たけの音楽小考

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4.「モーツァルトとモナリザ」


パリのルーブル美術館に展示されている、モナリザという名の女性の小さな肖像画は、何故あれほどまでに世界中の人々に愛されている のでしょう。あの不思議な微笑みは、いったい何を問いかけているのでしょう。何か深い悲しみに沈んでいるようでもあれば、 ただ優しく微笑んでいるようでもあります。そして自分はこの絵の何に魅かれ続けているのか、いったい自分の感情・感覚がどこにある のか、理解できないもどかしさを感じています。

彼女に母性を見出す人がいるようですが、この絵の持つ温かさは単に母性だけで説明できるでしょうか。今改めてモナリザを見つめている と、何故か彼女が以前より若返っているように感じます。と言うか、私が勝手に自分だけ年を取ってしまったせいでしょうが、 何となく母性より恋人としての美しさ、魅力が現われ始めたようでもあります。

人がモナリザに母性を見出すように、私はモーツァルトの音楽にも母性を見出します。モーツァルトの音楽の素晴らしさは、 彼の音楽がすべての聴き手のその時の感情に無理なく素直にあわせてくれるところにあります。モーツァルトの音楽は人が悲しみにある ときには一緒になって悲しんでくれます。決して薄っぺらな慰めをせず、また絶対に突き放しもせず、ただ一緒に悲しみ、 そしていつの間にか心に直接語りかける音楽をもって慰め、そして心を溶かし始めてくれます。でも不思議なことに、 まったく同じ曲が(・・・ここがモーツァルトの音楽の偉大なところですが)、今度は人の心が喜びにあるときには、 一緒になって喜んでくれるのです。ただただ優しく、混じりけのない純粋な心でともに喜んでくれます。私は今までに多くの作曲家の 作品を聴いてきたつもりですが、モーツァルトの音楽ほど聴き手の心に同化してくれる音楽を他に知りません。 聴き手のあなたが主役です。

モナリザもモーツァルトも、その人のそのときの気持ち、心の位置に合わせて表情を変えてくれます。 やはり真の芸術とはどのような心にも訴える力、感応する能力があるのでしょう。




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