「何でロッドは私のこと好きなんだ?」

オレはマーカーに向かってとんでもなく嫌そうな顔をしてみせた。 せっかくの昼休みをそんなネタでつぶさないでほしい。

「知り合ってもう3年は経つけど、 オレあんたのこと好きとか言ったことあったっけ」

本気で記憶にない。

「なかったっけ。よくわからん。じゃ、今言うのでいい。言えよ。ホレ」

あんたもあやふやなのか。なおかつテキトーなのか。

「やだよ」

「臆病者」

「あんたイイ靴はいてるとき水たまりよけて歩く奴のこと臆病者って言うわけ?」

「私は水たまりか」

「ドロたまりかもね」

はまったら抜けられないところとか。

「いいじゃないか言いたいんだよ『何でお前私のこと好きなんだ?』って。 答えろよウソ八百でいいから。お前得意だろ」

ふん。オレは自分のいま着てるシャツを指差した。 おしゃれなロゴの文面は『ファック・ユー・ファッキン・ファック』。 あんたにこの愛のメッセージが伝わるといいね。

マーカーはうらみがましい蛇のような目でオレをにらみつつ吐き捨てた。

「クソ野郎」

知るか。



「ほら、アタシ、普通じゃ言わないようなことも平気で言っちゃうの!」
「人とはちょっと違うアタシかっこいいでしょ!」
「非常識?空気読めない?そんなの知らない!」
「だってアタシはこんな変わった子なの!理解されなくて大変なのよ!」
「アタシの高尚な禅問答に付き合ってくれる、感性のとんがったアナタなら、 アタシの恋人にしてあげてもいいわ!」

さっきのマーカーからオレが感じた匂いを、あえて言うならこんなとこだ。
オレとしては、「あ、そう。だから何?」と思うしかない。
ゲテモノにてんで興味のないオレにどうしろってんだ?
「すごいね」「君って個性的だ」「オレの理想だ」とでもオレが言うと思ってる?
それとも跪いて崇め奉るとか?
「君を世間の無理解な連中から守るよ」とボディガード気取りで囁くとか?

んなわけねーだろ!あんたの豊かな感受性がなんだってんだ?
オレはあんたみたいな奴見るとすげームカつくんだよ。

バカのくせにオレをバカにすんじゃねーよ!



「なんで私がロッドにバカにされなきゃならんのだ。なげかわしい」

「まあ…アンタがバカなのは事実ですしねえ」

「どいつもこいつも人を見ればバカ呼ばわりしやがって。 そんなに私をいじめて遊びたいのか。」

高松はコーヒーの入ったマグカップを私の頭に乗せた。 どうせ私の頭なんかテーブル並の無価値さだよ。そうだよ。ぺっ。

「みんなアンタが好きなんですよ」

「好きか。そうか。便利な免罪符だな。高松…好きっ!」

平手かまそうとした手を掴まれた。思いのほか素早い野郎だ。

「ここで私相手にうだうだしててもしょうがないでしょうが。 殴るならロッド君にしなさいロッド君に」

「嫌だ。ロッド私のことバカにしてるから、私がロッド殴っても 『ああバカなマーカーがなんかやってるな』って思うだけだ。 『マーカーはバカって言われて怒ったんだな』という発想すらせんのだ。 あいつに自分の思考様式を客観的に見るなんて高度なことはできんからな。 そーやっていつまでも妙な色眼鏡かけて私のこと見続けるんだ。 バカはどっちだ、まったく。 タスマニアデビルを百発殴ったようなツラのくせに」

「でもアンタ、そのタスマニアなんだかを百回どうにかした物体が好きなんでしょう」

「うん。可能ならば撲殺したいぐらいには」

「じゃあもういいんじゃないですか、どうでも」



いきなり扉が開いたので若干びっくりしましたが、 入ってきたのは予想通りロッド君でした。

「マーカー!」

らんらんと光る目の色から察するに廊下で立ち聞きしていたようです。
他人事ながら、マーカーは本当にこんな男でかまわないのでしょうか?

「ちょっと確認させろ」

そう言うとマーカーの肩を抑えつけました。 どうもこの医務室の主である私のことは見えていないらしい。

「人に物を尋ねるときはもっと低姿勢になるものだぞタスマニア」

「簡単に言うと、あんたはオレのことが好きでオレに好かれたいんだな?」

「聞けよ他人の話を。なかんずく、私の話を」

当惑したようにそう言いながらも、マーカーはどこか嬉しそうなのです。

「そうなんだな?」

ああ、ついにマーカーの頬が染まった。

「…」



「マーカー、コショウ取ってくんねえ?」

「はい」

コショウの受け渡しは結構なんだけどよ、なんでそんな不必要に手握り合ってんだよ。 見交わす目と目の間には星が流れてるしよ。プチ月世界旅行だな。 勘弁してくれ朝っぱらから。お前ら揃って上司に嫌がらせですか。

「あとで、一緒に買い物行くか」

「行く…」

キラッキラしてる!すんごいキラッキラしてる!いや!キモい!

「どうしたんですか隊長、頭痛でも?」

「なんでもねーよ。ただ、急に修道院に入りたくなった」

「表の池にでもはまってて下さい。今なら鴨の繁殖期ですから たくさん友達できますよ、きっと」

そうだな。鴨の方が人間より好ましいかもな。 年中発情したりしねえもんな。