8月4日
7時出航。空は厚い雲に覆われポツポツ雨が降っている。
波は少しある程度だ。
やっぱりいつものように、天は味方してはくれなかった。
そんなことを思いながら曇天の海に漕ぎ出した。
ホロベツ河口ではマスを狙う釣り人々が竿を出している。
ブユニ岬から沖に向かって定置網が伸びている。船はさ
らに沖を迂回しなければならないが、軽いカヌーは網の上
を乗り越えて行ける。
網に沿って並ぶオレンジの浮き玉の間を抜ける。
ブユニ岬をかわし乙女の涙。波が静かなら湾の奥の滝下
まで行ってみたいが、今日は止め。
それに先を急ぎたい気持ちがある。
「象岩」を過ぎると岩尾別河口が見えてきた。
天気が回復してきた。
知床五湖の断崖の下を行く。海鳥が騒がしい。ウミウが
慌てて飛び去る。
小さな湾に入っていくとさっそくケイマ=足 フレ=赤い、
その名のとおりのケイマフリが小魚をくわえてお出迎えだ。
飛び立つときに赤い足を目一杯バタつかせて助走する。
湾を囲む断崖に縦長の二つの洞窟が並んでいた。恐る恐る
その一つに入っていくと奥がロータリーのように広くなっ
ていた。
断崖を眺めながらの快適なパドリングが続く。
エエイシレト岬を越えると断崖がいったん低くなる。そこ
に流れるイダシベツ川の河口で爺さんが一人マスを釣って
いた。
このおやじ、クマが怖くはないのだろうか。
カムイワッカの滝。前回はこの沖でイルカが現れて併走し
た。
目を懲らすが今日は出てこない。
漕ぎ出して3時間半。硫黄川(ヨコウシペツ)の浜に上陸し
ようと近づくと浜から煙が上っている。さらに接近すると
テントらしきものが見える。
兵庫のシーカヤッカー、辻中ちゃんとピーターが迎えてく
れた。
浜の後ろの断崖から2本の川が滝となって落ち込み、その
景観はジュラシックパークのオープニングシーンのようだ。
近くで見るとさらに迫力を増す。
彼等はこんな素晴らしいところでキャンプしていたのだ。
焚き火の上にウニとマスを載せて盛大なバーベキュー。
マスの脂が跳ねて落ちる。腹身を狙って口に運ぶ。
美味い。
パリパリの皮とその下の脂。ビールが瞬く間になくなる。
「クマだ。」
海岸の草地を小熊を2頭連れたヒグマが草藪の中に消え
るところだった。
次の浜でも、でかいヤツが1頭いた。
今度は静かに、舟を波に任せて近づいていく。
敵は何も気づかずに草の根を食べている。
50m程近づきおっさんがカメラを構えたとき、クマが
こっちを見た。完全におっさんとクマの目が会った。
時間が止まった。
しばらくしてクマは何事も無かったかのように草原をゆっ
くりと歩き出し、林の奥深く消えていった。
ルシャまで来た。ここは知床半島の風の通り道。
風の強いときは「ルシャの吹き出し」といって、海は波立
ち、空にはジェット気流のような雲が遠くの沖まで伸びる。
今日は大したこと無い。
しかしさすがに漁師も恐れる難所、近づくに連れて風が吹
き付けてきた。その風もリズムが不規則で油断できない。
知床岳が間近に見える。緑のササの斜面が山頂まで続き簡
単に行けそうだ。でも実際はヤブまたヤブの連続だ。
いつかは行ってみたい。
タキノ川(チャラッセナイ)の番屋に上陸して小休止した後
アウンモイ番屋を目指す。この辺りから再び断崖が迫って
きた。
崖の上に大きな鳥が停まっている。幼鳥なのでオオワシか
オジロワシかは区別がつかないが、どっちにしろアイヌに
とってはカムイ、空の神様だ。
断崖から横に突き出た岩はウミウのアパートになっていて、
巣の中では子供が餌を求めて泣いている。
カシュニの滝。前回はここで強風に叩かれたが、それを乗
り切ってかなり自信をつけた。
滝の真下は天然の修行の場になっていて、カヌーに乗った
まま滝に打たれることができる。
アウンモイ番屋が見えてきた。
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