※ミウチ君の作です。

入隊して三ヶ月経ったけどいまだに慣れない。
下ネタが命より大事なイタリア人(オレはさいしょイギリスとイタリアを混同してて、 じゃあ隊長と同じ国っすねって言ったら大爆笑された。しょーがねーじゃんバカでも、 オレ純粋無垢なヤンキーなんだから)、 イヤミ言わせたら天下無双の中国人(語尾に「アル」とか付けねーんだな、今時の中国人って)、 二人がかりでオレのこといじめるんだぜ。ひどくね?
上司は上司でわけわかんねえし。
今朝なんかさ、テレビで「タートルズ」観ながらさ、

「サムライとニンジャってよぉ、どっちが強いわけ?やっぱニンジャか? サムライは変な布使って隠れたりできねえもんなあ〜」

とか言いながら酒臭い息吹きかけてきやがった。最悪!居心地最悪!

もうあれだ、オレの唯一の心の安らぎは土曜朝九時から始まるデ●ズニーアニメ。 ああ、オレの「ディズ●ーのグリム童話」、「スリーピーホロウ」、「メロディタイム」、 「ファン・アンド・ファンシー・フリー」、「三銃士」、「アーサー王伝説」、「ロビン・フッド」。
癒しだよなあ。あんな夢あふるるモン作るんだからスゲーよな、 ●ィズニー。オレ高二まで七夕の願い事「ディズ●ーになりたい」だったもんなあ。 叶ってねえなあ、マイドリーム。どっちかっつうと今ここにいることが悪い夢だし。



Gが話しかけてきた。戦車のエンジンみてーな重低音ボイスだ。きっとそうなんだと思う。 オレ戦車乗ったことねえからわっかんねえけど。

「おい」

「えっ!あ、ハイ!何すか!?あ、このぬいぐるみっすか!? ここのボタン押すとちゃんとドナルドの声で挨拶してくれるんっすよ、 スゴイっすよね! で、このゼンマイ回すと歩き出して…」

オレちょっとびびりすぎて意味不明になった。だって普段話さねーもん。 G、こえーもん。ワダイとかねーもん。困るよ。

「ぬいぐるみの話じゃない、仕事の話だ」

「へっ…す、スイマセン」

はっずかしー!

「お前と組むことになった」

はっずかしー!はっずかしー!もういや!飛べる!死ねる!…って、え?
今なんて言った?



Gと組むとか、正直、気まずい。
セスナの発着場に来てからこっち、胃がしくしくしてしょうがない。
揚げ足取られるのも笑われるのも皮肉言われるのももういい加減平気になったけど、 会話がない状況は、ほんと、気まずい。
だって、怖いじゃん。相手がなに考えてるのかわかんないって。
無口なやつってそんだけ情報を相手に与えないってことじゃん。
与えたくないってことじゃん。
それって、相手に関心がないってことじゃん。
怖い。

「生きて帰って来いよぉリキッド、そしたら隊長さまがご褒美に熱いキッスしてやんぜ、 いっちょ濃厚なのをなぁ〜!」

ケケケ、と怪鳥のような不気味な笑い声をもらしつつ、上司は手を振ってきた。
ちっ、いい気なもんだぜ。こっちはタラップ踏んでる足がガクガク震えてるってのによ。

「アルコール依存症でそのまま肝硬変にでもなってろオヤジ!」

ぼそっと呟いただけのつもりなのに、どういう耳してやがるんだか、ばっちり鼓膜に響いたらしい。

「おいおいリッちゃん、隊長さまにそんなクチきいちゃいけねえなあ、 今のおめーのアティチュードは、非礼無礼失礼の豪華三点セットてんこもりじゃねえか!」

うるせーな!
窓ガラスごしに思いっきり中指立てて舌出してやった。どうせ生きて帰れる気がしねえしよ。



肝心の任務でオレが何したかって、あんま、覚えてない。
さぞかしジャマしまくったんだろうなあとは思う。
地図は読み間違えるし、偵察に行きゃ見つかるし。役立ったのはせいぜいオトリとしてだ。
それでもGはなんにも言わない。もしかして呆れて物が言えないのかもしれない。
これがロッドだったらオレの無能さをあげつらって罵倒して大笑いして、 帰りのヘリの中はさぞ賑やかになるだろう。 マーカーだったら一日じゅう説教だ。体罰だーとか言って燃やされるかもしんねえ。


なあ、なんか言ってくんねえかな、G。
おねがいだよ。
叱るんでも殴るんでもなんでもいいよ。

「あの、オレ、すんません、いろいろ、ダメで…」

「最初から何でもこなせる人間なんかいない。要はこれからだ」

よかった。口きいてくれた!
ほっとしたとこで気が付いた。

「あの、手、血ィ出てるっすよ」

本人気づいてなかったみたいだ。あらためて手を見て本当だとか言ってる。

「手当て、しますね」

「すまん」

オレ、そんぐらいのことしかできねえし。

包帯巻かれてない方の手をしばらくごそごそさせた後、Gはオレの前になにかを差し出した。

「うわぁ、かわいいっすねえ〜!」

小さい頃大好きだった覚えがある、クマの形のカラフルなグミだった。
一個口に入れる。甘い。バカみてーに甘い。小さい頃のオレはどういう味覚してたんだよ!と 突っ込みたくなるぐらい甘い。でも止まらない。気が付いたらぜんぶ食ってた。

ぽん、と音がして、あったかくてでかいもんが、頭にのっかった。Gの手だ。

「今日はよくやったな。新米にしては上出来だったぞ」

…ほめられたんだ。オレ、ほめられたんだ!
ノドがつまった。ぐぅとかそういう変な音が出た。鼻の奥が熱い。息がうまくできねえ。 ああオレは泣いてるな、みっともないなと思って、でも涙は止まんなかった。 Gはずっと頭を撫でていてくれた。