「えー、俺あの女ダメ!!チチでかいだけで頭とかパーじゃん!」

「そっかあ?かわいくね?」

「ダメ!ダメ!ダメですよー!あの女思想も高い意識もなんもねーじゃん、 ただワガママ一杯なだけでさ。 ウツだから仕事行けねーとか自制できなくてデブッたとかプロとしてありえねえし。 吐き気すんだ俺。なんであんなのチヤホヤすんの、ほんと、ワケわかんねえ!!」

聞いててほんとにビールがまずい。最近の新入りはなってねーな。 それでも相槌打ってるだけの方はまだこっちチラチラ見たりしてかわいげあるけどな。 問題は吼えてる方だ。
お前あれだよ、もうちょっと特戦のこわいお兄ちゃんであるこのオレの存在をリスペクトしろよ。 お前らとオレの他には誰もいねーんだからよ。
わかんねーのか、声がでけえんだよ!
食堂のテレビの中ではモノクロの古い映画が進行中だ。モンロー主演の『お熱いのがお好き』。 ちっちゃい頃家族で揃って近所の名画座に観に行ったことがある。 酒ビンをガーターに隠した蓮っ葉なモンローは、いつ観てもはっとするほどきれいだ。
かもしだす雰囲気は不安げで、打ちのめされていて、そしてたまらなく無防備で。

「よくさー、プレイボーイとかで特集組むじゃん。元夫たちのインタビューとかさあ。 読んでるとマジ、ただの被害者ぶったやな女だぜ。でなきゃ本物のバカ」

「あー、…そういう意見もアリですか」

「大体さあ、周りが甘やかすから付け上がるん…」

いや、だめ、もう我慢できない。本気でうるせえ。

「嫌いなわりに熱心にチェックしてんのな」

話しかけて、ポンと肩に手を置いて、ニッコリ笑ってみた。
愕然とした相手の顔から察するに、オレが特戦部隊の奴だってことには気づいたらしい。 どうかしら、怖いかしら。威圧感あるかしら、今のオレ。うふ。

「ところでさあ…話の腰折って悪いんだけどさあ…お前、新入り?イイ体してるよなあ…」

アゴを持ち上げて上に傾けてみた。だいじょーぶ、キスなんてしたくねーから。

「ひっ…あ、あの…勘弁してくださあぁい!」

顔面蒼白になってアタフタと逃げていく。苦労性っぽいお友達も一緒に。
オレは画面の中のモンローに振り向き、彼女が「バーイ、ハニー」と手を振るのに笑顔で応えた。 やっぱり、胸キュンもののかわいさだ!



「バカじゃないか」

「んなこたねーよ!オレは好きな女の名誉を守ったんだよ!」

「バカだ絶対。バカっていうか…オタク?自分の狭い視野の中でちょっとでも意に染まないことが起こると喚きたてる迷惑野郎?」

「…マーカーって悪口うめーよな…」

「お前の同僚やってると、イヤでも上達する」

ふん。かわいくねー奴。

「マリリンはほんとにステキなんだ」

オレはよく、睡眠薬を飲んでも飲んでも眠れなかったマリリンのことを考える。 彼女がなに言おうとしても、周りの反応は「キミ、いい体してるねぇ」だったんだろうなあ、とか。 それってすげー怖いと思う。
怖くて、かわいそうで、でもオレの勝手な感想はマリリン本人の思惑とはてんで関係のない話で…要するにマリリンはステキだ。

「だって、オレがいくら彼女のこと考えててもほっといてくれるし」

「そんなん私だってそうじゃないか」

「オレ、そもそもマーカーのことなんか考えてねーよ」

火とか出さないで。あれ熱いから。お熱いのお好きでも限度あるから。

「ロッド」

「なに」

マーカーの体は小刻みに震えていた。まずい、確かこいつさっき老酒の瓶一つ空けてた。

「私にでかいチチがないからか?そうなのか?ん?」

「いや、チチとかそういう問題じゃねえ」

「じゃあホクロか。あのイヤらしいホクロがないから不満なのか」

「…」

マーカー、かなり本気の目だ。

「だからお前は私のこと考えないのか!」

いや、酔って目が据わってるだけかもしんないけど。

「…マーカー…あのな、お前のこと考えないっていうの…」

オレはマーカーの手をそっと握って、紅潮した顔を覗き込んだ。

「う・そ」

ウソついでに訂正しとくと、オレの「お熱いのがお好き」な性分はどうやら限度がないようだった。