ボイジャー415・さなえ1号は、風を斬って順調に行く。空は今ま
で一番の快晴。
重なる慶良間の島々が舟を進めるにつれて少しずつ動いて見え、
まるでスペクタクル映画の大画面だ。
ドーダという気持ちで出発した浜を振り返ると、只一人見送って
くれたミシガンねぇーちゃんもいなくなっていた。
ただ白い砂とエメラルドグリーンの海だけ。4日もいたのですこし
センチメンタルになった。
港をまわって安室島との狭い瀬を抜けて行く。砂州が延びていて
干潮の時は座間味から歩いて渡れるらしい。いま見ても水深 1〜2
メートルぐらいで、浅すぎて舟を壊さないかと心配だ。
流れがあまり早くないので安心だ。
渡嘉敷島もはっきり見えてきた。
安室島の東にまわり南下する。
難所といわれる平瀬(ひらじ)の岩が白い波を被っている。少々
不安だが舟を進めて行くと海の底から不思議なアワがゴボゴボと上
がり、それが舟と併走している。
サメか。
そういえば、こっちではサメ避けに舟の底を白黒縞ゼブラ模様に
塗ると聞いた。
そうしておかなかったことを後悔した。
前方に船が止まっていた。ダイバーの出すエアーだった。
渡嘉敷島より座間味島を望む
数10メートル先でサーベルのように尖ったダツが、シッポだけで
立ち上がって横切って行った。やつらにぶつかられたらこんなナイ
ロンの舟などたちまち穴が空いて沈んでしまう。
首に突き刺さって死んだ漁師もいるらしい。
ひたすらこっちにくんナと祈った。
渡嘉敷までおよそ5キロ。
しかしだんだん南風が強くなってきた。それに今は上げ潮。海流
に逆らって漕ぐことになる。
左手の夫婦岩を沈めてしまう勢いで潮が巻いている。
あまり近づくないようにしよう。
いつも漕ぐときに口ずさんでいる、「翼の折れたエンジェル」も
唄う余裕がなくなった。
進路を渡嘉敷の一番近い浜にとる。今度は風と波が真横から押し
寄せてくる。
平瀬をぬけていよいよ海峡の核心部、波はますます高くなってき
た。
でも平気さ。礼文島ではこれよりずっと大きい波を越えた。さな
え1号はとっても強いんだ。
と自分に言い聞かせる前に次の波が来た。
波のてっぺんの手前では舟は戻され、それを越えると前に滑り落
ちるようにわずかに進む。地震でいうS波(横波)状態で進むわけ
だからとても遅いのだ。
口の中がカラカラに渇いてかなりキンチョーしている。
カヌーのなかの下半身はいわゆるアグラ状態である。ヒザを横に
張り出し、腿を舟にしっかりつけて安定をとる。しかも久々のソロ
航海に力んだままこの体勢を2時間も続けてきたので、足がジンジン
痺れてきた。
そしてラダーペダルを踏んだ時に乗せていた右足がはずれて伸び
きってしまった。足が麻痺してもういちどペダルに戻すことができ
ない。
大波に揺られるなか、もう今にも心臓が口から飛び出しそうだ。
落ち着け。そしてなんとかしなければ。
さなえのラダーペダルは、使わないとき中立にするためにゴムで
繋がっている。
ということは、踏んで操作するペダルを引いてもラダーは動くわ
けである。
押しても駄目ならひいてみな・・・
うまくいった。
しかし曲がりたい方向と逆のペダルを爪先にひっかけて引くとい
う難解な作業をしなければで、進路がくるくる定まらない。
さっきの余裕も20秒と続かなかった。
対岸までおよそ2キロになった。
海の中に自分の目標を作り、そこまで行けばなんとかなると言い
聞かせ、とにかく漕ぐ。景色を見る余裕なんて全くなかった。
はねた波が目に入って痛い。
顔を拭く余裕もない。
他人に、泣いたの?なんて聞かれたらイヤだな。
なんとか島まで100メートルくらいに近づいた。
波が小さくなった。
風はまだ強いが後は島に沿って南下し、遠くに見える高台の銀色
キノコ展望台をまわれば阿波連キャンプ場だ。
うりずんの風を切って。

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