*2005年3月のオンリーで出した小ネタ本の再録です。
俺は軍事オタクだったし、
しがない軍事オタクで終わりたくないと思うぐらい
戦争というイベントを愛していたので、
ガンマ団に入ったことを後悔はしてない。
死んじゃうかもしんないとか大怪我するかもしんないとか、
そういうのもちゃんとわかってた。
でも、いざ自分が死にかけてるとなると、やっぱへこむ。
無線機からは雑音しか聞こえない。
まるで基地を囲い込む濃霧が悪意をもってささやきかけてるようだ。
俺はまたガックリする。このチームが孤立して、今日で何日になるんだ?
空気は濡れていて重くて冷たい。
生き残っている数少ない味方はじっと息を殺している。
もうすぐ敵の中隊が来る。何度も送った救援要請には応答がない。
なにか言ったらそのまま殺し合いが始まりそうな緊張と
なにか言ったら全世界がかき消えてしまいそうな
あやふやさのサンドイッチになって、俺は黙って缶詰を開けた。
油漬けのソーセージは胃に悪いが、あの世に胸焼けはないだろう、きっと。
「うちの会社のパイロットも、流石にこの霧じゃ飛ばないよな」
同期入社したタイ人が呟いた。
切羽詰まって、喋らなきゃ発狂しますって顔だ。
俺はソーセージをそいつの口に押し込んだ。
「よせよせ。天国でプレイメイトといちゃつく事でも考えてろ」
「おれホモだから、マッチョな兄貴の方がいい」
…ソーセージなんか食うんじゃなかった。
●
肌寒い夜だった。
死体みたいに寝っころがってた俺は、
いきなり鳴り響いた轟音に飛び起きた。
本当は哨戒の当番だったのだが、この状況じゃ行かなくても
誰も文句は言わなかったのだ。
「敵さんか!敵さんがドンファン気取りで夜這いに来たのか!」
「いやだああ!オレはまだ嫁入り前だ!バージンなんだ!」
ガンマ団は戦場じゃ嫌われてる。強くて悪いからだ。
なにが悪いって、金で動く。
崇高な使命だとか革命の思想だとかそういうの、ない。
唯一それらしいのが総帥のモットー
「無駄な人口は少ない方がいい」だが、これじゃ何もないよりいけない。
なので、運悪く敵に捕まっちゃったガンマ団員は、
それはもう筆舌に尽くしがたいひどい目にあうのだともっぱらの噂だ。
そうなる前に自分でどうにかした方がいいんだろうかと、
夕べも仲間と話した。
で、その延長として、俺は自分の死に方について、
なるたけ苦しくなさそうなのを急いで考えた。
「カミカゼ自殺アタックよろしく、小型爆弾でも腹に仕込む?」
まあ、多少、なにかが飛び散るだろうけど。
「…待てよ、様子が変だ」
言われてみれば、轟音の発生地はかなり遠いようだった。
「すっげー、見ろよ、森が燃えてる」
炎が空を赤く染めていた。とんだデートスポットだ。
基地の周囲の森があらかた燃えてしまった頃に、雨が降り出した。
派手な音を立てて炎は消えていく。白い水蒸気の柱が立ち上る。
どでかい見世物。
見とれていると、背後から声がした。
「おい、命の恩人にコーヒー。インスタントで我慢してやるよ」
ずぶ濡れの男が、ごつい手をひらひらさせる。
黒い革スーツで、ヒラ団員に対して偉そうで、一人で一個中隊をやっつける。
ナマで見るのは初めてだけれど、特戦部隊の人間に違いなかった。
「ついでにオレのことあっためてよ。さむくて死にそう」
「……えっ?」
戦争屋の中でも一番おっかないと評判の部隊で働く兄ちゃんが、
カップ受け取ってにやりと笑う。近くで見ると、ただのタレ目だ。
そんでもって愛敬がある。
おかしい、俺はそういう趣味とかないはずなのに、
その笑い顔がへんに気になる。
何を言ったらいいのか。それとも何も言っちゃいけないのか。
困っているとそのまま寝床に押し倒された。
濡れた革が顎に触れる。
仲間の皆さんがそそくさと外へ出て行くのが見えた。
ヤマもオチも意味もない喜劇みたいだ。頼むから痛くしないでほしいなあ。
●
「彼は天性のハンター。あんたはただの獲物。
夜にはよろしくやるだろうけど、朝になりゃさよなら。そんなもんさ」
翌朝タイ人が朝飯を作りながら言った。その通りだと思う。
彼は俺が眠っている(というか気絶している)間に行ってしまった。
お互いの名前も知らないまま。
目を閉じた。消し炭になった森の残像が瞼に映る。
とんだロストバージンだ。
いつも以上に好き勝手やっててすいません。
イベントだからってちょっと調子こきました。