本レビューは原作を貸してくださった好古真之さんに捧げたいと思います。
さてさて。当初は(失礼ながら)それほど期待をして手に取ったわけではないのですが。あまり聞いたことのない名前ですし。とにもかくにも目を通してみようと本を開いて30分後。
鈴木「こ……こいつら-----思想的な戦いに赴かんとする同志の面をしてやがる!!」
-------おいおい、どーしてくれんだ、うちの倉庫に置いてあった漢スカウターが全部爆発しちまったじゃねぇか。「教師もの」で熱い作品というと昔なら『金八先生』、最近なら『ルーキーズ』(教師ものとはちょっと違うかも)が思い浮かびますが、それらとはまた違った木訥にして鋭利な切れ味を感じる作品ですな。
お話としてはハッキリ言って地味です。別に甲子園を目指すわけでもありませんし、不良生徒を更生させるような劇的なドラマもありません。給食の話とか、学生のセックスの話とか、凄い地味です。オマケに画力もそれほど高いわけではありません。少なくとも最近の精密巧緻な絵に慣れてしまった人達には、少々粗っぽく感じるかも知れません。
鈴木「こうして数字で確認してもなお残る……この不安感はなんなんだ?」
そんな地味な絵で、地味な話題で、ここまで手に汗握らせる緊張感と展開能力は尋常じゃないと思います。人を魅せるのは表面的な画力の高さや、見栄えの良い大風呂敷ではないことを改めて再認識させてくれる良作ですよ。本作を読んでいると福本作品をイメージしてしまうのは自分だけですかね? 根本が性悪説と性善説であるという違いを除けば、人間の本音や矜持、見栄、こだわりなどを赤裸々に描き出しつつも、本当にギリギリの本気の駆け引きと覚悟で己の価値観を全うしようとしているところなどは、自分的にはかなり共通しているように感じたのですが(福本作品は必ずしも性悪説一辺倒というわけはないんですけどね)。綺麗なものも、醜いものも、どちらも一杯持っているからこその人間だと。
鈴木「それにしてもこんな話を聞いてしまって……俺は……どう裁きを付けるつもりなんだろう?」
そんでまたこの鈴木先生がなかなかに良い味出してます。いかにもありがちなその名字の如く、際だった特技や能力があるわけでもなく、見た目がイケメンなわけでもなく、生徒と殴り合って理解を深めるような体育会系でもありません。恋人との関係を悩んだり、同僚の先生と喧嘩したり、生徒を意識しすぎてしまったり。平たく言ってしまえば凡夫です。
鈴木「僕がこうして仕事にせよ全力で耳を傾け協力しようと努めているのは、あなたが被害者だからじゃない……我々が……同じ立場にいる教育者だからです!!」
だが、この凡夫は誰よりも強い!! 世界を救う勇者でもなければ、日本を改革する革命家でもない、どこにでもいる一先生に過ぎませんが、決して逃げない、諦めない! 彼を見ていると「強いから誰かを救える」わけではなく「誰かを救いたいと願うから強くなれる」のだと、しみじみ感じさせられます。
岬「みんなが許されてるなら俺だって逃げてやるっていうのは-----子供の考え……だよな」
あと、岬の漢ゲージは異常。今回はうちの倉庫だけで済みましたが、これから奴が成長を続ければ日本中の-----いや全世界中の漢スカウターが危機にさらされることになります。お前、ホントに中学生か? 冗談抜きで自分は奴に勝てる気がしません。将来成長した岬ではなく、今この現時点で。こいつをこのまま放っておいたら、末は普通にラオウや大魔王バーンと正面決戦を繰り広げそうですよ。
とまあ、つらつらと紹介させてもらいましたが。本作は「地味なのに面白い」------失礼しました、言い直しましょう「地味だからこそ面白い」と表現すべき佳作かと。この画力で、この題材で、ここまで読ませる妙技こそ馥郁たる美酒の味わい。万人にはお勧めしませんが、『漫画』の新しい可能性を見たいなら、本作を手に取ってみる選択も有りかも知れません、と筆を置きたいと思います。