山の端から朝日が顔を出すと一気に暑くなった。日差しが肌を
突き通し骨まで日焼けしそうだ。
ようやく舟が組み上がったときには全身汗でびっしょりと濡れ
ていた。
10時。景気づけのビールを飲んで出航しようとすると観光客
のカップルが一緒に写真に写って欲しいという。勿論悪い気はし
ないので、一番いい顔をして写真に収まった。
鏡のように静かな海に漕ぎ出した。
こんなに快適でいいのかな。いつも初日は大荒れなのに。そん
な不安もかき消すほどの穏やかで美しい海だ。
小さな岬をかわすと前方に二つの島が現れた。外離(そとばな
り)島と内離(うちばなり)島だ。
リーフの外に出ることになるがまだ湾内だ、波も穏やかだろう。
最短距離をとって島の間を抜けていこう。
海岸線から離れると急に南風が左舷から吹き付けてきた。波も
少し大きくなった。今までの経験からすると大したことはないは
ずだが、3ヶ月ぶりの海に緊張する。早く島の間に入りたい。
怖々漕いでいると海の色がマリンブルーからエメラルドグリー
ンに変わってきた。またリーフの中に入ったのだ。ここは珊瑚礁
の中、水深も1m程で沈しても安心だ。
島の間に入った。外離島から内離島に向かって砂州が延びてい
る。白い砂が眩しい。
水深がさらに浅くなりパドルが底に当たるるようになった。砂
地なので舟が傷つく恐れはないが、深みを探りながら進む。干潮
になると二つの島は歩いて渡れるようだ。
間を抜けるとまた波が出てきた。しかしもう慣れてきたので落
ち着いたものである。海の色が再びマリーンブルーになる。
ゴリラ岩の下の灯台付近を人が歩いているのが見える。何処へ
行くのだろう。全員がザックを背負っている。
ゴリラ岩を廻った途端風が強く吹き付けてきた。正面には東海
大の海洋研究所が間近に見える。
最後の人家だ。このまま先に進んでももろに南風を受けるだけ
だ、初日にこんなに進めただけでもラッキーだ。難所のパイミ崎
は明日の朝凪を狙うことにして、網取湾の奥に入り干潟のミナミ
コメツキガニを見よう。干潮が2時なので時間も丁度良い。
網取湾は南に山を背負っているはずなのに、その山を越えて強
烈に風が吹き下ろしてくる。
漕いでも漕いでも進んで行かない。併走する6人組は道のない
海岸の岩場を歩いているはずなのに、彼らと俺のカヌーの進みは
一緒だ。
やっとの思いで湾の奥、今も見る間に潮の退いていく砂地に着
いた。
いつの間にかしだいに潮が満ちてきた。海洋研究所に行く。
教授らしき人に聞くと、水は使っていいがキャンプは敷地の外
でしてくれと言われる。少し戻るとストリームがあるという。
浜に行きその背後のストリームはと見ると、ただの汚れた水た
まりだった。そしてそこには今まで見たこともない程大きいトン
トンミー(ミナミトビハゼ)が、俺の姿に驚きバシャバシャと逃げ
まわっている。
東海大では水たまりのことをストリームというのか!
夜、テントの外はギャッギャッギャッ、ホーホーと様々な鳴き
声が響いている。まるでアマゾンか何処かでキャンプしている気
分だ。外に出てみると真正面に北極星が出ている。柄杓の形の北
斗七星の口がそれを指している。そして時間の経つに連れてはっ
きりと角度が変わっていくのが判る。柄杓の柄を右にして、口を
真下に向けると午前0時だ。
以後、北斗七星の位置で時間を推測して船乗り気分を楽しんだ。
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