*少年GとGパパの過去話を100%捏造でお届けしております。

辛いのかどうかはわからず、ただ胸が苦しくはあった。 積んである荒縄の上に腰かけたが、納屋の外は夜だったため窓からは何も見えなかった。空気が冷えて湿っていたから、霧が出ていたのかもしれない。

「どうして」

自分でも気づかないうちに呟いていた。

「どうして僕は怒られたんだろう」

衰弱した猫を拾った。暖かくして牛乳を与えた。 一人で世話をするから飼わせて欲しいと頼んだ。それだけの話だったのに。
…いいや、怒られるのに理由なんてないのだ。

あえて言うなら、それは自分が悪い子だからだ。
父の子なのに、てんで出来損ないだからだ。
いい子になりたいのに、なろうとしない怠け者だからだ。
少なくとも父の規定では、そういうことになっているからだ。
だから「余計なことをするな」という父の言いつけを守れない。
あるいは守らない。

猫は近所の老婆に引き取られ、少年の俺は納屋に入れられた。



現在の俺がその時の父の心情を察するに、恐らくこんなものだろう。

「子どもの顔を見るたびに湧き上がる、 あのイライラとも怒りとも嫌悪ともつかない、不快さはなんなんだ」 (それはあなた自身の引け目の表れでしかない)

「俺を見る生意気な目に腹が立つ」(上に同じ)

「なぜ俺に逆らう?」(あなたの認識では、あなたの想定の範疇を超える行為はあなたに対する反逆と同義だ)

「俺を怒らせて楽しいのか?」(俺は成人するまでに幾度となくこう言われた)

「俺を恐れないのか?俺の暴力的性向を」(あなたはそんな粗暴な手段で子どもを恐れさせたかったのか?)

「俺が駄目な男だと言いたいのか?」(あなたの息子はそこまで残酷ではない。当時も今も)

「俺はあいつの唯一の父親なんじゃないのか!」(疑う余地もなくそうだ。我々はよく似ている)

「あいつは一体俺を愛しているのか?」(さあ?)

「あいつは一体俺に愛されたいのか?」(さあ?)

「俺は父を愛していたし愛されたいと思いもしたのに」(それはあなたが墓場まで持っていくべき事柄だ)

「何がどう間違ってこんなことになったんだ!」(…さあ?)

…俺の見たところ、父はえらく単純な男だ。 他人に内実があるということに気づきもしないような。



手の甲を眺めた。壁板のささくれでひっかいてしまったのだ。 血は出ていないかと思ったのだが、いかんせん電灯もついていない納屋は暗い。
目を閉じて、手の甲にできた傷を想像した。じんわりと血のにじんだ、浅い傷。 放っておいてもすぐ消えるような軽い傷のはずなのに、とても痛い。
暗い中でじっとしていたから、余計痛みがしみたのかもしれない。 ひりひりする手をもう一度眺めて、少年の俺は考え始める。

父さんと僕が仲良くできる方法はないんだろうか?

答えは見つからないまま傷だけが疼く。



乱暴に揺り起こされて目が覚めた。

「もう部屋に戻れ」

カンテラを持った父だった(それにしても前時代的な家庭だ)。

「お前、その血はどうした」

あらためてカンテラの明かりに照らされると、傷は結構な大きさに見えた。 血はすでに随分前に止まっていたが、乾いた血痕がシャツにまでこびり付いている。

「すみません、シャツを汚してしまって」

「バカ、シャツよりお前だ。手当てするから来い」

居間のテーブルには夕食の残りが置いてあった。 母の姿はなかったから、もう寝室で休んでいたのだろう。
椅子に座らされ、消毒液で傷口を拭われながら、父の顔をまじまじと見た。

「痛むか」

「いえ、平気です」

目が合った。そのまま黙っていた。

「…自分の子どもの血を見るのは、いい気分じゃないな」

「たいした怪我じゃないです」

きれいに洗われた傷口は、もう塞がりかけている。

「それでもだ。心臓が張り裂けそうになる」



手を伸ばした。そうすることが当たり前のような気がしたのだ。
そのまま父の首に腕を回して抱きしめた。 最初からそうすれば良かったのだ、父がそうしなかったのなら。
父の額に口付けた。頑固で単純で不器用で、しかし時折は愛しい父の額に。

彼は大層嫌そうな顔をしていた。