アンナプルナ トレッキング
アンナプルナ トレッキング
ナヤプル (1170m) ~ ヒレ (1524m)
最初にポカラに訪れた9月中旬は雨が続いていて、ゲストハウスの屋上から眺めるマチャプチャレ(6,993m)はいつも雲に隠れていたが、秋の大祭ダサインを終えてから、マチャプチャレはその姿を一日中現すようになった。ネパールのヒマラヤ、アンナプルナにトレッキングシーズンが到来したのだ。
ビザの滞在期限が迫っていた僕とマイコはインドへ南下する予定だったが、絶好のトレッキングシーズンに山を登らないのはもったいないと、ゲストハウスで知り合った旅人と話をしていたら、これはもう登るしかないと盛り上がり、急遽、アンナプルナトレッキングをすることに決めた。
以前にバンコクの宿で出会った旅人からネパールのヒマラヤを歩き、見る角度によって山頂が魚の尾のように見える山(=マチャプチャレ)の景観が素晴らしかったという話を聞いて羨ましく思ったが、登山経験のない僕らにトレッキングは縁のない話だと思っていた。
ポカラのイミグレーションオフィスでビザの延長(1900ルピー)をして、ツーリストセンターでアンナプルナ山域の入域許可証(2000ルピー)を取得する。携帯食料やフリース素材の防寒具などを買い揃え、トレッキング出発の日を迎えた。
トレッキングのエントリーポイントがあるアンナプルナの玄関口ナヤプル(1,170m)まで車で移動し、朝にトレッキングをスタートした。目指すは標高4,130mのアンナプルナ・ベースキャンプだ。
アンナプルナトレッキングでは、ガイドやポーターを雇うのが一般的だが、メンバーが六人集まったこともあり、ガイドを付けず自分達で荷物を背負って登ることにした。アンナプルナ山域では、水や食料の価格がポカラの倍以上と聞いていたので、バックパックに詰められるだけ詰めてきた。トレッキングでは荷物の重量を5kgまでに抑えたほうがいいとされるが、僕は10kgは背負っていた。
ナヤプルから歩き始めると、赤旗を掲げたマオイスト(ネパール共産党毛沢東主義派)が道を塞いでいた。ネパール国内で勢力を強めるマオイストは、トレッカーから入山料を無理矢理に徴収していて、お前らに金を払う必要はないと、マオイストに言い寄る欧米人トレッカーらで騒がしくなっていた。
既に正規の入域料を支払っている僕らもマオイストにお金を払うつもりはなかったが、金を払わなければここを通さないの一点張り。武装解除したマオイストは、以前のように銃で脅してくるような危険な組織ではなくなったと聞いている。無視してやり過ごしても危害は加えてこないはずだが、山の中では他にもマオイストが張っている場所があるらしく、面倒なので要求に従うことにした。マオイストは、1人1日300ルピーを要求したが、支払いを渋ると1日100ルピーでいいと言う。僕らは日帰りトレッキングということにして6人の1日分600ルピーだけ渡し、後でレシートに0をひとつ書き足しておいた。
最初のうちは快調だったものの、重たい荷物を背負って山道を歩くのは大変だということがすぐにわかった。足元は石ころだらけで歩きづらく、上り坂ではすぐに息があがってしまう。ヒマラヤの秋の日差しは強く、気温も湿度も高い。30分歩いて5分休憩というペースで先を目指した。馬を連れた山の民はサンダルでスタスタと歩いて行く。
トレッキングルートは、アンナプルナに住むグルン族にとっては生活の道。小柄なグルン族の青年が羊や山羊を連れて移動していて、狭い道から溢れんばかりの家畜が通り過ぎる。群れが通過した後の道にはたくさんの糞が転がっていた。
グルン族の女性が稲の刈り入れを行っていた。アンナプルナとは、サンスクリット語で豊穣の女神のことだが、まさに豊穣な季節の光景が広がる。カトマンズのチベタンレストランで飲んだトゥンバという酒に使うキビの栽培も見ることができた。
ビレタンティ(1025m)の集落を通過し、ヒレ(1520m)に着いたのは16時。まだ外は明るいのでもう少し歩けたが、トレッキング初日なので無理せずこのロッジで一泊することにした。
アンナプルナ山域のロッジの宿泊料は、ポーターやガイドを雇っている場合、一人一泊100ルピーが相場。僕らは個人トレッキングなので30ルピーだった。歩き疲れたあとのチャイが美味しい。ダルバート(160ルピー)でお腹を満たし、ホットシャワー(1回50ルピー)で汗を流して21:00に就寝。壁がベニヤ板で夜は少し寒かった。
アンナプルナ トレッキング 2日目
ヒレ (1524m) ~ ウレリ (2120m) ~ バンタンティ (2824m)
6時半起床。ヨガの太陽礼拝をしたら、使い始めた筋肉が伸びて気持ちよかった。トレッキング2日目のルートを地図で確認すると3,280 Wide Stone Stepsと注意書きがあった。この先のバンタンティ(2,824m)までの標高差1,300mは、3,280段の石階段を登るようだ。
少し歩くとその3,280階段が始まった。目の前に現れた壁のような石階段は、高さも石の大きさもバラバラで崩れている箇所もある。景色を楽しむ余裕はなく、転ばないよう注意して徐々に重たくなる膝を上げ続けた。
4時間以上登り続けてもまだ石階段は続いた。会話はなくなり、修行僧の様に黙々と階段を登る。リンゴやバナナ、ドライフードなどの食料やペットボトルの水が憎いほど重たい。
悪夢のような石階段が終わりに近づいた頃、見晴らしのいい高台があったので、1時間ほど食事休憩。アンナプルナの美しい棚田を眺めながらの食事は最高に旨い。ウレリを越えたあたりから階段の傾斜は緩やかになり、呼吸を整えながら登れるようになってきた。しかし、もう足がパンパンだ。
日本の桜の原種とされるヒマラヤの桜。日本では春に咲くがネパールでは雨期が終わった秋に咲いていた。
グルン族の軒先。深い山の中に素朴で豊かな生活がある。
出発から7時間後の午後3時過ぎに、標高2,824mのバンタンティに到着した。ロッジはダブルが50ルピー。山の傾斜に建っているので窓からの景色が素晴らしかったが、陽が傾き始めると濃い雲に覆われて外は真っ白になった。
部屋代は安いが、夕食のダルバートが195ルピー、500mlのコーラが100ルピーとポカラの2~3倍だ。もうクタクタでメモ帳に記録を付けるのも嫌になるほど疲労していた。就寝。
アンナプルナ トレッキング 3日目
バンタンティ (2824m) ~ ゴレパニ (2853m)
トレッキング3日目。デッキで山を眺めながら朝食をとる。昨日の石階段で足腰の疲れが残っていたが、今日のルートはそれほどきつそうではない。宿で少しのんびりしてから出発することに。
11時にロッジを出発し歩き始めてしばらくすると、日本人の団体トレッカーに出会った。こんなところで日本人の年配の方々と遭遇するとは思っていなかったが、アンナプルナは世界的なトレッキングの名所。日本からトレッキングをするために訪れる人も多いそうだ。
アンナプルナの深い森のなかを歩くルートには、大小様々な滝が流れ落ちている。歩きやすい道だったが、ずっと雲が太陽の日差しを遮っていたので、足を止めると汗が冷えて寒かった。
馬はアンナプルナで物資を運ぶ唯一の手段。時折、数匹から10匹ほどの馬とすれ違う。
標高2,874mのゴレパニに着いたのは午後3時。急に気温が下がったので、皆寒くて歯をガチガチするほど震えていた。ロッジではホットシャワーを浴びることが出来て、リビングルームには暖炉もあったので体を温めることができた。明日は夜明け前にプーンヒルという丘に登る。
アンナプルナ トレッキング 4日目
ゴレパニ (2853m) ~ プーンヒル (3210m) ~ デウラリ (3103m)
朝4時半に起きて宿の外に出ると満天の星空が広がっていた。昨日の雲はすっかり消えているので、丘の上からの景色も期待できそうだ。朝は寒いからとロッジの女性が温かいお茶を用意してくれた。優しい気遣いに心も体も温まる。にプーンヒル(3,210m)目指して出発した。
外はまだ暗いのでライトの光を頼りに丘を登る。寝起きに350mの標高差はキツイ。1時間ほどで空が明るくなり、プーンヒルに着いた頃にちょうど夜が明けようとしていた。プーンヒルには、既にたくさんのトレッカーが集まっている。
プーンヒルの展望台で太陽が昇るのを待つ。しばらくすると山に光の筋が入り明るくなっていった。
プーンヒルから遠くに眺める夜明けのマチャプチャレ(6,993m)、山頂は二つに分かれて見えた。左手前はアンナプルナサウス(7,219m)とヒウンチュリ(6,441m)。
朝日に輝くアンナプルナサウス。
ダウラギリは、周囲の山と比べても断トツに高い。
ダウラギリ山系のなかで最も高いダウラギリI峰は、標高8,167mで世界第7位の高さを誇る。ダウラギリはサンスクリット語で白い山を意味し、19世紀の始めまで世界一高い山とされていたそうだ。ダウラギリI峰とプーンヒルの標高差は約5,000m。麓が見えないので宙に浮いた天空の山のようだった。ネパールの山には、イエティが居るなんて言われるが、それもありえなくない。
プーンヒルからの下り道、さっきまであんなに快晴だったのにすぐに湿気を含んだ雲が押し寄せてきた。山の天気は変わりやすいというが、本当にあっという間にあたりの様子が一変する。降りていく途中、僕らが宿泊しているゴレパニのロッジが眼下に見えた。40分かけてロッジに戻ると皆、足がカクカクですぐに歩けそうもなかった。早起きしてすぐに山を登って降りたので2~3時間寝てから出発することになった。
ゴレパニのロッジを11時半に出発。トレッキング4日目にして早くも疲れがピークに達していて皆の足取りが重かった。途中で焚き火をして暖をとる。今日はこれまでのように歩けそうもなかった。
デウラリ(3,103m)に着いたのは午後3時。外で土産物を売っていた女性がタダでいいというロッジに泊まることにした。
カトマンズに多い目鼻立ちのはっきりしたネワール族と違って、山の中に住むグルン族はチベット族のような、日本人にも似た顔立ちをしている。小さなロッジには、身長140cmほどの女性と5歳の息子さん、15歳くらいの女の子が働いていて、皆温かく笑顔が素敵な人たちだった。これから先は寒そうなのでヤクの毛で編んだ手袋を2個600ルピー(1,200円)で購入した。
アンナプルナ トレッキング 5日目
デウラリ (3103m) ~ タダパニ (2721m) ~ チューレ (2500m)
トレッキング5日目。朝9時にデウラリのロッジを出発した。今日は、山賊などに警戒してグループトレッキングが推奨されている深い山のなかを歩く。マイナールートなのでトレッカーの姿がなく、ガイドなしの僕ら六人だけでは少し心細い。
薄暗い山の中を歩き続け、長い石階段を登り切ると、山の中腹を歩くルートに出た。今日は一日曇っている。トレッキングシーズンということで期待していたが、アンナプルナはここ数日天気が悪い。
まだ午後3時前だったが、今にも雨が降りそうだったので、見晴らしの良い高台に建ったロッジに一泊することにした。コンクリで建てられているので部屋の中は寒さを感じなかった。
アンナプルナ トレッキング 6日目
チューレ (2500m) ~ チョムロン (1951m) ~ シヌワ (2340m)
6時起床。目玉焼きとシリアルの朝食をとる。このロッジは、近くで荷物の運搬用の馬を20頭ほど飼育していた。バイクや自転車の通行が出来ないアンナプルナでは、馬やロバが主な輸送手段。馬の背中は重たい荷物で皮膚が剥がれて痛々しかった。
ロッジを出て歩き始めると、ちょうど山の子供たちの登校時間だった。谷に架かる吊り橋を渡り、子供にとっては背丈の半分もある石階段をピョンピョン飛びながら元気に走っていく。
途中、大きな崖崩れのあった道を進む。
長い石階段を登り切るとシヌワ(2,340m)に到着。風が強く雨も降りそうだったのでここで一泊することに。すると、マイコがタイの島でダイビングをした時にダイブショップで働いていた女性が偶然同じロッジに宿泊していて、二人とも突然の再会に驚いていた。
この先は、アンナプルナベースキャンプ(A.B.C)への一本道で、トレッカーの数も増えるので、ロッジに早めにチェックインしないと満室になることがあるそうだ。
アンナプルナ トレッキング 7日目
シヌワ (2340m) ~ バンブー (2490m)
6時起床。昨夜の激しい雨は朝には止んでいた。晴れ間が見えた9時頃にシヌワを出発した。目指すベースキャンプは、ここから見える深い谷のずっと先だ。
出発して2時間ほど歩くと強い雨が降り始め、バンブー(2,490m)という竹林に囲まれたロッジで雨が止むのを待った。しかし、数時間待っても雨が止む気配はなく、むしろさらに激しくなった。なかなか進めないすごろくの様でもどかしいが、天気が回復するのを待つしかない。コタツのテーブルに足を入れて食べるダルバートがおいしかった。
アンナプルナ トレッキング 8日目
バンブー (2490m) ~ ドバン (2600m)
トレッキング8日目。朝になっても雨は少し降っていて冷え込んでいる。昨日も少ししか進んでいなかったので、今日は雨具を羽織って先へ進むことにした。
しかし、小降りだった雨がまた激しくなり、足元は雨でドロドロ、石や岩の上も滑りやすく危ない。今日も2時間歩いただけで先に進むのを諦め、深い山に囲まれたドバンのロッジにチェックイン。悪天候用のしっかりした装備がない僕らは、思うように進めず、疲労が蓄積してきたこともあって、気持ちがピリピリしてきていた。明日は晴れてほしい。
アンナプルナ トレッキング 9日目
ドバン (2600m) ~ ヒマラヤホテル (2873m) ~ デオラリ (3220m)
トレッキング9日目。まだ空には曇がかかっていたが雨の心配はなさそうだ。朝8時に歩き始めると、連日の雨でいたるところに小さな滝が出現していた。渓谷沿いを歩くので川のせせらぎが聞こえて気持ちがいい。
今日は、標高2,500m付近から標高3,000m以上までゴツゴツした岩の多い道を登る。植物の生態系も変わり、いよいよベースキャンプに近づいてきたという感じだ。往路と復路が一緒なので、僕ら以外にも多くのトレッカーの姿を見かけるようになった。
標高3,220mにあるデオラリのロッジが遠くに見えた頃、谷からの冷風で気温がグッと下がりみぞれが降ってきた。Tシャツで歩けるほど温まっていた体が震えるほど冷えてしまった。デオラリから先には、マチャプチャレ・ベースキャンプと、アンナプルナ・ベースキャンプがあるだけだ。
アンナプルナ トレッキング 10日目
デオラリ (3220m) ~ M.B.C. (3650m) ~ A.B.C. (4130m)
夜明け前、朝5時にロッジの外に出ると、満天の星空が頭上に広がっていた。しばらく夜空を眺めていると、東の空が明るくなり星の輝きがフェードアウトしていく。大変な思いをして山に登って見たかったものは、見えるのに見ていないものかもしれない。軽い朝食を終えて7時前にロッジを出発。今日は目的地のベースキャンプまで一気に登る。
夜のみぞれが雪になり、トレッキングルートには雪が積もっている。本格的なトレッキングシューズでない僕らには厳しい足元だが、グルン族のポーターはこの雪道でもサンダルで登っていた。
マチャプチャレ・ベースキャンプの標高は3,750m。日本最高峰の富士山に匹敵する標高だ。と言っても、僕は富士山の5号目まで車で行ったことがあるだけで山頂まで登ったことはない。チベットで標高5,000mの宿に泊まってチョモランマ・ベースキャンプまで歩いたが、自分の足で何日もかけて進むトレッキングは、僕とマイコにとって初めての経験だ。
マチャプチャレ・ベースキャンプからは、その名の通りマチャプチャレ(6,993m)を真下から見上げることができた。ポカラから見ていたマチャプチャレの裏側に来たことになる。高低差3,200mを越える壁の一番てっぺん、聖なる山の尖った山頂は惚れ惚れするほど美しい。ちょうどマチャプチャレの裏から太陽が昇り、眩しく輝いていた。
ザクザクと雪道をさらに2時間ほど歩き、ついに目指すアンナプルナ・ベースキャンプに到着した。標高4,130m、雪と氷の世界だ。氷点下の気温で雪道を歩いてきたので、靴下を二枚重ねにしていても感覚がないほど指先が冷たい。汗が冷えて凍えるほど寒くなった。
マチャプチャレを西日が照らすと雪が蒸発してみるみるうちに雲が形成されていく。夜になると再び雪が降り、視界がほとんどゼロになるほど吹雪くようになった。アンナプルナ・ベースキャンプのロッジは、部屋の空きがなかったので、ダイニングルームでネパール人のポーターやガイド15人と一緒に寝ることになった。ダイニングルームは、寝る直前まで暖炉に火がついていたのでぐっすり眠ることが出来た。就寝。
アンナプルナ トレッキング 11日目
A.B.C. (4130m) ~ バンブー (2335m) ~ シヌワ (2340m)
朝5:30に目が覚める。またとんでもない場所で一夜を過ごした。窓は凍りつき氷柱が垂れている。昨夜は温かかったダイニングルームも完全に冷えきっていて、なかなか毛布から出ることが出来ない。6時過ぎに外に出るとアンナプルナⅠ峰(8,091m)の山頂に朝日が当たり金色に輝いていた。アンナプルナ連山の主峰であるアンナプルナⅠ峰は、世界第10位の高さを誇る。
周囲を360度アンナプルナの高峰に囲まれたアンナプルナ・ベースキャンプからは、Ⅰ峰やマチャプチャレ以外にも、アンナプルナ・サウス(7,219m)、シング・チュリ(6,501m)、タルプ・チュリ(5,663m)、アンナプルナⅢ峰(7,565m)、ガンダルバ・チュリ(6,245m)、ヒウン・チュリ(6,441m)といった神々しいばかりのネパールヒマラヤを見ることが出来る。
チベットのタルチョがはためく。言葉を失うほどの大パノラマ。寒さも忘れて心の底から感動した。
アンナプルナ・ベースキャンプで山が見えるのは朝のうちだけで、太陽が昇ると雲が湧いて、昨夜のように吹雪いてくるらしい。他のトレッカー達がロッジを出発し始めたので僕らも来た道を引き返すことにした。目の前にマチャプチャレを臨みながら雪道を歩く。真っ白い雪からの照り返しが強く、目を開けていられないほど眩しかった。
昨夜の雪は、ある程度まで降りるとそれほど積もっておらず、順調に下ることができた。
9時にアンナプルナ・ベースキャンプのロッジを出発し、3時間ほど下るとバチバチと雹が降ってきた。さらに1時間歩いて13:00に昨日泊まったデオラリに到着。昼食にピザを食べ、チャイで身体を温めた。みぞれが降っていたが、今日はもう少し降りてしまいたいので先に進んだ。
3時間歩き、日が暮れかけたにバンブー(2,335m)に到着。しかし、どこのロッジも満室で空きがないそうだ。暗くなってきたので先に進むべきかどうか迷ったが、次のシヌワまで1時間半というので進むことにした。
しかし、30分ほどで完全に日が落ちてしまい、真っ暗な山道をライトの明かりを頼りに歩くはめになってしまった。闇のなかを歩いてシヌワのロッジに着いたのはだった。シヌワでも部屋の空きがなかったが、心温かいロッジがスタッフ用の部屋をわざわざ僕らのために空けてくれた。無料でチャイまで出してくれて、心の底から感謝した。1日でかなりの距離を歩いたので足がパンパンにむくれている。もう1週間以上シャワーを浴びていない。
アンナプルナ トレッキング 12日目
シヌワ (2335m) ~ ジヌーダンダ (1600m)
7時に目覚めると窓からマチャプチャレが見えた。マチャプチャレは、見る角度によって山頂部が魚の尾びれのように見えることからフィッシュテイルという別名があるが、それに近い眺めだった。
昨日は約2,000mを一気に降りてきたので、ベースキャンプの雪景色が夢のよう。外は緑が生い茂っている。筋肉痛で体中が痛いが、今日は温泉の湧くジヌーダンダに行くのでやる気が出る。頑張れば温泉に入れるのだ。
石階段のアップダウンを越え3時間ほどでジヌーダンダに到着。日当たりの良い部屋にチェックインし、少し休憩してからタオルだけ持って温泉のある川へ向かった。しかし、地図で見て近くにあると思っていた温泉までは、30分も山を降りなければならなかった。
川のすぐ脇に温泉が湧いていて、雰囲気は日本の露天風呂と同じような感じ。大きな音を立てる渓流や山を見ながら湯に浸かるのは気持ちいい。10日間もシャワーを浴びていなかったし、体全体をお湯に浸けたのは、チベットのギャンツェ以来、2ヵ月半ぶりだ。長湯するのにちょうどいい湯温で、肌もスベスベになり、足腰の痛みも和らいだ。ヒマラヤの温泉は最高だった。
ロッジでは、イギリス人バックパッカーと相部屋だった。彼は一人でトレッキングにきたが、2日目でお腹を壊してしまい、2~3日この周辺で安静にしてからからベースキャンプへ向かうそうだ。訛りの強い英語で聞き取るのが大変だったが、このあとイギリスに行く予定だと言うと、イギリスについて地図を描いて教えてくれる気さくな男(31歳)だった。
アンナプルナ トレッキング 13日目
ジヌーダンダ (1600m) ~ ナヤプル (1170m)
トレッキング13日目。ロッジでゆったり朝食をとり、少し遅めの10時に出発した。今日は渓流沿いをスタート地点のナヤプルまで歩く。起伏も少なくラクな道のりだ。温泉で体もさっぱりしたし、もうすぐポカラに戻れると思うだけで自然と足が前へ出た。
足下を黄色の斑点がある大きなトカゲが通り過ぎ、草むらの中へ逃げていった。尻尾まで含めたら70~80cmはあっただろうか。突然のことだったので驚いた。
ナヤプルにはジヌーダンダを歩き出してから7時間半後に到着。13日間にわたるトレッキングはようやく終了した。悪天候で思ったように進めない日もあって長引いてしまったが、大きな怪我などなく無事に戻ってくることができた。
長期間にわたるトレッキングを初めて経験し、自分の足でゆっくり進みながら毎日少しずつ変わる山の景色を楽しむことが、こんなにも面白いということを知った。アンナプルナ・ベースキャンプからの眺めは、言葉で表すことができないほど素晴らしかったし、ヒマラヤのなかで素朴だが力強く生きる人々の生活を垣間見ることもできた。いつもよりずっと重たく感じる体や自分の精神と向き合い、山を見て自分を見た気がする。すぐにまたトレッキングしたいかと聞かれたらノーだが、この経験ができて本当に良かった。自然に身を委ね、モノに溢れた世界から開放されるというのは、すごくいい。
今回、僕らが歩いたのは地図に青でラインをつけたルート。ナヤプルから時計回りに西側のゴレパニを経由し、アンナプルナ山域の内院、アンナプルナサウスやマチャプチャレの懐に入り込んでいくルートだ。体力のある人なら10日もあれば行って帰ってこられるルートだが、僕らは天候のせいもあり13日間かかった。アンナプルナトレッキングは、アンナプルナ山域全体を一周するアンナプルナ・サーキットと呼ばれるルートもあるので、いつか必ず挑戦したい。
ネパールからインドへ
ポカラに戻って数日休んだ僕らは、長らく滞在したネパールを出るため、バスに乗ってインドとの国境の町スノウリへ向かった。続きを読む