遠征中だった。戦闘があらかた終わった頃、ひどく傷付いた一人の敵兵と出会った。

乾いた風は強く、削り出した砂埃を高々と舞い上げていた。
彼が俺に気付いたときも、俺が銃を構えた時も、言葉はなかった。 しかし、目の前の男の心臓が激しく波うつ様は見て取れた。 極限まで昂ぶった神経は彼の周りの景色を幾倍も鮮明に、彼の聞く音を幾倍も確かに、彼の嗅ぐ匂いを幾倍も強く、 彼に伝えていたに違いない。
失いそうになった時、はじめて命の痛さが分かる。甘い痛さが。
彼がその痛みを味わうのは、これが最後だ。

「蜜とミルクの流れる河があるんだってよ。どうにもベタベタしそうだよな、あの世って」

「…お前、英語を話すのか」

「インテリなのさ。ロンドンタイムズだって読むぜ」

濃い褐色の額と手の甲からは血が流れていた。血にまみれた顔の中で、目だけが穏やかにこちらを見ていた。

「なあ、見ず知らずのあんたにゃ悪いんだが、最後に言いたいんだ、聞いてくれ」

「なんだ」

「俺は後悔してない。本当に、今、すごくいい気分だ」

夕日は恐ろしく巨大で美しかった。あれは、見る者の魂を焦がそうとしているのかもしれない。



私たちを乗せた飛行船はまた新しい戦場に向かって飛んでいる。雲の中を突っ切って、物も言わず、優雅に。
手持ち無沙汰な私は、ただソファにもたれていた。

「…G、アレを見せてくれ」

「どれだ」

「言っていたろう、ほら、前、作ったと」

Gはああと頷いて私の手を軽く握り、そのまま部屋に連れて行った。

「ここだ」

棚の上の木箱を下ろし、蓋を開けて私に見せる。中には、5センチばかりの大きさの、ワニの彫刻があった。

「凄いじゃないか。これをGが?」

「いや、ただナイフで削っていただけだ。形は勝手にできあがった」

「ふうん…この男の魂はワニだったんだな、きっと」

Gは分かったような分からないような顔をしたが、 それにはお構いなしに私は白いワニを持ち上げて、電灯の光に透かしてみた。

「私の骨からは、何ができると思う?」

「マーカーの骨か…分からないな。考えたこともないし」

いささか戸惑った様子のGに背伸びしてしがみついた。

「まあ何でもいいよ。アルマジロでもカンガルーでもゾウでもキリンでも、大事にしてくれれば」

私がGのコレクションに仲間入りする頃には、白い小さな動物たちで木箱が溢れているだろう。 賑やかなその動物園の中にいたい。年に一度くらいは取り出して眺めて欲しい。
そして、できれば、たまに私のことを思い出して欲しい。