私の職場はおよそ子供向けではない殺風景な場所だから、
8つの誕生日をやっと迎えた弟子にも大したことはしてやれない。
とりあえず普段中々休ませてやれないのだからゆっくり遊ばせようと思い、
飛び立つ前にどこぞで買い求めたクレヨンと紙を与えた。
この際、弟子の内的世界が見てみたかった。
ことりを描いた。うさぎを描いた。
りすを描いた。しかを描いた。たぬきを描いた。
こうもりを描いた。のねずみを描いた。
森の中で彼らは楽しげにリンゴを食べるのだった。
食物連鎖も生態系も無視して。
「お師匠はん、あかいクレヨン、なくなってもうた」
「青リンゴにすりゃいい」
「ああ、そうやわ!お師匠はん、すごいなあ」
言いながらまた描く。言うことなすことやたらませてはいるが、
絵を描いている時はさすがに子供らしい熱中ぶりだ。
「これな、わてと、お師匠はん」
仲の良い動物達の輪からぽつんと離れたところで、
大きなきつねと小さなきつねが蝶を見上げている。
なるほどいい喩えだ。
「わてとお師匠はんは、りんごさん欲しないの。ちょうちょさん見てるほうがええの」
そうかそうかと頷いて頭を撫でてやっていると、ロッドが近寄ってきた。
こいつも私に撫でて欲しいに違いない。
「なぁなぁ、オレのことも描いて!」
「うん、ええよ」
大きなきつねに寄り添うように座る、おおかみ。タレ目なのはご愛嬌だ。
「あらっ、オレ、こんな、カッコいいの?ステキ!」
特大のローストビーフの載った銀の盆を抱えて、隊長が入ってきた。
「いやー誕生日ってのはいいイベントだよなあ!
飲めるし食えるし歌えるし騒げるしなあ!
アラシヤマ、これは隊長様からのお祝いだ!いまGがケーキ持って来るからな!
…お、何だそりゃ」
アラシヤマはこの押しの強い隊長のことを、まだ少し恐れているようで、
息を潜めて私の後ろに隠れてしまった。
「隊長、買出しご苦労様です。これはですね、アラシヤマのアートワークです。
きつねが私とアラシヤマ、オオカミがロッドだそうです」
「ほぉー。うまいもんだな」
テーブルに盆を置いて、隊長は絵を覗き込んだ。
「俺も描いてくれよ」
褒められたのが嬉しいらしい、
アラシヤマはなんだか泣いているようなブサイクな顔になって笑った。
「似てるかなあ」
画面の中央に君臨する、輝くたてがみのライオン。
隊長は目を細めてアラシヤマを抱き上げた。
「いいなあ、おい。気に入ったよ」
そのままアラシヤマをぐるぐると回す。滅多にあげないアラシヤマの歓声が響く中、
馬鹿でかい箱を担いでGが帰ってきた。
「…オメデトウ」
アラシヤマの誕生日のためだけに覚えたぎこちない日本語でつぶやいて、
まだ隊長に持ち上げられたままのアラシヤマの右手をポンと叩いた。
「ね、ね、アラちゃん、Gも描いてよ!オレ見たい!」
「うん、描く!Gはん、どんな動物好き?」
「…クマが好きだが…」
わかった、くまさんな、と呟いて隊長の腕から降り、アラシヤマはご機嫌でクレヨンを走らせ始めた。
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その夜、はしゃぎ疲れて寝入ってしまったアラシヤマをベッドに運んだあと、
壁に絵を貼った。
私もロッドも隊長もGも、もちろんアラシヤマも微笑んでいる。
いい絵だった。