Gは小さな納屋の中にいる。彼はいらなくなった食器や壊れたコーヒーメーカーが入っている箱の上に腰掛けていた。目の前にはガタガタの椅子があった。その上には特価品のハムのようなピンク色をしたバラたちが座っていた。天井の裸電球から腹と耳のところだけギンガムチェックの布地でできている小さなクマが自分の顔よりでかいタバコをふかしながらでてきた。

「やあ、久しぶりだね」

クマが声を出した。それは奇妙な機械音だった。

「本当にしばらくだね。…きみってそんなに大きかった?」

そう言われたとたんGの背はどんどん縮んでいった。

「きみの父さんなら来てないぞ」つづいてタバコが呟いた。

「だからオレはこんなクマ野郎に吸われてるのだ」

「あら、残念ね、会ってハグやキスをしたかったでしょうに」

ピンクのバラのうちの一つ、まだ蕾のやつ、が花びらから虫歯を覗かせながら彼に言った。
いやらしいやつめ!彼は花びらをむしろうと思い、蕾をつかもうとした。

「いたっ」

手の甲から血がでていた。噛まれたのだ。それも虫歯に。

「なにすんのよ!あんた、アタシを怒らせて楽しいわけ?」

口調こそ違うが、それは彼の父親の口癖だった。バラたちはヒステリックにきゃははと笑った。手の甲の傷はあのときと同じように疼いた。

「おっと、いけない留守電が入った」

そう言ったクマのギンガムチェックの布地がびりびりと裂け、中から一回り小さいクマの首が笑顔をだしてきた。ノイズだらけの機械音がコグマの笑顔の奥底から響いてくる。

「…用件を一件さいせ…ます。『…れは昔、母さ…お前の代わり…してしまっ』」

「う、うわあっ」

納屋から逃げ出そうとする彼の前に巨大な鋏が立ちはだかった。チョキチョキという音とともに柔らかい髪の毛がばさばさ降ってきた。

「これで枕でも作ればいい。あの頃の夢が見れるさ、幸せだったんだろ?ホントは?」

殴りかかろうとしたものの、彼は逆に鋏に捕まり、チョキチョキ切られてしまった。
仕方ないので、彼は体の切断面から魂だけカラスのかたちにして出し、納屋から飛んで逃げた。



Gは砂漠に行った。そこなら彼を邪魔するものはいないと思ったからだ。
しばらく飛んでいると、右腕だけヘビになってしまった青年を見つけた。彼はエビに襲われていた。助けるつもりはなかったが、見捨てるのも後味が悪いと思い、面倒だが地上に降りていった。そしてエビをつつき、青年を背に乗せて空に飛んでいった。

「あの新種のエビの主食はな、ヘビなんだ」彼の背で深刻そうに青年は呟いた。

「たすけてくれてありがとう」青年の右腕のヘビがGにささやいた。

彼は生き物に感謝されるのがしごく久しぶりだったのでうれしくなった。うれしいという感情をもてるくらいに自分はマトモなのだと彼は大分安心した。

気分が高揚してきたので、カーカーとそれなりにカラスらしく彼は鳴いてみた。

「どうした?」

「夢から覚めたくないんだ。このまま飛びつけられればいいのに」

「全くだ、私も同じ気持ちだ」

「そんなこというなよ」ヘビが青年を軽くたしなめた。

彼らはそのまま海まで行った。ほかに行き場がなかったのだ。海ではタンカーが座礁し、周辺に原油が流れ出ていた。地平線から太陽が昇ってきた。夜は終わった。

「うつくしいな」青年が言った。

「そうか?よくわからない。風は心地いいが」Gは答えた。

しばらく沈黙が続いた後、彼らは同時に言った。

「お前とここにこれてよかった」

太陽はらんらんと輝いていた。それは気持ち悪いくらい黄色く輝いていた。
もう、目を覚まさなければならない。
そう思ってGは眠りから覚めた。
隣でマーカーが彼の腕にしがみつきながら寝ていたのでそれを勢いよくベリっとはがし、彼は洗面台へ向かった。