お前と俺とは鏡で映したようにそっくりだ。
あの日俺の横で眠っていた弟よりも、 俺の心臓を握りつぶした兄よりも、 だれよりも、お前は俺に近い。


うれしかった。俺はとても寂しかったから。
お前はとてもきれいだった。お前と見るものならみんなきれいだった。
太陽のまぶしささえいとおしかった。嵐の晩さえここちよかった。
とおい昔から繰り返し見た夢とおなじものをお前は持っていた。
お前は現れるべくして俺の前にあらわれた。
俺たちは呼び合っていた。

お前は俺の願いをかなえてくれた。
俺の願いはお前に会いたいということだったから。
お前は俺のいちばん大事なものだ。

世界のてっぺんにいられたんだ。
幸せすぎて息が詰まりそうになった。
人が知りうる中で最高の瞬間だった。
その気持を何て言ったっていい、そんなことはどうでもいい。
お前が俺を俺にしてくれた、それだけでいい。

得体の知れないものが俺に囁いたんだ、もう今までの世界じゃないって。
鉄骨も土くれも虫も草も楽しそうにざわめいたんだ。
はてしなく落ち着かなくてめちゃくちゃに楽しかった。
この時がずっと続けばいいと思った。
お前さえいれば俺は、もう、なんにも





「なあ、俺のラブレターもしかしてキモい?」

「キモ度で言うと自意識過剰で頭の悪い中学生のポエムってとこですか。 旧かな遣いにして手首を切ってる写真を添えれば完璧ですね」

おめー正直だよなオイ、マーカーよぉ。

「大目に見ろよ、俺ニホンゴうまくねーんだから」

「根底に流れてる意識の話をしてるんです」

隊長がラブレターって時点で何かが決定的に間違ってますね、と言い放って マーカーは高松から日本語習得のためと称して強奪してきた七つの玉を追い求める 某アクション漫画を読みふける作業に戻った。 その漫画、こないだ俺もチラッと見たがかなり笑える代物だ。 主人公の性格設定なんざ秀逸すぎてどこまでギャグなんだかとんとわからねえ。

「この戦いで死んだ奴を全員生き返らせてくれ。ただし、悪いやつは除いてな」

悪いやつときた。悪いやつだぜ。すばらしい。
とてつもない天才なのか不世出の鈍感野郎なのか、 はたまたオツムの中身だけ子供の領分にとどまってんのか。
俺なら何というだろう。少なくともそんな無意味な願いはしない。
どうして再生なんか願うんだ?せっかく壊れたのに。
古い世界の残り滓を引きずって、なにが面白い?

「なぁマーカー」

手紙を書こうがモールス信号を送ろうが届きようのないことは知っている。
あの子は遠い遠いところへ行ってしまった、もう帰らない。
ばかなやつだ。
ひどいやつだ。
俺ひとり、瓦礫の中に置き去りにして。
俺ひとり、悪いやつにして。

「飲もうぜ」



ボーヤめ、とんでもないお荷物を押し付けてくれたものだ。
隊長の醜態ときたら見るに耐えない。
転倒して泣き叫ぶ幼児はいい。離別を嘆く女はいい。 心は屈折していない。痛みをまっすぐはね返す。
しかるにこの男はどうだ。
執着を表に出していなかった。かといって隠してもいなかった。 それで通じているだろうと安穏としていた。ゆがんでいた。
なんて愚かな!
いま彼の中では感情が燻っている。じっと内側から焦がしている。
そのまま燃えてしまえばいい。

はやく、
はやく生まれ変わるといい。
それまでここで見ていよう。
迷いを消し去ったあなたは朝日のように美しいだろう。
破滅に向かうにしても、あたらしい場所へ進むにしても。
ここで見ていよう。
夢を見ながら。

「隊長」

彼のいわゆる「ラブレター」を取り上げる。

「こうすれば天国に届くかもしれませんよ」

指先から出した小さな炎が、A4サイズのレポート用紙に燃え広がる。
煙は香ばしい匂いを放ちながら換気口へ吸い込まれていった。

「なんせボーヤは隊長の天使ですからね」




隊長の恋文はカーペンターズ「トップ・オブ・ザ・ワールド」です。