街を一つ海に沈めた。
爆弾を沢山落として、火柱を天まで届かせて。

海の底に高層ビルが見える。
小さな男の子が、ビルの窓から所在なげにオレを見上げる。 青白い顔はさざなみに合わせて揺れる。 嘘だと思う。



リキッドのことこないだから見てんだけど、 一向に先輩を敬う態度ってのが身につかない奴だ。 そりゃもうオレ以上に。

「ロッドぉー、なんでおれの机にマヨネーズ乗ってんの?」

タメ語だし。

「あ、わりぃ、さっきそこでマーカーとマヨネーズプレイしたんだわ」

「はん?…プレイ?なんのこと?」

18だろ。わかれこの程度のギャグは。

「知らねーのか、よくあるだろ味付きローションとか生クリームとか チョコレートペーストとかバターとかで」

「あっ!そういえばエロ本で見たことある!」

はしゃぐなよ。

「え、ちょっとまてよ…っていうことは…ロッドは…」

今日も頭の巡りの悪さは絶好調だな。

「そうそう、もうちょっとで答えにたどり着けるぞお、アメリカ娘」

「マヨネーズがぶ飲み状態でめっちゃ胸焼けしてるってことだな! おれ水持ってきてやるよ!」

駆け去る後輩の後姿に思う。面白いから許す!





私が買ってきた水を無断で持ち出すとはいい度胸だ。 しかも事情を聴いてみたらなんだ、それは。

「誰がそんな気味の悪いことするか単細胞」

私はマヨネーズより成分無調整豆乳か黒酢の方が好みだ。

「えー、じゃあおれ騙されたのかよー」

「気づけ。ロッドが私の名前を出した時点で気づけ」

「…わかった。今度からロッドがマーカーとなんかしたっていったら、 それは嘘なんだな」

「そういうことにしていい」

めんどくさいから。

「…でも、それだと、外の景色も嘘になるぜ」

飛行船の窓から見下ろせば、青い水面だ。 底にはかつて街だったものが巨大な怪物のように横たわっている。

「嘘のほうが良かったのかもな」





「あんなこと言うぐらいだったら特戦なんかにいなきゃいいんだ。 そうじゃねーの、G?」

「…」

リキッドはぽろぽろと涙をこぼした。

「やった後で後悔なんてよ、そんなん、おれらのせいで死んだ奴はどうすりゃいいんだよ。 あんだけ殺して『嘘だったら』ってさ、そんなん、最低だよ」

素直すぎる。

「おれらはひどいやつなんだから、後ろ向いてぐだぐだ言っちゃだめだよ。 笑ってなきゃだめだよ。前しか見ちゃだめだよ。そんで地獄に落ちるんだよ。 それでも笑ってるんだよ。 おれは、やっと、そういう風にすればいいってわかったのに」

男の子は何でできている?カエルとカタツムリと仔犬の尻尾でできている。 男の子はどうして泣く?目の前の世界をわかれなくて泣く。
リキッドはここに来てはいけなかったのかもしれない。 水の中の街のことなど、知ってはならなかったのかもしれない。

「…」

黙ってリキッドの肩に手を置いた。肩は震えていた。



豪華客船に乗った男が旅に飽き飽きして甲板から身投げするという話は、 あれは、なんだっけ。本で読んだのかテレビで見たのか、でなきゃ悪夢か。 飛び降りたその後の時間の異様な長さ。ざわめく海面。 今までの人生全部反芻しても、まだ墜落は止まない。 でかい虚無に飲み込まれるような感覚だろうか。 青空に浮かぶ俺の飛行船から飛び降りりゃ、さしずめそんな気分になるに違いない。

「リキッド、おい、もう泣くなよ」

トムとジェリーのマンガみたいに、ボートの中にお前のこぼした涙が溢れて 俺たちが溺死したらちょっと面白いぜ。

「泣くなよ」

二人乗りだからな、ありえねえとは言えねえな。

「泣くなっつってんだろ!」

かつぎ上げて、海に放り込んだ。良かったなあ、足下に街があるぜ。 そのままショッピングでもしてろ馬鹿。 折角お前の上司が直々に慰めてやろうと思ったのによ。

「…ぷっはあーっ!ひどいっす隊長!おれ死にかけたっす!」

おお、復活したか。

「『おれらはひどいやつなんだ』って、お前のセリフだろ。Gに聞いたぞ」

「そっすか。ひどいやつかあ…おれ、確かに言いましたね」

「あ、マーカーはな、『一週間黒酢飲んじゃダメの刑』に処したからな、安心しろ」

リキッド、何腕組んで考えこんでんだよ。お前ぶっちゃけ聞いてないだろ。

「うーん…ひどいやつはひどいやつらしくしなきゃな…じゃあさっそく…隊長のクソ野郎!」

言いながら殴りかかってきた。上等だ。

「来いやリキッド、このコンコンチキが!」


転覆したボートはロッドがブツブツ言いながら回収した。

それにしても、あれな、海の水ってしょっぺえのな。