胸の奥にしまわれる-----はずでした。
torabo「-----おや? 電気が付いてるぞ」
会社帰りに久しぶりにその店の近くを通ったとき。店の看板が煌々と輝いています。誰かの悪質な悪戯か、店側の配電手配の間違いでなければでもなければ店が復活しているということです。思わず無意識の内にハンドルを切っていました。「思い出に惑わされているだけ」「一端地に墜ちたあの味が再現できるわけがない」「また失望させられるぞ」そんな内心の声を振り切るかのように。
久しぶりに入った店内は随分変わっていました。装飾がえらくシンプルになっています。というか、悪く言えば何にもありません。唯一の娯楽と言えたTVさえ無くなっているのを見ると、まるで違う店に来たみたいです(厳密に言えば違う店なのですが)。一枚紙のえらく質素なメニュー表にはやっぱり少数のメニューしか載っていません。
torabo「すみません、濃厚辛味噌ラーメンを餃子セットで」
初めての店に入ったときに、一番奇天烈なメニューを頼んでしまうのは自分の悪癖です。友人からも「初めての店に吶喊するのはいいけど、お前が変なメニューを頼むから参考にならない」とよく言われます。でもまあ、潰れる前の自分のお気に入りでしたし、様子見ということで頼んでみることにします。
店員のおばちゃん「お待たせしましたー」
なっ! 何だ、この感覚は!?……緊張している? 俺の体が緊張しているのか? 目の前のラーメンが発するプレッシャーに、俺のラーメン星人としての本能が無意識の内に警戒しているのか!? ……よかろう、ここは強者のみが生き残る修羅の国!(違います)。俺も聖帝と呼ばれた男! この強敵を食してやろうじゃないか!!
しばらくして運ばれてきた濃厚辛味噌ラーメンを目の当たりにして条件反射的に戦闘モードに移行してしまいます。かつてこの店のメニューだった濃厚辛味噌ラーメンは自分のお気に入りでした。それは正直言って普通の味噌ラーメンに生姜と唐辛子の辛味ペーストを投入しただけのものであり、メニューの一つである『ピリ辛軟骨唐揚げ』にかかってる辛味ペーストと全く同じもので、自分でも容易に再現できるものでした(二つ同時に頼んでペーストを投入するだけでいい)。
しかし今目の前に運ばれてきたブツは違います。明らかに違います。それはもう全然違います。こちらの予想を完全に上回っています。どれくらい上回っているかというと、対マジンガーZ戦を想定して万全の準備を整えたドクターヘルの前に、グレートマジンガーとゲッターロボGの夢のそろい踏みが登場して、思わずヘル涙目、くらい上回ってます。見るからに濃厚そうなスープはまさにゲッタードラゴンの赤。これくらい赤いと別にラーメン星人でなくても、普通の人でも警戒しそうですが、そこは気にしない。まずは一口味わってみます。
torabo「…………!!!!」
ブレストファイアー炸裂。最初はどうって事無いのですが、しばらくすると強烈に来ます。まるで遅効性の猛毒のようです。でも本当に美味い”辛さ”とはこういうものではないかと思うのですよ。ただ香辛料を大量に突っ込んだだけの即効性の辛さは、美味さにはつながらないのではないか、と個人的には思っています。あとはもう物も言わずにガツガツと食らうのみ。こればかりは変わらない中太縮れ麺に激辛スープがよく絡んで、また食が進むこと進むこと。
ただ一つ困ったことに汗が出るのですよ。洒落にならんくらいに。冷房の効いた部屋にもかかわらず滝のように汗が出るので、(汚い話ですみませんが)思わずどんぶりを離して食いました。ダラダラと汗を流しながらラーメン食ってる自分を見て、多分周りの人は「ヤバイ薬でも切れたんじゃないか?」と思っていたかも知れません。
そして遂に『その時』はやって来ました。死力を尽くして濃厚辛味噌ラーメンに挑んだ自分でしたが…………スープを最後まで飲みきることは出来ませんでした。「激辛系のラーメンはスープの一滴まで飲み尽くさなければ敗北である」を信条とする自分としては、完膚無きまでの惨敗です。おにょれぇえええぇ! この聖帝を一敗地に塗れさせるとは!! いや、今回ばかりは我の不覚か! 治にあり乱を忘れるとは我もまだまだ未熟!(←辛さのあまり大分テンパってる)。
しかし何でしょうねぇ。見事に敗北したというのに-------この沸々と湧き上がってくる何とも言えない感慨というか喜びは。敗北がこれほど嬉しかったのはずいぶんと久しぶりかも知れません。帰ってきた! 私は帰ってきたのだ! 驕れる地球に鉄槌を下すために!! という感じで単純に喜んでしまう私。どんな形であれ自分が好きだった店が”帰って”来てくれたのですから、これに勝る喜びはありません。早速また明日からせっせと通うことにしましょうか。いやあ、ラーメンって本当に素晴らしいですね(水野晴郎風に)。
おしまひ