金曜日の午前一時きっかりに鍵を回して扉を開ける。 ロッドはいつもマーカーちゃんはズボラだの合理的じゃないだの 言うが、なろうと思えば几帳面になれるんだ私だって。
古いパイプ椅子に座って待つ。Gは必ず五分遅れる。 その五分の間私が味わうであろう不安や焦りや歓喜や もろもろを想定して、五分遅れる。 頭の良さをそういうふうに使う男なのだ。

作り物の支配と従属にひたるのは心地いい。
すべての世界は舞台で、男も女も役者だ。
小奇麗にまとまった平和な筋書きはいらない。
演じるのなら、多少破綻していても刺激のある芝居がいい。

私はGを見つめる。無音の中にお互いの息遣いだけがある。 もはや日常だとか掃除当番だとか そろそろテーブルの上に夕食の残り物を放置しとくと危険な時期だなあとか 明日こそ夏物のカーテンを買いに行くぞとか そういうこと一切は私達の頭にない。 足が一本壊れた机の、引き出しの一番下を開けた。 中には彼が買ってくれた首輪がしまわれている。 口に咥えて彼のもとへ持っていけば、彼が首にかけてくれる。 金具の冷たさと彼の手の暖かさがあいまった心地良さに、 うっとりと目を閉じた。



蛾の繭を割ったことがある。 一生懸命集めて、四つ持ってたから、一つだけ。
どうしても、どうなってるのか知りたかったんだ。
結局繭の中身はぐちゃぐちゃして見られたもんじゃなかったけどよ。 頭抱えたね、ちっちゃい頃の俺は。
だって、割らなかった繭からは蛾がでてきてんだよ。 ちゃんと、羽も生えて。何食わねえ顔で。
世の中俺の見えてないとこで勝手に回ってやがるって、 そう思ったよ。実際そうなんだけどな。

しかし何だってドア半分開けたままで始めるんだよお前ら。 廊下に声が漏れてますよ。
なんだ、ポルノによくある 「あ、いや…」「ふふ、ここなら誰も来ないよ…」ってやつか。 誰も来ないどころじゃねえよ。俺が来たよ。
割った繭の中身に触ったときのねばっとした感じ。今ああいう気分。



「ああ、そうなの、首輪はマーカーの希望なの」

ベッドに座り込んだ隊長は足を組み替えながら言った。

「はい。これ付けてるとめちゃくちゃ燃えます」

「うんうん、良かったな」

この人をこうやって喋らせているのは何だろう。 廊下に漏れた声を無視させなかったのは。
単なるお節介だろうか。 性的な関心だろうか。それとも。

「じゃ、続けて。俺見学してるから」

驚く俺を尻目に、マーカーは満面の笑顔を見せた。

「よろしいんですか、隊長。木っ端微塵に壊れるかもしれませんよ」

「何が。お前らの仲が?」

「隊長の品性が」

横で聞いている俺は冷や汗をかいたが、隊長自身は憤る様子もない。

「あ、大丈夫。俺の品性、すごい頑丈にできてるから。 百人乗っても壊れないってウワサ」



五時間煮込んだ朝食用の白粥も食うのは十分だ。 それはいいがどうして常に粥にイチゴジャムをかけるのだこの上司は。 英国人か。英国人のたしなみという奴か。 味を想像しただけで吐きそうだ。 気を紛らわすために口を開いてみた。

「結局、ゆうべ隊長は何をなさりたかったんですか?」

「え…何かしてほしかった?煽ったり言葉責めしたりしてほしかった?」

いいえ、それよりも今、口の中のものを飲み込んでから喋ってほしい。

「隊長の言葉責めって逆に萎えそうなんで遠慮します」

正直でいるってのは、人間関係を良好に維持するためには必須だよな。うん。

「だろ?俺アドリブってダメなんだよ。才能ねえの」

「でも、見てるだけで良かったんですか?私はてっきり隊長も参加したかったのかと」

「いや、そういうわけじゃねーよ…蛾ができるまでが見たかったんだ。 でも、まあ、大体分かった」

「よかったですね。 私も第三者に見られるというおいしいプレイで、 もうありえないぐらい燃えたんで満足です」

これだけ噛みあってない会話を交わしておきながら、上司と部下でいられ続ける のだから不思議だ。誰かが、見えないところでネジを回しているに違いない。