| 2006年6月28日 (水) |
1 鉄は生命になくてはならない元素である |
1)ありふれた金属である鉄がヘモグロビンのなかにあることに、違和感を覚えたヒトはないか
2)元素としての鉄は、四十億年前に生命が誕生したときから、生命になくてはならないものであった。そしてその後の生命の発展を陰で演出してきた
3)鉄はすべての元素のなかでもっとも安定な原子核を持つ
4)その一つの帰結として、地球では質量比でもっとも多い元素である
5)そのことが、生命にとってかけがえのない機能を持つ元素となっている
6)地球温暖化防止に対して、鉄が最後の切り札と考えられている
7)二酸化炭素を積極的に固定する方法が必要である。そこに鉄が活躍しそうである。つまり「海洋鉄散布」である
8)このことを納得するには、生命の誕生と進化に鉄がどんなに重要な役割を演じたか、それなのになぜ今の海に鉄が不足しているのか、を知ることが必要である
9)鉄のめざましいはたらきは、元素の基本的な特徴から理解できる。鉄という元素の誕生から話を説き起こす |
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| 2006年6月28日 (水) |
2 鉄はビッグバンで生まれ奇跡の電子数を持つ |
1)宇宙は百数十億年前のビッグバンによって創生された。宇宙は超高温の一点から始まった。このときまだ物質は存在していなかった。温度が少し下がったときに電子や陽子、中性子ができた。ビッグバンから一秒とたたないうちにこれらが作られた
2)三分ほどたつと、重水素の原子核でき、さらにリチウム原子核までできた
3)大きい原子核は星(恒星)の中で作られた
4)水素やヘリウムなどの動きが遅くなると、宇宙のあちこちで重力によって互いに引き合ってガス雲の収縮が始まる。さらに重力が強くなりその中心に原子が集中していく。核融合反応が起こって大きな原子核が作られていく
5)鉄の原子核がすべての原子核の中でもっとも安定である。原子核の安定性は、核子数が小さいうちは原子核が大きくなるほど大きくなる。核子数五十六(鉄)で最高になり、これ以上になると核子一個あたりの結合エネルギーは小さくなる。それで宇宙は鉄が多くなる
6)太陽程度の大きさの星では、炭素・窒素・酸素程度までできる。それより大きいが太陽の一.五倍以上八倍以下のものでは、重力のために核融合がさらに進み、鉄までの原子核ができ、やがて超新星爆発で鉄を宇宙空間に放り出される。太陽系にある鉄の多くはこの超新星爆発でできたものである
7)宇宙が鉄ばかりにならないのは、どの星でも鉄ができるとは限らないからである。鉄ができる前に爆発してしまうものもある。これも超新星爆発という
7)鉄は多くてかつ電子の数が、生命にとって奇跡を生む数だった |
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| 2006年6月29日 (木) |
3 鉄は地球でもっとも多い元素である |
1)超新星爆発で宇宙に放出された鉄原子は、他の元素の原子や星間分子とともに星間物質として宇宙空間を漂い、それらは重力で集まって星間雲という集合体を作り、ついにその中心に原始太陽が輝き出す
2)地球付近には微小惑星がたくさんでき、それらが衝突・合体して水星から火星までの四個の惑星が形成された。これらは質量の大部分が鉄や岩石からなっている
3)宇宙での鉄の存在費は0.00三質量%である。地球では鉄の存在量は三十二〜四0%と見積もられている。地球は鉄の惑星なのである
4)原始地球ができたのは四十五.五億年前である。隕石の落下で原始地球は高温となり表層が融ける。多量の鉄が岩石と分離し、地球の中心に向かって沈んでいく。最内核は高圧のため鉄が固まり固体の内核ができ、その回りを鉄の液体が取り囲んでいる。地球の自転のためにこの液体の鉄は一定の方向に運動する。これが地磁気の元になった。宇宙船や太陽風から地球を遮蔽した
5)原始の海には鉄がたくさん溶けていた。鉄は大部分中心に沈んだが、地殻には鉄が四.七〜七.一%含まれていた。四十億年前ごろ地球が冷えて海ができた。当時の海は原始大気に多量に含まれて板塩化水素のためかなり酸性であった。そのため岩石中の鉄は、海水中に多量に溶け込んだ。当時は遊離の酸素がなくて、鉄は海水に溶けたままでいることができた。その他の金属も溶け込み海水を中和した結果、二酸化炭素も海水中に溶け込んだ |
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| 2006年6月29日 (木) |
4 鉄は生命にとって特別な元素である |
1)鉄は遷移元素である。遷移元素は複数のイオン価や原子価を持つことが特徴である。さらに、配位結合をつくり、配位化合物を作ることも特徴である
2)鉄は、ニ価または三価の陽イオンになる。両者の安定度の差は小さく、置かれた環境によって二価になったり三価になったりして、その変化の時に電子を出したり受け取ったりする。呼吸などに必要な電子の受け渡しに利用されている
3)鉄は、さまざまの化合物中の窒素、酸素、硫黄原子と配位結合しやすく、生命にとって重要な多くの配位化合物を作る。鉄がユニークなのは、鉄の原子価が二価でも三価でも、配位化合物がほとんど同じ立体構造をとることである
4)呼吸に必要なシトクロムの中の鉄は、他の物質から電子を受け取って二価になり、ほかの物質に電子を渡して三価となるが、このとき立体構造はほとんど変わらない
5)鉄の配位化合物は、配位子の一つがとれても、同じ構造を維持しようとする。ヘモグロビンの鉄が酸素を配位子の一つとして運んできて、それを受け取る筋肉などで切り離しても、ヘモグロビンの立体構造はほとんど変わらず、くり返し酸素輸送に利用できる |
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| 2006年6月30日 (金) |
5 すべての生命は鉄を必要としている |
1)必須元素のほとんどは遷移金属で、鉄はその中でもっとも多い。
2)生物の細胞液や血液の元素組成ははおおむね海水と似ている。しかし鉄が人体中に多い。生命が誕生したときの海水に鉄が多量に溶けていたからである。生命は、海水中に多量の溶けていた鉄を利用して生まれた
3)酸素呼吸生物は「酸素を水素で還元そて水にする反応」から生まれるエネルギーを使っている。そのとき、エネルギーを少しずつ取り出しながらゆっくり水素を燃やすために鉄を使う
4)電子を失うことを酸化といい、電子をもらうことを還元という。失った電子は必ず他の原子に渡されるので、酸化と還元は必ずセットで起こる
5)この電子の受け渡しのときに、電子を出しやすいのかのか受け取りやすいのかの基準が、酸化還元電位という値である。この値が正で大きいほど酸化力が強く(電子を奪う力が強く)自分は還元されやすい
6)海水中に酸素が溶けていなかった太古の地球では、二価の鉄イオンが安定的に存在できる[海水は]酸化還元電位であったという
7)鉄にいろいろなものがつくと、酸化還元電位は大幅に変わる。鉄を含むフェレドキシンというタンパク質は、酸化還元電位がマイナスの領域にあり、酸素分子がほとんどなかったころの生物はこのタンパク質を酸化還元反応に利用したと考えられている。もっとも歴史の古いタンパク質である。環境中に酸素が増えて酸化還元電位が高くなってくると、ヘムタンパク質と呼ばれるシトクロム類も、酸化還元反応に使われるようになった。手地の配位化合物はマイナス〇・八から一・三ボルトまで広い範囲で電位を変えられる。これを利用したのが酸素呼吸である
8)電子をフェレドキシンから始まっていくつものシトクロムを経て徐々に電位を上げ、最後はシトクロムオキシダーゼという酵素で酸素に電子を渡す
9)エネルギーを鉄を使って取り出す方法をごくおおざっぱに見てきたが、さらに鉄は、酸素の害を鉄で守ってもいる。害を及ぼす酸素とは活性酸素と呼ばれるもので、電子を余分に受け取った酸素のことである。ペルオキシダーゼはヘムを持っており、その鉄原子が活性酸素をそこに配位して電子を受け取り無害化する |
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