夏至風・かーちべーとは梅雨明け直後の南西風が吹く頃をいう。
紀乃川のおばーに見送られて表に出ると、目の高さに赤いハイビスカ
スと瀬底大橋があった。
この店までは本当ならヒッチハイカーなど決して乗せてはいけない車
に送られてやって来た。まあそのへんは良く言うてーげーというやつだ
が、禁を犯してまでも乗せてくれたその人のためにもこれ以上は口外で
きない。
急坂に背中を蹴飛ばされながら県道まで一度下り、再び大きくアーチ
を描いた大橋を登った。100円の麦わら帽子は生暖かい海風に負けて
役に立たない。島に渡りきるまでにザックを背負った背中は汗でぐしょ
ぐしょになった。
ひと息入れようと喫茶店に寄ると、今日は休みだからただでイイよと
言われ、コーヒーの他にヒラヤーチや豚肉とパパイヤの炒めまでも出さ
れた。
数年前に内地から移住してきたオーナー夫妻の所へ友人たちが訪ねて
きており、今日は店を休みにしてパーティーなのだそうだ。
俺は今朝2時に家を出たので、こんな木陰の縁側に座っていると何も
したくなくなる。
膨れた腹を抱えてテラワークスに行くとショッキーが、これタイラさ
んが持ってきたから飲みなさいといきなりビールを渡してよこした。
タイラさん?誰だよ。
白髪頭の痩せたおやじが穏やかに笑っていた。
タイラさんはねー、カヤックが好きでねー。
ショッキーは何度もそう言った。きっとそれはタイラさんに対する最
高の誉め言葉なのだろう。
今度こそ縁側でビールを飲んでのんびりと思ったら、木村さん行くよ
と声がかかった。
どこへ?
せっかくタイラさんが来たのだから海に行きましょう。
せっかくも何も、タイラさんは地元の人でしょう。いつだってカヤッ
クなんてできるでしょうに。
いやもこうもなかった。もう夕方だというのにおじさん3人は海に行
き、思い思いのカヤックを浮かべたのだった。
しかしこんなことができるなんて間違いなくシアワセなのだ。
ショッキーはスタンディング・アップ・パドル・ボード、簡単に言う
とサーフボードに立ってパドルで漕いで進むというものを最近始めた。
その姿はまるでレレレのおじさんのようだが、スピードはカヤックと
遜色なく、サーフィンまでできてしまうという優れものなのだ。
これで7キロ痩せたサー。木村さんも後でやりましょうねー。
黒光りする背中の筋肉を盛り上げるとショッキーは夕日に向かって漕
ぎ去った。
光る波間にアジサシがダイブを繰り返していた。
俺が引っ越ししたばかりのテラワークス「瀬底の家」の最初の宿泊者
になった。大工のタイラさんと二人で山羊小屋を改築したゲストハウス
だった。
俺も知床にいた頃、仲間たちと鶏小屋を改築して宴会小屋を作った。
チョコ、ミッコ、テツロー、ヘイタイ、アミアゲ etc 。みんな日本全
国からやって来て楽しくやっては、また全国へ散って行く。
あの頃は別れてもまたすぐに会えると信じていた。
まだ旅しているバカは、俺だけかも知れないな。
そんな夢を見る間もなく眠りに着いた。
アカショウビンの声で目が覚めた。声を頼りに追いかけてみるが近づ
くと逃げるの繰り返しでなかなかシャッターチャンスがない。
ヒョロヒョロヒョロヒョロ〜と半音ずつ下がりながら鳴くのは雌を呼
んでいる時のようで、俺の姿を見つけるとゲッゲッとカエルのように鳴
きながら逃げて行く。
そのうちに島影から容赦のない太陽が昇ってじりじり照りつけだした。
ドラキュラの気持ちが痛いほどわかる瞬間だ。
もうダメと戻りかけた時、電線の上に敵は静かに立っていた。逃げる
そぶりはない。そして胸をあげると朝日を浴びてその赤い翼がさらに朱
色に染まった。
神々しい時間は僅かだったが初めてカワセミを見た時に劣らないほど
に感動した。
嘉陽から通い慣れたヌーファの浜までカヤックを出す。
嘉陽小は昨年の映画「サウスバウンド」で使われた。俺はその前の浜
で1週間ほどキャンプしたので、ことのほか思い入れがあるのだ。
この嘉陽小もご多分に漏れず過疎化の影響で今年度一杯で廃校になっ
てしまう。
昨年の台風で崖が崩れ、植物もだいぶ被害を受けたらしい。それでも
やっぱりやんばるの海は素晴らしいと思えるのは我々の他に人影がない
からだろう。
以前フラットだった浜も台風のせいでだいぶ地形が変わっていた。あ
の時は大勢で浮き球野球をして新年を迎えたのだ。
タープからのぞいた空は突き抜けるように青く、銀色の雲が眩しい。
波できれいに磨かれた珊瑚が転がっていた。柔らかな白い球体によく
見ると珊瑚虫ひとつひとつの模様が菊の花のように浮き出ている。
ミキちゃんのお土産にしよう。
最近ミキちゃんには何をやっても嫌われるばかりだ。ことの始まりが
手作りには手作りと、お弁当のお返しに似顔絵のアニメーションを描い
たのだが、どうもそれが気に入らなかったようだ。
話の流れから特攻服姿にチェーンを回させたのだが、あくまでもギャ
グで、そんなに怒らなくても良いだろう思うのだが。
そしてそれを取り直そうとして吐いた言葉がさらに墓穴を掘ってしま
い、セクハラとまで言われてしまった。
俺にとってその言葉は核兵器級に強烈で、当分立ち直れそうにない。
このまま沖縄の砂のように細かく砕けて海に沈んでしまいたい。
「そりゃ、俺だって男だから全くいやらしい気持ちを持ったことはない
なんて言いませんよ。」
ドン!(机を激しく叩く音)
また夏になるとグリーンのサブリナパンツと素足が良いんだなあ、こ
れが。
うっ、またセクハラと言われてしまう。
俺は沖縄にまで来て何を考えているんだ!
夢中で吹いているうちにハーモニカを囓ってどんどん小さくなってし
まうトモミちゃんも、ドレスが大きすぎてピアノを弾いているうちに下
がってしまうユウも、本人たちはみんな自分のアニメが面白いと喜んで
くれたのに・・・。
もっと大きい方が効果があるかな。
気に入ってもらえないと心配なのでさらに2個3個と拾った。
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