たけの音楽小考

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2.「弦の魅力について」


皆さんは弦楽器と聞けばどんな楽器を思い浮かべるでしょうか? 三味線、琴と答えた人は生っ粋の日本人? ではバイオリン、 チェロを思い浮かべる人はかなりの国際派? でもよく考えると、この二つのグループの違いが他にもあります。 「三味線・琴グループとバイオリン・チェログループ」。解りますか? そう前者は爪あるいはバチを使って音を出し、 後者は弓を使います。すなわち前者ははじいて音を出し、後者はこすって音を出します。

私は常に思うのですが、初めて弓を使った人はまさに革命的発想の持ち主だと思います。なぜなら弓を使うことにより音に連続性を与え、 強弱、緩急の自由度を大幅に向上させ非常に豊かな表現能力を確保するに到ったからです。もしバイオリンが爪を使って音を出す楽器 だったなら、多くの作曲家達はその芸術的創作意欲をバイオリンには向けず、他の楽器のために費やしたことでしょう。 でも弓という道具のおかげで、現在我々が耳にすることが出来る膨大な数のバイオリン曲が生まれ、又すすり泣き、 あるいは激しく叩き付ける様な表現も可能となり、楽器の女王としての地位を不動なものにしたと言っても過言ではないと思います。 そしてバイオリンの音ほど純粋な音はまた他にないと思います。クリスタルガラスを叩いたときに発するあの冷たい透き通った音に、 感覚的に一番近い音を持っているのではないでしょうか。

でもこの純粋な音を持ったバイオリンもその純粋さが故に楽器として独奏には向かず、ピアノあるいはオーケストラの伴奏が必要に なります。勿論、バッハの「無伴奏バイオリンの為のソナタとパルティータ」のような素晴らしい曲もありますが、 基本的にはそれ自身で豊かな音の拡がりを持つピアノのような楽器、あるいはオーケストラの助けを借りなければならない宿命を、 バイオリンは生まれながらにして持っているようです。

でもそこは良くしたもので、バイオリンも兄弟達すなわちビオラ、チェロを呼び集め一つのグループを作ると、この純粋音の組み合わせ だけで深遠かつ抽象的な世界を作り出すことが可能となります。弦楽四重奏とはご存知のように二つのバイオリン、ビオラ そしてチェロの組み合わせですが、この四つの楽器の組み合わせで作られる音の世界は、それこそ音楽の精神のその真髄、 あるいは結晶を抽出するのかのごとくに無限の純粋さを展開することが出来ます。この純粋な世界はまさに弦の独壇場の感があります。 この四つの楽器の組み合わせはまことに的を得たもので、メロデイーを弾かせたら右に出るものの無いバイオリンを二つ配置し、 低音部は人の声に近い音域を持つ暖かい音色のチェロが担当します。その中で塩味のように一見気が付かなくとも重要な味付けを担当 するのがビオラです。弦楽四重奏とは、それぞれの楽器が各自の役割をわきまえ、全体の調和を考えつつ弦の持つ魅力を最大限に 引き出せる編成だと思います。

さてそれでは今夜もブランデーを飲みながら弦の世界に浸ることにしましょう。弦が持つ深遠かつ抽象的な世界を求めるなら ベートーベンの後期の弦楽四重奏も良いですが、まあ軽いところでハイドンの「弦楽四重奏・作品三の五」などはいかがでしょう。 この彼の初期の作品は別名「弦楽セレナード」とも呼ばれ、第二楽章は第一バイオリン以外は全員ピチカートで初めから終わりまで 伴奏する、あのどなたも多分お聞きになったことのあるセレナードです。

その昔、光源氏は「月影を艶めかしい」と表現しましたが、私にはハイドンのCDジャケットに描かれているバイオリンの形が艶めかしく (?)見えてきました。なんだか今夜はブランデーの酔いが早くまわってきたようです。




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