| 2006年7月11日 (火) |
1 生命の誕生に鉄はどのような役割を演じたか |
1)進化系統図から、細菌と古細菌の共通の祖先は高温を好む好熱細菌であったと考えられる
2)生命が生まれたとき、大気中にも海水中にも遊離の酸素はほとんどなく、還元性の環境であった
3)生命誕生の現場と考えられる熱水噴出孔では、硫化鉄が生成している。[原始地球の海は、海全体が熱水噴出孔であった、と考えているらしい]
4)原始の海は、二価の鉄イオンが多量に溶けていた。太陽の紫外線が二価の鉄イオンと水素イオンとに作用して酸化し、三価の鉄イオンを作っていた。水素イオンは熱水噴出孔から噴出していた。三価の鉄は不溶性なので沈殿する。地底では鉄-硫黄化合物の表面で還元され、二価の鉄イオンに戻っていた。こうして「鉄の輪」ができていた
5)一方、原始海水中に溶けている水素、窒素、一酸化炭素、二酸化炭素のような単純で安定なガス成分から、アミノ酸、ヌクレオチド、脂肪酸などが合成されていた。これらは鉄-硫黄化合物の上でタンパク質に似た化合物を作った。RNAも作られていたらしい
6)最初の生命体は、鉱物表面の二価鉄、三価鉄の「鉄の輪」からエネルギーを得ながら生体物質を合成して誕生した
7)たまたま遭遇する鉄イオンと接触してエネルギーを得る機会はあまり多くない。そこで生命体は、ペプチドの鎖で鉄イオンを一定の位置に捕まえておき、その鉄イオンを二価にけたり三価に変えたりして、エネルギーを得るようになったこうして体内で「鉄の輪」を回してエネルギーを得る生物が誕生した |
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| 2006年7月11日 (火) |
2 鉄が生命を救った |
1)40億年前に生命は誕生した。最初の生物は三価の鉄を呼吸していた。三価の鉄はそれほど豊富ではない。やがて[ほどなく]熱水中で入手可能な硫化水素ヲ酸化する微生物が現れた。化学合成細菌である。これらが繁殖できる範囲は狭い。すでにあった有機物は少なく消費しつくされたはずである
2)このときに光合成細菌が現れた。すでにあったヘムをもとに鉄をマグネシウムに置き換えて、太陽光のエネルギーをATPに変え、同時に生体物質も合成する光合成が可能になった
3)紫外線がまだ当時は強力だったので、浅海には出られなかった
4)二十七億年前に磁場が強くなった。地球の内部が冷えて液体の書くの中心に固体の内核ができたせいである
5)シアノバクテリアがこのあたり、二十七億年前には現れていて、二十五億年前から大爆発が始まった。十九億年前がピークで、大繁殖は六億年前まで続いた
6)シアノバクテリアが放出する酸素は、二価の鉄イオンを三価にしていった。鉄が酸素を水にして無害化していった。つまり水酸化鉄として沈殿していった。その水酸化鉄はやがて水を失って酸化鉄となり、これが鉄鉱床として人類の使用を待っている鉄鉱石の原料なのである
7)シアノバクテリアの作った酸素のうち、海中と大気中に残ったのは四%程度であった。鉄は吸い酸化鉄として沈殿し、「鉄の輪」は生物体の中にしか存在しえなくなった。それでも鉄イオンが少なくなるまでに時間が十分にあって、地球表面に酸素が増加し始めたのは、二十二、三億年前だという。その間に、生物は自分が放出した毒物である酸素に対処する機能を、鉄を利用することで備えることができた(ヘム鉄)
8)酸素が増えてくると酸素を呼吸する生物が増殖することになる。電子伝達系の鉄ー硫黄タンパク質とシトクロムも利用されたし、光合成の反応システムもそれを逆の方向への反応に利用された。酸素が利用されるようになると生物の進化は速くなった。真核生物が出現したのは二十一億年前で、酸素量は現在の十五%程度だった。多細胞生物は九億年前ころで、このころ酸素濃度が急増している
9)七億年前から六億年前(先カンブリア時代後期)にエディアカラ動物群が現れた。もはや鉄鉱床が作られなくなったじきである。五・五億年前に古生代カンブリア紀の生物「大爆発」が始まった。奇妙な形の生物が海を埋め尽くした。これらの生物が利用していた鉄は、当時の大気中の炭酸ガス濃度の高いことによる。現在の十数倍から二十倍以上であった。海水に炭酸ガスが溶け込み水素イオンが多く、二価の鉄イオンが十分にあったものと考えられる。古生代前半まで生物は海で繁栄し、爆発的に進化していった |
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| 2006年7月13日 (木) |
3 上陸して鉄を確保する |
1)古生代中期の四億五千万年前ころから炭酸ガス濃度が減少し始め、末期には現在のレベルにまで低下した。このことは、海水中の鉄イオン濃度が現在のレベルに近づくことを意味した。鉄を必須とする生命体にとって大きな危機であった。銅が使われるようになったが、肝心のところは鉄に代わるものはなかった。多くの生物で鉄を備蓄するタンパク質(フェリチン)が作られ、予備の鉄を自分の体のなかに囲い込んだ
2)生物の地上進出の大きな誘引の一つは、この鉄不足である。陸上の岩石はかなり鉄を含んでいる
3)また、海水中の炭酸ガスの現象も理由の一つとされている
4)シアノバクテリアや藻類は、海中に鉄が不足したとき、波に洗われる岩石にとりつき、光合成を行うとともに、自分たちが分泌する酸類で岩から鉄を溶かし出すことに成功した。それらの死骸がやがて土壌になった
5)微生物により土壌が形成されて、今日の植物の祖先が陸上に姿を現わすことになった。最初の陸上植物は、地を這う茎から直立する茎が分かれる現在のヒカゲノカズラのような生物、クックソニアであった。これは茎に開いた気孔から直接水分や養分を取り込んでいた。根はなかった。これと同じくらい起源が古い苔植物は仮根は持っていたが水分や養分は吸収できず、水分は葉の表面から吸収していた
6)根と茎を最初に持った植物はクックソニアから進化したシダ類である。根が吸収したもっとも重要な成分は、窒素と鉄であった。植物の根の発達が、生物全体の陸上での自立を築いた。動物は養分を植物に依存するからである。鉄の不足で海中での繁栄が脅かされた生物が、その制約から脱して発展する基盤ができたことになる。生物が海だけを埋め尽くしていた古生代中ごろまでの世界は、緑豊かな陸地に生物があふれる現在の世界へと変わった |
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| 2006年7月13日 (木) |
4 鉄が生物大繁栄を支えた |
1)最初の生物は、海水中の鉄イオンを利用してエネルギーを得ることで誕生した
2)そのころ遊離の酸素はほとんどなかったことで、このことが可能であった
3)当時の大気が現在のような酸素濃度であったら、海水中に鉄イオンはほとんど存在できず、それを利用する生物も生まれなかった
4)さはさりながら、遊離の酸素のない世界では、生物のエネルギー獲得の効率が低く、高度な生物への進化は望めなかった。ところがほどなく酸素を生成する光合成生物が現れ、これが大増殖して地球に遊離の酸素をもたらした。さらに酸素呼吸生物が現れて、生物の大飛躍が始まった
5)酸素の出現は大きな試練であった。一つは酸素の毒性である。これには鉄のはたらきを中心とした防御機構を開発した(カタラーゼ、ペルオキシダーゼなどで防御)
6)もう一つは、二価の鉄イオンが酸化されて不溶性となり、海水中に枯渇し始めたことである
7)もともと海水中に溶けていた鉄が非常に多量(無尽蔵)であったので、対応するまで十分に時間稼ぎができた
8)最終的には陸上植物が根から鉄を吸収することで解決した。しかしそもそも陸地に上陸できたのは、地磁気があったためで、それは鉄であったがためにできた内核の存在のせいである。さらに大気中のオゾン層の生成が力になった。
9)我々がいるのは鉄が起こした奇跡である |
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