*PAPUWA外伝「ハーレム編」に基づいたネタです。
*隊長とマーカーの会話にちょろっと出てきた「特戦を去った闘牛士」のキャラを捏造しています。
新入りのスペイン人はハンサムだ。
出会って第一声が
「黙って街歩いてるだけで女の子が携帯の番号書いたメモくれるんですよね、はは」
だったりするくせにハンサムだ。
マンガに出てくるオツム空っぽなイケメンそのまんま。
周りからは激しく突き上げ食らってる感濃厚。
しかも本人なんで嫌われるのか分かってないにちがいない。
多分そもそも嫌われてる自覚なしだ。
そんでもってワイルドで彫りの深い美男なんだ。
絵に描いたようなキャラもいるもんだよねー!
って感心ばっかしてるわけにはいかない。
こんなんが新しい同僚になったわけだ。
よく雇うよなこういうのを。世界のキャラ物制覇でも狙ってんのかな隊長。
オレは良くないと思う。うんと良くない。
だってこいつ、自分は世界の王様だって思ってる。
自分以外の人間は道具だって。
話し方見ればわかるよ、さっきからこいつ自分の話しかしない。
オレが喋ろうとしても割り込んでくる。
質問してきても、こっちが答え言う前に話題変える。
上ずってもオドオドしてもいない。
だから、緊張してヘンな風にしか喋れないわけじゃない。
ずっとこうなんだ。
ふん。
気に食わねえ。
ゴーマンで馴れ馴れしくて甘ちゃんでオレのことナメてて、
すっげーやな奴!
そりゃ隊長はいいよな、痛い子観察すんの好きだもんな。
だけどさ、オレの胸に生じた不安はどーしてくれんだよ。
マーカー面食いなんだよ。
●
「闘牛のクライマックスは、俗に真実の瞬間…LA HORA DE LA VERDADと呼ばれる場面にあります。赤い布で牛の動きを牽制しつつ、剣で首の後ろを刺し、大動脈と大静脈を切断するのです。できるかぎり完璧に美しい死を与えねばなりません。
苦しみの少ない、絵画のような、ドラマティックな死を」
よくもまぁ立て板に水流したようにぺらぺら舌が動くもんだ。
履歴書の趣味の項目には「ナンパ」と書いてあるに違いない。
数十回、いや数百回は繰り返したんだろう、流暢な薀蓄。
セクシーなスペイン訛り。
有効だろうな。相手が聞いてさえいれば。私は開始後一分で欠伸が出たが。
これならロッドの方がまだましだ。燃やせば済む。
「あ、あの…!どこへ?」
ほー。もしかしたらお前の口上は私に向かってやっとったのか。
てっきり外出のための予行練習だと思った。
「餌をやってくる」
「え、ペット飼ってるんですか?」
「似たようなもんだ」
ただし、ペットといえるような可愛げのある物体ではない。
実態はなぜか三日前突然現れて以来物置を占拠し、
以来そこにこもって出てこようとしない弟子だ。
どうも何かひどくショッキングな出来事があったらしいが、
私はことさら突っ込みたくないし抉り出したくもないし
同情したくもないし心配したくもないし早い話めんどいので、
食料だけ三度三度与えて後は放っておいている。
「アラシヤマ、食い物だ」
一山50ペンスのスモモを袋ごと投げる。
「おおきに」
一応言語能力はまだ残っているようだ。
「ペット…あれが?」
付いてきとったのか闘牛男。
「心を患っていてな、可哀相な子なんだ」
「師匠…誤解招くで、そのイントロダクション」
腐る一歩手前まで熟しきったスモモの皮を手でむきながら弟子が
のそのそと廊下に出てきた。
「新入りの方本気にしてまうやないの」
「一抹の真実は含まれとると思うがな」
「わてがビョーキなら師匠はビョーキの専売公社やわ。
人のこと純粋培養のヒッキーにしくさって。
本部では、わての友達は、いつも会議室におったドラセナのヒラサワくんだけやったんに…ううっ、ヒラサワくん…!」
「ヒラサワくんがどうした」
「総帥令息が、間違うて、あろうことか液体肥料を原液で…みるみるうちに青かった葉が萎み始めて…そのまま帰らぬ植物に…」
そうか。ドラセナとは観葉植物のことか。
●
夕飯は新米就任を祝ってスペイン料理の出前を取った。
ほんっと優しい隊長様だよなぁ俺は!
新米もな、予想通りマーカーに食いついてやがるしな。
あいつから出てるミョーなフェロモン考えたら妥当な展開だけどな。
あー面白いったらねぇよ。
「あのヘンな人って、先輩のお弟子さん…なんですか」
「誰に似たのか奇人でな。あれで顔が良くなきゃ泥沼だ」
「はぁ…」
新入り、早速戸惑ってるみてぇだな。無理もねーか。
あのノーティーリトルアジアンズ相手にしちゃな。
さってと、新入りの観察日誌用にカワイイ牛さん模様のノートも買ったし、これでしばらくは退屈しないで済みそうだぜ。
ことに期待できるのはロッドの反応だな。
自分のカリカチュアみてーなラテン系たらし登場だもんな。
アイデンティティの危機って奴だな。けけけ。
こりゃ、ロッド観察日誌の方も、五冊目のノート必要かもなあ?
「そういや名前を聞いてなかったな。私はマーカーだ」
「俺、ロメオって言います。あなたの運命の男にしてください!」
「なりたきゃ勝手になれ。…このサフランライス、味がせんな。G、塩くれ」
苦虫噛み潰したみてぇな顔すっとガキとか泣き出しそうな怖さだなG。
ロッドはロッドでロッド史上最高に凶悪なツラしてるしよ。
「マーカー、こんど二人でいっしょにナポリの郷土料理食べに行こうぜ!味が濃ゆすぎて喉焼けそうなやつ!」
おお、ロッドが健気に対抗したぜ!
あんだよG、微妙な目でこっち見て。
俺がこーゆー上司だってことは重々承知の助だろうが。
●
冷淡さがそそるわけだ。
落とすまでの過程が楽しいわけだ。
簡単に篭絡できるようならそもそも相手にしない。
そういう点であの中国人は実にイイ。
ゆうべ二人で飲んだときも、
何を考えてあるいは感じているのかさっぱり読めなかった。
今まで出会ったことのなかったタイプの性格の人間と寝るのは大好きだ。
コレクションが増えるような感じだろうか。
「あっらぁ〜、表情筋緩ませちゃって、楽しそうだねぇ新入りくん」
考え事をしながら今月号のプレイボーイ読んでたら、
同僚のタレ目が絡んできた。どうもこいつは俺のことが気に食わないらしい。
「ええ、ステキな出会いがあったもんで」
「いいねぇ〜。ちいさな恋のメロディってやつぅ?」
「や、恋っていうか、ラブアフェアでしょ。普通に考えて。
あれと付き合うとか正直キツイですよ」
なーに青筋立ててんだ、イナカモンかこいつは。
「ああ、オアソビなんだ」
「オアソビなんだーって…先輩もしかして本気なんですか?
あれ相手に?…まさかね、はははっ」
室内だっていうのに風が湧いて、タレ目の中途半端な色の金髪を巻き上げた。
「ああん?」
肺が言うことをきかない。いや…、空気が渦を巻いて俺に逆らっている。
「オレの聞き間違い、かな?…いやぁ、ありえねぇブジョクが聞こえたなぁ…」
「ひっ…先輩、何ですか、大人げないっすよ!そんな下らないことで!」
ちょっと顔がキレイだからって、あんな異常性格者が何だっていうんだ!
「あー…言っちゃった」
巻頭グラビアのプレイメイトがにっこり笑って見守る中での、恐怖体験。
●
青痣生傷タンコブ包帯まみれの新入りがベッドで不貞腐れている。
まったく、さっきのアレはおいしいショーだったぜ。
ドアの隙間から観察してた俺としても思わず白熱しちまった。
「あのな新入り」
タヌキ寝入りすんなよ、恥の上塗りだぜ?
「俺よぉ、前"ぢゃぱん"行ったときよぉ、マジ感動した食い物があんだよ。
ヨシノヤっつぅファーストフードチェーンのギュードンっつうメニューなんだけどよ、
薄くスライスして焼いた牛肉がライスの上に乗っかってんだ」
「…」
「マジ旨い、マジ感動。でさぁ、オレ二十杯目つゆだくで食いながら考えたんだよ。
この食い物は世界に普及させるべきじゃないかって。
むしろギュードン布教はオレの使命なんじゃないかって」
「…」
「んな訳でだなぁ、
お前にも栄えあるギュードン布教運動の一端を担わせてやろうと思うんだよ。
具体的に言うとぉ、来週末までに牛八千頭の調達をガンマ特戦部隊長の権限において命じる」
「勘弁してください!」
やっぱ起きてんじゃねえか。
「あんたにもあんたの部下にも付いていけません!辞めさせて貰います!」
●
「別れの挨拶する間もなかったじゃないか。慌しい辞職もあったもんだ。
隊長の理不尽?あんなものは理由じゃないだろ。言い訳するな。私の目を見ろ。お前が原因だろ」
「ちがうよぉ」
「ばかっ」
頭叩かれた。でも言わない。
「何がそんなに気に食わなかったんだ?」
言っちゃだめなんだよ、きみにだけは。
「まったく、大人げないやつだ」
うん、いいよ、あきれて。ほんとは、できれば、チューしてほしいとこなんだけど。
●
窓の外を雲が流れてゆく。爽快で自由で、どこか寂しい。
牛模様のノートは殆ど白紙のまま、隊長室の床に転がっている。
「…G、どうも大人げねえのは俺もおんなじみてぇだわ。
あの闘牛士のビックリ発言のときな、俺左手すでに眼魔砲の構えだったもん」
「ええ、驚きました」
英国人は棺桶に入るときも冗談を言うような冷笑的なものだと思っていたので。
「光る球体がばっちり出現していましたね」
「あのままぶっ放しちまってもよかったなぁ」
「飛行船が落ちます」
「小せぇ事気にすんな!男はどーんと行かなきゃよ!どーんと!」
「小さい事ではないです」
あなたは人とはスケールの違う存在だからそんなこと気にも留めないのかもしれないけれど。
「われわれの可愛いマーカーが死にます」